青年放浪記   作:mZu

14 / 257
第14話

紅魔館の門前では一人の女性が立っていた。

 

その女性は紅く長い髪を切り詰めた冷たい風で遊ばせていた。その名は紅美鈴。その紅魔館と呼ばれる館の門番として今日は厳重に警戒していた。館主からは今日は誰も入れぬよう、と伝えられている。任務を全うしようと偶に居眠りするような門番でも今日は鋭い眼差しを周りに見せつけていた。人では門のような人物は箒で近づいてくる二人組を見逃さなかった。

 

しかし、空中におり本人は手を出せないようだったが何とも思っていなかった。その館に居候している魔女によって空間を捻じ曲げる結界が張られている。故に門を通るしか中に入る事は出来なかった。その事に気づくまでは彼女は待ちぼうけをしている。あまり嘲笑をしたりなどせず、正々堂々としている様はまさに武人を思わせた。後ろで腕を組み、来たるべき客人を追い返すべく立ち塞がる。するとどうだろうか。急に一人の男が空から降りてきた。

 

「お身体は大丈夫ですか?」

赤髪の女性からは心配の声が上がった。青年は何ともない様子で地に伏せていた。何というか体全体で落ちてきた割には変な受け身を取り地面にへばりついている青年が体勢を戻すまで待っていた。

 

「気にするな。偶に馬鹿やるから体が慣れている。」

青年は平然と答えた。門番にとっては普通の人間のような風貌をしていたが、余りそうでもないらしい。纏っているオーラがそんな事を伝えている。門番は確かに気を使う程度の能力を有しており、ある程度なら相手がどの程度か見定める事ができる。だからこそ、どのような相手にも抜け目がない目をする。

 

「そのようですね。ご無事で何よりです。今日はどのような要件でいらっしゃったのですか?」

門番は丁寧に部外者を歓迎しているような口ぶりだが、目だけはそうではない事を伝えていた。疑いを持ち、余裕を見せようとしない。青年はその体勢から起き上がる。流石に体の節々に支障をきたす可能性がある。

 

「それは今から来る魔法使いに聞いてくれ。ついでに言うが半ば強引につれてこられた。」

青年はケラケラと軽く笑っていた。ちょっとした遊戯かのように楽しくしているが、別に害はなさそうだと門番は感じた。腰の二本の剣を装備しているが、余り脅威を感じない。不思議な雰囲気を持つ青年だと感じた。

 

「ところで、武人の方ですか?」

門番はその魔法使いが現れるまでの間少しでも客人らしき人を楽しませようと聞いてみた。青年は急に笑みをこぼすのをやめた。

 

「いや、持っているだけだ。何か特別秀でているわけではない。」

青年は笑みをなくした割には軽々しく話していた。何か興味がないような、相手から話しかけられたので何となく言葉を出しているだけのように門番は感じた。

 

「確かに妖怪に襲われると大変ですよね。」

門番は最近人里で妖怪に襲われる事が多くなった事が噂になっているのを知っていた。青年を人間であると確信したからこそ、世話話程度に話してみる。

 

「それが、一度も襲われた事がなくてな。」

青年は疑問を持っていた。それは気を感じ取る事が出来るのでそう思った。顔からはよく分からない。何せ何も変わっている様子が見受けられないからだ。

 

「それは運が良かったですね。」

門番は褒めているかのように話を進める。確かに何処に住んでいるかはどうであれ、一度も会わないのは偶然と言うべきか、そのようにしていたのか。

「そうか。そんなに怖いものなのか?」

青年は門番の言葉に耳を傾けてはいなかった。それどころか妖怪について見くびっている言い方をしている。門番は心配になり顎に指を押し当てる。

 

「確かに用心しておくと良いでしょう。折角ですので刀剣による武術を習う事をお勧めします。人里に幾つかありますのでそちらの方に参られるとよろしいでしょう。」

門番は余り殺生を好まなかった。人の血を見るのは好きではないらしい。顔を知っている人だとそれは尚更である。青年が自身を守るための方法を伝えたつもりだった。

 

「考えておく。」

青年の目は天を仰いでいた。門番の言葉は軽々しく受け流されてしまった。興味がないわけではないだろうと青年の纏っている気から知れた。

 

「話は終わったか?」

魔理沙は箒を既に上空で旋回させていた。丁度門番の真上である。結界を使いながら上手い事高度を保っていたらしい。

 

「一応な。魔理沙が後は進めてくれ。」

青年は魔理沙と呼んでいた黒帽子から覗かせるウェーブのかかった黄色髪の少女の後ろの方へと歩いて行った。落ち着いていると言うよりかは放浪しているかのような身のこなし方をしている。

「単刀直入に言うと霧の立ち込めている原因が此処にあると思うから通して欲しいぜ。」

青年は思った。魔理沙は人に頼み事もできないのか、と。もう少し言い方を変えたら快く通してくれるかも知れなかった。

 

「生憎ですが、今日はお嬢様に館に人を入れぬようと言われております。折角足を運んで頂きましたのに誠に失礼とは思いますが、今日はお帰り願いたいです。」

門番は丁寧に魔理沙に対して帰るように伝えた。確かに門番の言いたい事は裏の事情はどうであれ、正しいと思えた。

 

「今日のところは帰ろう。時期が悪かったようだ。」

青年は魔理沙に小声で伝える。青年としては正直帰りたかったがその事は伝えるつもりはない。

 

「それは出来ないな。」

魔理沙はスカートのポケットらしき所から八卦炉を取り出した。何をするのかと言えば、一つしかない。

 

「強行突破だ!」

魔理沙は門番に向かって楽しそうに左で持ち、八卦炉の吹き出し口を向けた。

 

「マスタースパーク!」

八卦炉から出された炎は赤色にはならず白色となっていた。相当の威力を八卦炉から出しているらしい。やれやれと青年は思った。門番はもちろん後ろにある建物も破壊するのかと思った。門番はどうしているかと言えば、そのマスタースパークと言って魔理沙が放った白い光線の下をかなり低姿勢で走り寄っていた。その重心の低さと足運びの華麗さが相当の手慣れである事を示していた。魔理沙は何も気付いていなかった。流石に反応は難しいだろう、そんなふうに考えていそうだった。門番は慢心している魔理沙の目の前まで来ると左脚を踏み出した右の手のひらを空へと向けた。何処を狙うといえば、顎だろう。門番は確実に動きを止めるために死なない程度の打撃しか加えないようだ。かなり手荒な行為ではあると思う。

 

「危ない。」

門番の突き出した手は金属の棒により防がれた。そして門番は右手を振るいながら真剣な眼差しを魔理沙ではなく後ろの青年に向けた。

 

「流石です。しかし妙な武器の使い方ですね。」

門番は油断のない目をしながら、ゆっくりと後ろに下がる。青年には剣があった。一刀足の間合いには入らないように門番は脚をスッ、と移動させた。右手を突き出して平たく相手に突き出していた。左手では拳を握りしめて今にも撃たんとしていた。

 

「余り手荒な真似はしないでほしい。すんなりと通してくれたら何もするつもりはない。」

青年はもうどうにもなれ、と思い始めた。正直自分の力を見ておきたいと言うものもある。魔理沙やアリスは純魔法である。霊夢についてはどのような戦術を持ち合わせているかは見た事はない。香霖は護身術なら学んでいそうである。折角来たのだ、少し試してみるのも悪くないと思っていた。

 

「それは出来ない、と先ほど忠告したつもりです。それでも向かってくると言うのであれば此方も全力で追い返しますよ。」

門番は左手に力を込めている。これから大きな技でも撃つつもりだろう、とそれが分からぬような生き方はしていなかった。青年は魔理沙の後ろに居たのを右横に移動させた。門番はほんの少しだけ標的をずらした。

 

「本当はそうして欲しいんだが、微妙に気が変わった。」

青年は剣を何故か手慣れた様子でくるくると手のひらで回した。魔理沙にとってその光景は異様としか言えなかった。如何してか?魔理沙は知っている。拾いものの武器を何となく腰に備えているだけだと。

 

「そうですか。誠に残念ですが強引にでも湖に叩き落としましょう。」

此処は絶湖の孤島だった。何か飛び移れる場所があれば良かったが、そんな甘えが通じるほど状況は良くなかった。魔理沙の箒を使えば何とかなるとは思う。

 

「軽々しくしてくれると信じているぜ。」

青年は両脚を大きく横に広げていた。左脚がほんの少しだけ前に出ていた。柄に両手を添えて左手の親指が鍔に触れている。青年の耳の位置から剣が垂れ下げるように門番の腹あたりをを切っ先が差していた。

 

門番はどうしたかと言えば、忠告はして警告もして迷う事はなかった。後悔してももう遅いと思っていた。門番は拳を前へと突き出した。青年は魔理沙を右手で押して自身もその反動を利用して間を通らせた。気功と呼べれそうな波動が空気を伝い青年へ届いていた。青年は脚を地面に吸い付かせていつのまにか小指が鍔に触れていた。その時間、一秒ぐらいだろう。

 

「それなりに心得はあるようですね。」

門番はその賢明な判断を評価した。青年は知るか、とばかりに興味がなさそうだった。逆に感心する。

 

「体が勝手に動いただけだ。」

青年は適当には誤魔化す。本当に興味がなさそうだった。門番はその異様な立ち振る舞いに眉に唾をつけた。奇妙なのだ。そういわせるほどに青年には謎の気迫があった。

 

「そのように見えませんね。」

門番はきっぱりと断る。そんな訳がないと門番は自分に言い聞かせる。何かの間違いだ、そう思わないと駄目だった。青年は門番のその言葉を間に受けたのか堂々とし始めた。

 

そして吸い付かせていた脚をいつも通りに戻す。それから左手で刀を持ち、右胸に柄頭を押し付けていた。切っ先はやはり門番に向いていた。門番はどうにも違うように感じていた。門番と青年の間は十尺ぐらいだろう。どちらかが二歩、三歩進めば相手に攻撃を当てる事は可能かも知れない。それはそうする気はないし、その気にならないだろう。門番はそう感じた。青年はそこを敢えて縮めようとしている。

 

馬鹿なのか、作戦のうちなのか門番としては迷うところであった。隙と言えば左肩を狙えば刀を落とすもしれないし、そもそも守りもしていない。とても大きい弱点を敢えて見せているように感じた。門番は一歩出たら当たるような距離で青年の左肩を大人気なく狙った。門番は肩透かしされ、異様な持ち方のお陰で逆に首を狙われる。門番は首を後ろに引いて体を使って刃を避けた。それから一歩下がる。

 

「読みにくいですね。相当な手慣れでしょう。」

門番は自分から見て右側へと歩いた。青年も同じ方向に歩き始める。間合いに利があるのは青年だが、門番が本来の力を使えば余裕で倒せる。

 

「それは人による。お前はどうだ?」

青年は褒めてもらっているはずなのに関心がなさそうだった。そして敢えて門番に聞くという変な事を言い出した。

 

「さぁ、其処までは分かりませんね。」

青年が変わった持ち方をしている剣が門番の動きを制限していた。見えているのだが、少しずつ手の内で回しているようで常に刃が向いている、そんな状況だった。一周か、二周した頃だろう。青年が攻撃を仕掛ける。左手による斜め下への真っ直ぐな突きを門番は左肩を使って半身で避ける。一番近くにある右手でガラ空きである身体に攻撃を仕掛ける。それに関しては青年はわざと当ててくる。門番はもう一度距離を開けたところで詰める。左脚による腰のあたりを狙った中段蹴り。

 

青年は体を動かして後ろに下がる。先ほどから出て来ていない右手に何かを持っていると思っていた。しかし、思った瞬間には青年から出て来ていた。まるで読んでいるかのようだった。今度は右手に持ち替えて右肩に背負う。何がしたいのか具体的には門番には分からなかった。挑発の一種だろうと門番は手を出そうとはしなかった。青年は遂に動き始めた。右肩に背負っていた刀を思い切り振り下ろした。人が変わったかのような刀の振り方に門番は右肩を後ろにさせて半身になる。

 

そして青年の右胸を押す。青年は体勢を崩して脚を下げて距離をとる。門番は更に右肩を一緒に下げていた右脚で左足で踏み込んでから青年を逃さぬように膝蹴りを見舞う。青年は刀と拳で受け切る。かなりの威力のようで青年は地煙を上げていた。

 

「こうでもないとな。門番はやっぱり務まらないか。」

青年は急に言葉を発し始めた。間合いは一刀足と少しだろうと見た。門番としては来てもらう方が安全だろうと考えた。

 

「ちゃんと手は抜いているので、ご安心ください。」

門番はやはり本気ではなかったようだ。得体の知れない敵に真っ向から勝負はしないというのが門番としてのポリシーであった。相手の動きを見て嫌がる一撃を見舞う。それが戦法である。相手の出方を伺いながら戦闘を進める門番にとっては最もやりにくいタイプとも言える。気紛れで振り続ける初心者のような人、目の前の人だった。

 

「そうか。正直帰りたいんだが、負けを認めるのも癪に触る。一回やめにしよう。」

門番は首を傾げて、怪しい言動がないか見定めていた。そもそも門番も追い出したいとは思えど殺したいなどとも思っていなかった。折角来て貰ったのだから、と善意が前にある心優しい人だった。

 

「それも良いでしょう。」

門番は青年の言葉に甘える。しかし怪しげな言動がないかは常に目を光らせていた。一瞬の隙さえもない。武人としていつの場でも気を抜かないのは日頃の鍛錬の一つとも言える。だからこそ眠っていても構わないというわけである。

 

「しかし、この紅い霧は何のために出しているんだ。」

青年はまるで此処から出ているかのように話していた。門番はこの言動に眉を動かす。勝手に犯人扱いしているのだ。そうなるのが当然とも言えよう。

 

「さて。お嬢様は日光はお嫌いなので閉ざしてしまったようです。」

門番はわざと青年の話に合わせた。それで出方を伺おうというわけである。青年はふーん、と頷く。

 

「だとしたら、随分と我儘の過ぎる行為だと思うな。」

青年は正論を唱える。確かに自分が嫌いだからという理由で他人の迷惑になるような事が控えるべきだと思う。偶に知らず知らずのうちにしている事がないわけでもない。

 

「そうだとしたらですけどね、そこだけはお忘れぬよう。此処ではない可能性もありますので言動にはお気をつけください。」

門番はそのような事を仮定した上で、そうではないと伝えた。しかし一つ疑問が浮かんでいないわけでもなかった。お嬢様は一人も通すなと伝えただけで何をするかなどは伝えられていない。その線もあるのか、と疑いの目が主の方へと向かった。

 

「動機としては十分な気もするがな。」

青年は今の状況とは関係ないことを考え始めていた。大きな爆発の事を密かに考えていた。

 

「そうですかね。だからと言って命令に背くわけにはいきません。せめて私を倒してから門をくぐってください。」

青年が関係ない事を考えていたからなのか、門番に勘付かれていた。門番は胸と腹の真ん中あたりで親指と人差し指を使って三角形を作り上げている。そこから平行に息を吐きながら両腕を動かした。理由は聞かなくても分かる。確実に除去しなくてはならない、まさに変な事を考えていたことは門番は知っているようだった。

 

「いきます。」

もちろん先に動いたのは門番の方であった。力を溜めていたのか初撃から本気で命を刈り取りにくる。二つ分の拳が青年の前まで迫ってきていた。青年と言えば大きく飛び避けた。本当に大げさなほど。門番の青年の動いた方へと体を向けた。いや、それが不味かったというのか反応が出来ても宙に浮いている身体は言うことを聞かなかった。

 

「マスタースパーク。」

青年は八卦炉を門番へと向けていた。放たれた力任せの一撃は門番に直撃した。魔理沙ほどの威力はなかったが門番を怯ませるには十分な威力を出した。門番はその高い威力を有した光線を真正面から受けた。もちろん即死、ではなくその場で倒れた。身体の方は頑丈のようで何ともなさそうだ。

 

「本当に申し訳ない事をした。詫びを入れたい。」

青年は門番の近くへ行くとその場で同じ立ち位置で頭を下げた。

 

「いえ、お気になさらず。これは勝負であって試合ではないですよ。何をしても勝ちは貴方のものです。」

門番はその場で倒れた割には滑らかに口を動かして会話をする。

 

「有り難く通らせてもらう。」

青年は申し訳なさそうにいった。

 

「借りていた。」

魔理沙の元へと向かった青年は丁寧に八卦炉を渡した。

 

「大分威力出たな。流石だぜ。」

魔理沙は何故か嬉しそうにしていた。そして青年も喜ばしく思っていた。先ずは中に入る事ができた。そこからどうするかは今から決める事となった。何もかもそれらしい場所へ行って自力で道を開けた。何だったらどこに居るか門番に聞いてみるのもいいかもしれない、と青年は考えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。