長かった道を終わりを迎えた。その先にあるのはようやく大きな赤い鳥居が見える。
何故か怠そうにしている青年はふと後ろを向いていた。其処から見える景色というのが人里を見下ろすようなそして幻想郷の大半を見渡せるようなそんな景色が後ろを向いてみれば見えていた。青年はもうその景色に見惚れてその場所から動こうとはしなかった。
否、それをしようとはしなかったのは青年がその様な景色を見たことがなかった経験不足なのである。その様な姿を左横で見ていたポニーテールの髪型になっている厄神様である鍵山 雛は微笑ましそうにしていた。子供と大人の二局面を持つ青年の生き様は尊敬するべき点があるのだろうか。
それはどの様に思われようとも気にしないのだろう。青年は一旦人里を見る事をやめると鳥居の真ん中を堂々と入っていった。雛は少し離れてから鳥居の左側を歩いてから守矢神社の境内へと入ってきた。そして青年の横に近づく。
「人が少ないな。」
青年は入ってから開口一番に堂々と口にした。その声には雛と体を縮こませていた。さも当たり前であろう、いきなり失礼な言葉を連ねる青年の言動には。だが青年はその様な事は信じていない、それこそ青年の軸は青年にある。
「朝早いからね。」
わざと吊り上げた笑みをする雛を青年は不思議そうにしてから興味を失った様に捨てるとそのまま歩いていった。その先には本殿と呼ばれる神様が祀られている高床式の建物がある。
その場所まで行くまでに青年はある人に話しかけた。その人は一見人間の様な人物であるが現人神である緑髪の一本の房を前に出していて其処には白い蛇が巻かれている。そして髪留めとしてカエルの様なもので止めていた。服装は巫女らしい格好で白の服に青の縁取りされたもので脇を見せていて独特の袖が付いている。スカートは水玉模様で可愛らしいやつだ。
「早苗、来てみた。」
「こんにちは。本日の参拝ありがとうございます。」
早苗と呼ばれた少女は深々しくお辞儀をしていた。その姿には神としてそれなりの風格のある感じだった。青年は別にその様には思っていなさそうで少々暇しているが待つ事にしている。それがどの様に傾くのかはまあ神が決めるが説得力はまるでない。
「先日は有難うございました。」
早苗は頭を上げてから再度お辞儀をして深い感謝の念を伝えていた。咥え煙草をしている青年は我慢出来ないのか上げろ、と鋭い口調で話すので早苗は怖くなって直ぐに頭を上げた。青年はその様な事は気にしない。相手がどの様な人でも気にしない、そうでもしなければ神と戦ってきたなど笑って言うことができない。
「別に好きな事をやらせてもらった。それだけだ、礼は要らん。」
青年はきっぱりと答えた。その速さ、その判断には青年独自の気迫というものがありエネルギーを持っているかの様に早苗の髪を揺らした。少し不機嫌そうにしている表情の青年には早苗は何と話しかければいいか分からずただただ呆然としていた。
「こんにちは、巫女さん。私は雛と言います。」
其処でスッと話に入ってきたのは青年の隣で身を寄せていた人だった。何かあったのかと青年は妖怪の山の中なので顔は知っているのかと思って気にしていなかったが確かに何かはあったと思われる。
「こんにちは、守矢神社の巫女の早苗です。」
両者は会釈程度に頭を下げているのを隣で見ながらそれが終わるまでは待っていた。
「して、今日は神奈子さんはいないのか?」
青年の本当の目的は其処であるらしい。早苗は一瞬で悟るとすぐに手を引っ張っていた。青年は抵抗する気もなくぴょんぴょんと軽い足取りで向かって行ったのは本殿と勝手に思っている場所だった。
其処で別の方向で引っ張られたので青年は横目に確認すると左手を掴んだのは雛だった。右手を早苗に、左手を雛に掴まれている青年だが特に表情は変えずに迷惑そうにしていた。両端に引っ張られていたらそうなるのだろうと思うだろう。それこそ何が迷惑かと言えば肩の辺りが痛い、それだけに限る。
「私は神奈子様に会わせたいだけですよ。」
その早苗の表情は何処か暗い場所のある笑みで昔からその様な点は全く変わっていなかったのだと思える。青年は昔のことの話を知っているので何とも微妙な気分で見ているのは確かだった。
「ゆっくりと行かせてあげてください。」
力が弱いのか必死に引っ張っている雛は青年の横目には何をしたいのか分からなかった、と言うよりかは何故ここまで二人が必死なのかは理解できないところである。青年はされるがままに時間を過ごす事にした。
「いえいえ、私は神奈子様に、早く、会いたいそうですよ。邪魔する、必要ありませんよね?」
早苗は何かを強調する様な言い方をしているが青年はまた別のことを聞いていた。きっと二人の中で小さな火種が発生するのだろうな、と青年は考えていた。
それこそ他人事かの様にしているがおそらく原因を作っているのは青年であるのだが気にしている様な様子はなかった。まるで自分の世界でしか生きていない、他人に何言われようとも曲げる事はないのだろう。
「ゆっくりと行かせてください。お願いします。」
青年のその辺りから二人の話を聞くのをやめていた。それこそ無心になって話の顛末が訪れるまでは目を閉じて精神を統一していた。それこそ難しいものではあるが。それを成し得るのは青年だからこそできる所業とも言える。青年は目を閉じて両手に感じる生の気を感じ取りながらゆっくりとした時間を過ごしていた。その時間は青年は何も感じることとはしなかった手に伝わる熱も言い合っている声も周りの景色もこの山頂にいると言う山の匂いも。
「ねぇ、どうますか?」
体を揺すぶられてしばらくして青年は口を開いた。早苗と雛は必死にこちらを向いていた。
「話は終わったか。なら俺は神奈子さんのところに行こう。本殿にいるのだろう。」
早苗ははい、と答えただけで青年の行動に呆気にとられていた。それから二人で青年の背中を見ているのでそれに気づいた両者は其処で少し話したのかしていないのかは青年は知らない。そんな頃には既に本殿の襖を開けていた。