手にかけた襖はとても固かった。
しかし青年は一回止めてからゆっくりと気をつけながら開けて中の様子を見ていた。ガタガタと揺れたのが青年には気になったらしく上や下を見て何か邪魔するものでもあったのかと思ったが別にそうでもないらしい。
青年は無意識ながら一気に襖を開けた時に左手を持っていかれて少し体勢を崩した様に思える。
「邪魔する。」
青年は気軽く話して何の許可も得ていないが本殿の襖で囲まれた住人しか、いや神様しか入れない様な場所へと足を踏み入れた。
その場所は意外と質素な部屋で緑色の草と思われるもので編まれた畳を一面に敷いて青年から見て一番奥に神棚の様なものが置かれている。
卓袱台や本棚なも何もない白玉楼の様な雰囲気を青年はふと感じた。日本の良さと言うのは無の中から生まれるものであるのならきっとここに住んでいる神はどれだけの力を持っているのかそれが興味をそそられた。
「自由だな。良いだろう。」
「ヤッホー。」
青紫色の髪をしている如何にも神という注連縄を背中に背負っている赤色の服を着て胡座で座っているのは八坂 神奈子と言う前にもあったことのある人だった。
しかしもう一人の明るい茶色の帽子に目を付いているのが蛙のようである。それから青と白を基調にした服装をしているのとたまに蛙の絵が描いてあるのが何となく青年には理解できないところである。そして帽子の色と同じような金色のショートボブの髪を覗かせている。そして横になっている辺りくつろいでいたのだろうと青年は思った。
「暇そうだな。」
「神ってのは基本的にそう言うものさ。気にしない方がいい。」
神奈子は青年のまるで神として認識されていないかの様な態度には激昂する事はなくただその場に座っていた。どこか怒っている様にも思えるが青年はその事は気にしない。
「ま、そうだねぇ。神奈子の言う通りだよ。」
ころっ、と転がって下から青年の顔を見ている人は守矢神社に祀られているのは確かなのだろうが二人も居るものなのだな、と勝手な想像を膨らませていた。この和やかな雰囲気が漂うので二人は友人ではないにしろ仲が悪いと言う事はなさそうに思える。青年はその二人の間に入ってから少し歩いて反転して正座をしていた。たまに白玉楼でもその様にしていることがある。
「山川、先日の件は済まなかった。」
神奈子は一回だけ咲夜と守矢神社に来た時の事を思い出していた。しかし青年は楽しい思い出の一つとして捉えているらしく神奈子は再度説明していた。その間蛙のような人はそんな二人を面白そうに見ていたと思われる。
「別に。神と戦えるなんて夢にも思わなかった。」
「君は面白いね。神が人間と戦うわけも無いのに。」
蛙のような人は毒を吐く。青年はその方向に首を向けてうん、と強く縦に一回振るとその後に軽く首を振っていた。
「そうなのか。興味が湧いてきた。」
青年の目は確かに輝いていた。それがどのように映ったのかは知らないがただの人間ではないのは神である二人にはもう分かっている事でもある。青年の興奮は何処か狂気じみているのだが二人は優しい目で見ていた。それこそ何が何だかという感じである。
「ところで君は神は信じているのかい。」
「いや、神は信じん。だが神の力は偉大なものだと思っている。」
力強い言葉で堂々と神を否定した青年だが二人の目には蔑む様な事はなさそうに思える。それこそ感心したと言うのか何と言うのか別に悪くしようとは思えない微妙な心の動きがあったのは確か。
「そぉーか、なら私は曳矢 諏訪子だよ。宜しくね。」
諏訪子としてはきっと青年は別に気になる様な存在ではないのだろうと自身でそのように感じることにした。いちいち考えているのも面倒というのか何か変わった事があるとも言えるのか、それは本人にしか知り得ない事であるのか。
「山川だ。」
青年は気楽そうに話しかける。目の前にいるのは神であるという事は青年には関係ないと考えているとは言え、流石の無礼には怒って当然だと思われる。
「先日も会っているから別にその辺りのことは良いよね。君には何か違うと思っているのは言っているわけだし。」
「あ?あぁ、そうらしいな。」
青年はどうにもしっくりとしているような所はないので話しかけている諏訪子も困りかけている。今まで膝ま付いていたはずの人間なんかにここまでされるのも久しく慣れない事であると思われる。ある意味神二人を翻弄している青年なのだがその事に気づくのはいつになるのか本人が感じようとしない限りはいつまでも訪れないと思われる。
「どうだい?神奈子ともう一度やってみないかい?早苗には暫く止めてもらうように頼むから。」
諏訪子は何処か楽しんでいそうな格好をしていた。青年は軽く微笑してから無言で立ち上がる。それから二人の目の前に立つとそこで座り込んだ。その前には神の二人から視線を感じるが何も感じていないかのようで鈍感を超えて無礼なものである。青年は二人の表情を見てから決意を固めたらしい。
「なら、頼もう。だがその前に一つ。諏訪子は今は戦わないのか、それとも戦えないのか。」
青年は左側に首を向けてからそんなことを口走る。すると諏訪子は少し微笑するように黒い顔を浮かばせていた。その表情はきっと青年を小馬鹿にしているようなものであるがその真意はよく分からないものであった。
「戦えない。ここの地を侵入者以外の為には汚せないのさ。」
「俺も一応侵入者になると思うがその点は大丈夫なのか?」
諏訪子は何の心配だ?と聞いていた。それこそ何が言いたいのか其処がどうにもよく分からなかった。青年は軽くさぁ、なとだけ答えて襖から外に出るように立ち上がった。
それから青年は外へと出て行くがその後ろを神奈子は付いていった。後ろの方からのその神としての威圧というのはかなりの物なのだが青年もその辺りは手強いらしく自分のペースでゆっくりとしていた。これから何が起こるとも誰も知らないそれがどこに向かおうとも、どのようになろうともきっと諏訪子の手の中で踊っていただけなのだろうと、青年だけが楽しく神と乱舞していたとしても、すごろくのような状態である。