青年放浪記   作:mZu

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地霊異変
第147話


土埃は意外とすんなりと片付いてしまった。

 

それからその場所には不思議な作品が飾られているわけだが天子の要石による能力だった。青年のその中にいると思われる。天子は緊張感のある眼差しでその造形物を眺めているわけだが本来はその必要はない。本来なら。

 

「アンタ、そこら辺に居るような人間ではないようね。」

土埃は一本の線によって視界が開けられていた。天子にはその一線だけ開いた場所からその場所を覗くとその先には何か特別な事をしているとは思えない青年がいる。

 

衣服の汚れを気にしているのか左手で払っていたがその先に居るはずの天子には気にも留めていなさそうだった。側から見れば異様な光景となっている。それだけ青年が強かったということにもなるのかもしれない。いや、ならないのか。

 

「貴方こそこの石は並大抵のものではないようだ。」

青年は紫煙を吹かせて余裕のある雰囲気のあるのが天子にはどうも癪にさわるのだろう。その青年の行為がわざとなのか素でやっているだけなのかそれを判別するにはまだ時間が足りなさそうだ。天子は流石の青年のその行為には我慢の限界であるらしい。

 

「天人を見下さない事ね。」

天子はその場から地面を蹴り出して大きな一歩を踏み出した。その速さ、その執念は本物であるらしい。標的にしているのはその先にいる青年だった。

 

口には白い紙で包まれた筒を咥えたやる気があるのかないのかどうにもよく分からないような青年は広角を微妙に上げていた。瞬時に其処で天子は感じた。嵌められた、と。

 

「俺は人に傷は付けたくない。だから負けを認めろ。」

天子は瞬時に要石で青年の行動を制限した。そして地面を這うようにしゃがみこんで剣を頭上に掲げた。青年は左腕で要石の回転を止めながら天子の首筋に峰を当てていた。

 

本来なら其処で終わっている。すんなりと認めているはずだった。それは出来ないのは天人としての意地があったからだ。

 

「いいえ、認めないわ。ちゃんと斬ってからそう言いなさい。」

天子は空いていた脇に素早く一撃を与えた。いくら青年と言えどそれを避けられるようなことはなかった。直撃した箇所にはひどい痛みがあるが今はそんな事を言っていられるほど余裕のある状況ではなくなった。

 

其処で初めて左腕一本で剣を握ると切っ先を下げている青年と要石の回転を見ながら余裕そうに立っている天子と言う立場が入れ替わった状態となった。

 

青年はその右側の脇のひどい痛みで右目を少し閉じて険しい表情をしていた。あの剣は人を斬るような事はないがかなりの打撃を与えることのできる代物であるらしい。まさかの一撃には青年もしばらく其処で動くことはできなかった。

 

「強情な人だ。」

力ない声でそう言うだけで何か行動を起こさなかった。それだけで天子は素早く行動に移した。それはそうだろう。弱っているところをつかない戦士はいない。青年は何かを念じていた。天子の右腕から放たれた空から放たれた雷かのような一撃を放つ。天子は勝利を確信した。

 

「終わり!」

天子はそう叫ぶ。青年は左手に引っ付いていた剣を捨てた。その地点に天子の視線は移動した。等加速落下する剣を何にするのだろうか、と天子はその一瞬であるとは言え見ていた。そして考えていた。その時だった。天子の右腕が強く引っ張られたのは。

 

その先には青年の右肩と謎の腹の痛みがあった。天子は左肩と左脇腹の痛みを感じて右腕の引っ張られた方向そのままにうつ伏せでその場に倒れた。そして最後に更なる腹部の痛みに出した事もない声を出す天子は青年によって処置された。

 

これにより一連の異変はようやく終焉を迎えた。それだけで済めばよかったが両者の怪我を治す為の方法は今居る人には無かった。

 

「総領娘様、お体は大丈夫ですか。」

フリルの付いた天女の羽衣をつけていて黒い丸帽子をかぶるロングスカートの永江 衣玖はすぐさま比那名居 天子の元へと駆け寄った。天子は泣きそうな表情をしていた。

 

左肩や全身の打ち傷はまだしもその時に深く刺さった腹部の傷はどうしても我慢出来ないらしい。

 

「うるさいわ。」

天子は衣玖の手を振り払うとその先で片膝を付けている黒髪の青年の元へと歩み寄る。青年は左手で患部なのであろう右脇を抑えていた。そして苦しそうな息を上げていた。

 

「ねぇ、大丈夫だった?私、ムキになってしまったわ。」

天子は優しく声をかける。それこそ青年の痛いという事を理解した上で話しかけているので青年は何が何だか、という変な気分になった。

 

とにかく青年は声には出さなかったが天子には安心させるように手で頑張って伝えた。きっと息を吸うのも辛いのだろう。その間も嫌な声を上げている青年に天子は不安になったのか桃を渡した。何処から出したのかは想像したくない、それに語るべきではない。其処から出した桃を青年に渡した。

 

「総領娘様、それは天界にのみ生えている桃ですよ。確かに治癒効果はありますが人間に渡してしまうのでしょうか。」

衣玖は後ろから一言だけ口を挟んだ。天子は激昂したように後ろを振り返っていた。それだけ必死になっているという事だろうか。それとも全く面識のない衣玖に当たるほどに天界という場所はつまらない場所なのか青年には判断しかねるところがある。

 

「良いわ。私の流儀に反することだもの。これぐらいはしなくちゃいけないわ。」

天子は手慣れた手付きで桃を剥くとそのまま青年の口の中に入れた。その前に咥えていた煙草はすんなりと取られてしまった。仕方がなく左手で持って一口食べた青年は口元を大きく動かしてよく噛んで桃を食していた。とても甘いというものではないが自然由来の優しい味がする、そして鼻から香るそのいい桃のフルーティーな香りは成年に更なる一口をさせた。

 

「有難い。今日はもう付き合えん。今日のところは帰ってくれ。その前に小刀は返してくれ。」

青年は桃を飲み込んでから少し余裕があったのか青年は少しだけ話していた。天子はすんなりと小刀を抜いて青年に渡すがその傷口からは赤い液体がダラダラと出ていた。どうやら抜き方を失敗したらしい。青年はその事を一言伝えたが天子自身は特に気にしているようには見えなかったので青年はそれ以上は何も聞かなかった。

 

「また来るわ。」

天子はそれだけ言うと天界の桃を食べながら天へと帰っていった。

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