射命丸 文の文々。新聞にはこの幻想郷に沢山の季節が混在したという事で「四季異変」という名で皆には知られる事になった。そこには青年と天子の顛末に関しても掲載されていている。
どうやら天子の持つ非想の剣の効果によって人の気質が生まれたらしくこのような四季が生まれたとの事。だが、場所によって季節が変わる原因はまだ解明されていないとされている。
「で、アンタは犯人を逃したのね。」
幻想郷を守るべき博麗神社の巫女である黒髪の赤い衣服をまとった霊夢は天子と一戦したぼさついた黒髪の青年を問いただしていた。
理由はよく分かるが青年は何のことやらとばかりに惚けていた。そもそも妖怪の山に行きたかっただけなのにこう強引に引っ張り出されて神社へと来たので青年はその事で腹を立てているようにも見えなくない。
「天子か、可哀想だったからな。」
青年はどこか霊夢の話を聞いていないようにも感じるのだが気のせいだろうと霊夢は感じた。実際には話などは聞いてないが相槌は打てるらしい。
「可哀想?これを見てもそう思うの?」
後ろには倒壊した母屋がある。その場所は基本的に霊夢の寝泊まりしているところで卓袱台や台所や布団など生活をするのに必要なものが多くあった。もしかしたら札もあの何処かに保管しているのかもしれない。
「何があった。」
青年はそれだけを口にした。理解が追いつかないというのが先に来るがそもそも神が祀られているのであろう寂れた本殿の方は無傷なのである。母屋の方が崩れにくいはずなので今の現状は可笑しい以外の何物でもない。
「こっちが聞きたいわ。アンタが逃したからこうなっているのよ。」
それは八つ当たりだろうと青年は心の中では思ったがパッ、と口に出す事はしなかった。犬のように吠える霊夢に青年としては少し身を引きたいと思われる。
「そうか。なら天界に行くと良い。」
何処にあるのかは知らないし、そもそも永江 衣玖と会った場所も不明なのだが人里の東側であるのは覚えている。その辺りならきっと会える人もいるのだろうと思える。
「天界なんて何処にあるのよ。」
霊夢は当然のように青年に質問した。青年は意外にもさらっ、と答えた。
「知らん。」
青年はそれだけ言って早めに話を切り上げたいのか踵を返してそのまま博麗神社の境内から出ようとする。落ち葉は掃き掃除をされていないのか散乱していて母屋の状態を加味しても汚かった。そして汚れのついた石には神の通る道なのにも関わらず何も手入れはされていないようだ。
「待ちなさいよ。」
霊夢はそう言うが追いかけるような事はしなかった。それよりも母屋の片付けをした方が賢明なのである。その事をしようとしているので既に霊夢の関心は青年には向いていなかった。
博麗神社に連れ去られた後、青年は妖怪の山へと足を進めていた。本来は道案内の通りに進むべきなのだが青年は一度もそれを守った事はない。
脇道から入って川のほうへと出るといつも通りニトリの工房に出るはずだった。その前に先客が現れたので青年はその場で止まった。空には天候と呼べた人物がケラケラと笑いながら青年を指差していた。青年は不審に思いながらも上を見るがすぐに辞めた。高低差を気にしてほしいものだ。
「して、何をしに来た。それほど楽しいのか。」
青年は別にこのような事になろうとも気にしているような節はなかった。それほど面倒なのだ、この人の相手は。
「楽しいわ。」
比那名居 天子、それが今のところ空で浮かんでいる少女のなのだがまだ懲りていないのか、それほどに天界という場所がつまらない所なのかはさておき会ってから二日ほどしか経っていないので青年にとっては少し呆れたところがある。
「そうか。なら人に迷惑をかけない程度に幻想郷を観光するがいい。」
青年は呆れた気持ちをそのままにして天子に話しかける。しかし天子はそれで諦めるような事はなかった。それだけ興味があるのだがそれが鬱陶しくて仕方がないのでどうしたものか、と青年は思った。別に似た者同士なので気は合わないというわけではない。
「待ちなさい。アンタの行く場所にこの私が行くことにするわ。それで満足でしょう。」
「勝手に話を進めるな。ややこしくなる。」
青年としては今からカッパのところで袋ではない煙草の吸殻入れを作ってもらおうとしていた。それだけなので別に楽しそうな事はないと思われる。それに言わば何もしないので天界にいた方が楽しいような気はする。
「ところで何しにいくのよ。」
天子はその辺りは御構い無しに話を進める。強引な話の進め方だが煙たがられるだけで青年はその事には何も言わなかった。態度には出ている。
「河童に道具を作ってもらおうと思っている。それ以外はその場所でずっと座っている。」
面倒臭いのだろう、青年はゆっくりとしたペースで歩き始めた。天子の下を通ってそのまま山道を歩いていくのでその人は左横に引っ付きながら少々文句を言いながら青年の横を一緒に歩いた。ブレない精神というのは良いものなのだがそれがどのように働くかは今はよく分かっていない。
「行ってもつまらないと思うが貴方は来るのか。」
「ええ、行かせてもらうわ。」
「来るのか。」
「嫌なの。私、天人だけど。」
「種族など関係ない。」
「高貴な存在なのよ。」
「不良天人だろう。尚更だ。」
青年はそれだけ言って少しだけ歩く速度を早めた。それで何か変わるのかと言えば多分変わるのだろう。慣れない山道を持ち前のブーツで登ろうとしたので足を挫いたのである。
体の頑丈な天人とはいえこのような事はないのか、それとも鍛えていないのかその場で倒れた。
「慣れない道を歩くからだな。」
ここで見放せばこれ以上は付いて来なくなる。そう思った青年だが天子は案外しぶとかった。その場で立ち上がると空に浮き上がった。だが青年の近くにいたいのかどうかは知らないが低空飛行をしているので青年は諦めるしかなかった。
「もう良い。来るなら来い。」
「それで良いのよ。この私なのだから。」
いつまでも高貴な存在であるということをアピールするがそのことを気にしない青年と足を挫いていながらも付いていく天子の二人は一緒に山道を登る事にした。