青年放浪記   作:mZu

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第149話

川のせせらぎが聞こえる妖怪の山にあるある川のほとりに座っている二人がいた。

 

黒髪で赤いジャージを着た青年とブーツを脱ぎ捨てて気持ちよさそうに脚を入れている天子が居た。二人の間には会話は今の所ないがそれぞれの時間を近くに過ごしている印象がある。

 

青年はこの近くの工房にいる河城 にとりに欲しいと思っている図面を全て伝えてそれを元に本人が作ってくれるらしい。青年は暫くできるまで待っているつもりらしい。

 

天子は隣でピシャピシャと脚で水面を叩いて水紋を作っていた。川の流れに沿ってその水紋が流れていくが天子には面白いらしく暫く叩いているがここには妖怪の山であることを忘れてはならない。天子は急に引っ張られて川の中へと引きずり込まれそうになった。

 

「何よ!?離しなさいよ。」

天子は急にされた事でビックリとしているのか慌てているのだが何か違うことをしているように感じる。青年は呆れたようにしているので天子は引っ張られながらも青年のその表情は見ていたように感じる。

 

「自業自得だ。」

妙に落ち着いている青年だがその対象的に暴れまわっている天子が側から見ればシュールな光景だと思う。

 

「何よ?助けなさいよ。」

天子は下にある石を掴みながら自分の身が中に入らないように踏ん張っていた。その中で青年は横で勝手な行為をしていた天子が今はとても慌てている事に気づいた。その光景がどうしても面白いのだろうが今は真剣に助けようとしていた。

 

「そうだな。」

青年はのそのそと移動して天子の両脇に腕を入れるとそこから引っ張っていた。

 

だが、一向に引き上げられるような気はしなかった。そして誰かに助けを求めるような事はできなさそうなほど周りは静かで水の中でバタつかせている天子の脚から出る音しかしなかった。

 

妖怪の山であるこの場所は温和な妖怪が多いとは思うが全員が人を襲わないというわけではない、それこそ腹が空いた時に目の前の獲物を捕まえるように。

 

それぐらいの必死さで川の中の謎の生物は天子の脚を掴んでいた。ただし天子が妖怪と拮抗できる程度の力を持っていて本当に良かったと思う。そうではなかったら確実に助けられるわけがない。

 

「それでこうしているけど何か助ける方法はあるの?」

 

「いや。」

青年はあっさりと答えるだけで何か他のことを話すような事はしなかった。それこそ冷たい氷のような対応である。しかしこの騒ぎの中でも冷静に状況を見据えていた青年は天子の足には手が纏わりついていたのが見えていた。

 

要は普通に生活していたので水面を叩かれて水中に響いたので迷惑に感じているのだろう。青年は瞬時に天子から腕を離すと素早く念じた。燃え上がるような炎を念じて川の中に思い切り入れ込んだ。突沸するような気泡を浮き上がらせて川の温度は大きく変化をしたと思われる。

 

天子は必死に川に落ちないようにしていた力をそのままに後ろへと転げていた。青年は単純に笑っていた、それは清々しいほどに。

 

「急に熱くなったんだけど何したのよ。」

天子は少々怒っているように感じた。青年はそれでも笑っていたが急に表情を元に戻った。

 

「いや、何も。」

 

「そう。しっかし失礼な奴よね。」

天子は気付いていないのだろう。青年はそんなことを思いながら転げた天子の横に足を折り曲げて尻を付けずに姿勢を低くした。

 

「それはどうだろうな。貴方にもテリトリーというものがあるだろう。」

青年は何かの例えを話すような雰囲気を醸し出しているが天子には鬱陶しいだけのようだ。青年はそれを知りながら気付いていないように話を続ける。

 

「そのテリトリーが侵された時、貴方はどうする。」

青年はひっそりとした声でゆっくりと問いかけるように話した。天子は何か不穏な空気が流れていることを察して気分を悪くした。

 

「怒るわよ。突然でしょう。」

天子は気持ちそのままに話したが青年は抱きしめるように優しく一回頷いた。その青年には何か並大抵の人とはまた違うものがあると天子は思った。

 

しかし不良天人という事で人間の言葉に耳を傾けることができるのだと思われる。

 

「なら、テリトリーの侵害をした貴方は怒られても当然だろう。」

 

「天人に歯向かうのはどうかと思うわ。」

ムスッ、とした表情で青年に訴えるが何も伝わっているような気はしなかった。ある意味スルーされている天子だが別にそれだけではないこともある。

 

「その横暴無尽はあたらめる必要ない。が、自分のされて嫌な事を相手にするのは良くない。今回でそれを学んでくれたらそれで良い。」

青年は何処か落ち着いた口調で淡々と話していた。その様子は徳のあるように見えるが別にそういうような人ではない。青年は青年のしたい事、言いたいことしか言わない。だからこそ相手の言いたい事やしたい事に耳を傾けたり否定しなかったりするのかもしれない。

 

「何よ、変な話ね。」

 

「して、これからはどうする。別に迷惑をかけなければこの山の頂上にある神社に行くのも良いだろう。それか北西にあるひまわり畑にでも行ってみてはどうだろうか。」

 

「それはこの私との貴重な時間を無駄にしたいという事?」

 

「一言も貴方と会いたいとは言っていない。」

 

「そうね、変な思いをさせないでちょうだい。」

 

「どういう意味かは知らないが肯定的に捉えておく事にしよう。」

 

「その慢心もいつまで続くのかしら。」

「さて。」

天子はその場でブーツを履いて立ち上がると何処かへ行ってしまった。天人として空を飛ぶような事はできるらしくすんなりと何処かへ行ってしまった。青年はその様子をじっくりと観察しながら何が足りないのだろうとふと考えてしまった。

 

「さぁ、盟友。出来たよ。」

にとりが青年に話しかけるまで何処を見ているのかよく分からない状態であった。にとりの右手には青年の手に馴染みそうな大きさで四角くの箱で細長い形をしていた。

 

「どうも有難う。やはりこのようなものは貴方に任せるべきだ。」

青年は懐へ入れるとその場からは立ち去った。そのすれ違う間際ににとりの服についている多くのポケットの一つに何かを入れてからこの場所から離れた。誰も追うような事のないその無人の背中を追いかけるような事はなかった。

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