青年放浪記   作:mZu

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第150話

静かな風の音がする。

 

肌を撫でるような風は吹いているが周りは木に囲まれていて人が誰も来ないような場所だった。そして近くには小さな浅瀬の川が流れている。

 

それこそくるぶしも浸からないような浅さ小さな川である。そのような場所には本来人など来ないが何の目的なのかは知らないがある男がやってきた。

 

身長は標準的よりも少し小さく痩せ身でヒョロとした自信なさげな雰囲気のある青年だった。そして青年はある石に腰掛けてからしばらく何かを考えていた。その姿は何処か儚くどうしようもないものであった。ふと青年は立ち上がる。何を感じたのか、それは知らないが右腰から剣を抜くとゆっくりと中段に構えた。

 

その切っ先は天を指し示していた。青年は自分の内に秘めている力を引き出そうとしていていつもよりもシワを寄せた険しい表情をしている。邪な念がどうしても取り除けない青年は自分の内なる声に問いてみる事にした。

 

「お前にとって魔法とはなんだ?」

青年は心の中でそう呟いた。内なる声は答える。

 

「自己欺瞞。ただそれを助長させるものだ。」

内なる自分はそう言った。別に何か深い意味があるというわけでも何か思惑があるというわけでもなかった。表裏のない青年の心もまた一面しかない人物なのである。ただ不安にさせる、本体を乗っ取ろうと企んでいるのは事実。そうならない為に今戦っている。

 

「いや、そんなはずはない。」

そういう青年は頭では拒否反応を起こしていた。魔法というのはこの世界に来て始めてみたもので強く惹かれたので今でも変わらない。だが、それが最近そう思えなくなる自分がいる。

 

「ならば、束縛するものだろう。今も動けずにいるではないか。」

 

「それは確かだ。だがコントロールが出来ない、それだけが問題なのだ。」

 

「ならばお前には似合わない、魔法なんていう偉大なものは。使いこなせていない、それが事実だ。」

内なる自分は卑屈な思考を持っている。青年の抑止力として働くはずのものだが今はその力があまりにも強すぎる。その事はよく分かっていた。理解しているはずなのにそれが全くと言って通用しないのが自分であり、いわば青年である。

 

「今はそうだろう。その内使いこなせるはずだ。」

内なる自分を言い聞かせるような形で話を進める。別に遠慮など要らないのだがそれだけ弱気になっていた。それは言わば内なる自分に負けている証拠という事であった。

 

「そのうち、か。それはいつだ。明日か?」

 

「いや、そこまで早くは出来ない。」

 

「ならば、死んだ後か。」

 

「そこまで遅くするつもりはない。」

青年は悩んだ。内なる声に負けそうになっている己がいる、その事実は覆さないといけない。

 

「パチュリーにはそこを見透かされているのだろう。」

内なる自分は急に大きな声で笑い出した。青年は自分の皮を被った悪魔のように思えた。そう思えると何処か納得するところがある。青年は心の隙間に指を入れられたような気分になった。その隙間からグリグリと傷口を抉られているような気分になった。

 

「そこは分からん。だが、それは俺には全く関係のない事だ。」

青年はそこで話をするのをやめた。別にその時間が無駄だとかそういう訳ではない。そもそも自分と向き合っている。それは己との我慢勝負ともなる。

 

「ならば、お前には何も答えなどないのだろう。そもそも見つかることもない。」

 

「いや、これは俺が見つける。それまでは多くの人に迷惑をかける事になるだろう。」

青年は強く言った。大声で叫ぶような気持ちです少しだけ口から漏れていた。その声は誰にも聞こえないがこの自然はその小さな声でも耳を澄ませていた。森がざわつく、それは試練のような、そんな雰囲気が漂う。それも大きな兆候の前の出来事のようだった。

 

「そうか。なら、私のようにうまく使える方法もないのだろう。」

 

「それは何だ?」

 

「もう持っている。」

内なる自分はそれだけを伝えた。結局長々と話していたが結論的にはそれだけを言いたかっただけなのかもしれない。それともまた別の隠された道を案内しようとしていたのか。

 

青年は目を開く。緑色の葉を帽子にしている木々がその辺りにはあった。ただそれだけが青年の視界から見えた景色だった。荒れ狂い葉を揺らして助けを求める様は何処か異なる表情をしているようだ。まるで怒ったようなそんな気はする。

 

「何があった。」

青年の右手には腰に携えている剣を持っている。そして刀身が緑色に変色しているようで成長しているように思えた。何があるのかと言えば何もないが青年の中では腑に落ちないらしい。とにかく青年は自問自答の中で思った事を口に出してみる。

 

「恐れている、自分の成長に。」

思わず蓋を閉めていた。香霖に作ってもらったものとは言え、自分の魔力によって引き出されていた大きな力には青年は無意識に恐れて覆い隠すようになっていた。

 

つまりはそういう事なのである。つまるところ、自分の弱さも全て知っている内なる自分はもう分かっていた。青年は思わず剣を握りしめて静かな夜のことを念じてみる事にした。

 

しかしそれはとても簡単な方法で片付く事になる。引き寄せるその水滴は刀身の周りを覆い、回り出す事で多くの推進力を得ていた。青年はそこで誰も何もないところへと切っ先を向けて狙いをつけるように左手を前にすると左脚を前にして右腕を引いた。

 

青年は更に念じる。

 

これを収束させて一つの大きな水の塊にしてから押し出す事で何が生まれるのか、そしてどうなるのかその興味に青年は誘われた。

 

紅魔館の前にある霧の湖で起こしたあのように青年は想った。そしてゆっくりと何かを乗せているかのように前へと押し出した。

 

水滴は塊となりそして前に突き出された球体は一気に収束して前へ進んだ。細長くヒョロヒョロとした蛇だったものは太い首を持つ龍へと変貌した。薄めに開いた目からその様子を見ていたが格段に力が増している。そして青年は確かにその秘めたる力を解放したと思われた。蓋は外れたという事だ。

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