魔法の森。
人里の人はもちろん、近くの森に住む妖怪でさえも近寄ろうとはしないそんな怪しい雰囲気のある森が幻想郷の南西にある。その場所には大きなキノコや不気味な雰囲気のある気など人々を怖がらせるにふさわしいような風貌のものが多い。
そして何よりこの森には魔法使いが住み着き実験や調合のための材料としてよく行方不明なることでも有名だった。霧の晴れない視界の悪い森で薄暗い中を通っていく一人の青年はのそのそと呑気に歩いていた。
それこそ酒でも入っていると思えるほど千鳥足でフラフラとした見るからに危なっかしい雰囲気のある黒髪の妙に後ろの長い髪を一つにまとめている青年。彼は一体どこへ向かおうとしているのだろうか。
「邪魔する。」
黒い屋根の森の裂け目のような場所に建つ一つの家、その家は青年にとっては始まりの場所であり、原初とも呼べるそんな場所だった。
その場所で青年は家の前の庭に足を踏み入れてから扉を開けてゆっくりと中を覗き込んだ。青年はまだこの家の中の雰囲気には慣れていない節がある。
中には大小異なるが同じ形をした人形がこちらを向いているように思える。ぎっしりと隙間なく壁のところに置かれている人形がある意味壁紙の一種のように思わないとどうにもならなくなる。青年はそうしてどうにか最初のうちは対処していた。
「魔理沙と変わらないじゃない。」
青年は首だけをアリスを見えるようにしていた。金髪でショートで青色の服を着込んでいる。細くて綺麗な指はまるで人形のようで見惚れる。そして落ち着いた雰囲気のある淑女の佇まいを有しているこの家の家主であるアリス・マーガトロイドは少し不機嫌そうにしていた。
青年はノックをすることもなくそのまま家の中に入っていた。今回は赤い縁の丸眼鏡をかけているので魔道書を読んでいると思われる。魔法使いは基本的に眼鏡をかけているらしい。
「アリスだからな。」
青年はそれだけ答えた。あまりにも答えになっていない釜何日か同じ屋根の下で過ごしているのでその点は伝わるというわけである。だから余計に青年も遊び始めた事にはいつ気付くのかは本人も誰も知らないのだろう。
「答えになっていない。それで何か用があるのかしら。」
アリスはその青年の言動にも何も感じないのかそれとももう慣れたのか話を勝手に進めていた。
「そうだな。まずカップに水を入れてみて欲しい。それと人形を一体頼む。」
青年はそれだけを言うとアリスの家の扉を閉じてしまった。何がしたいのかは不安なのだが何かやるのだろうとアリスは何となく予想していた。
前に魔法の基礎を教えていた事があるのと魔法使いとして似てきているところがあるのが検証を続けると言うのがもう性としか言えないのかもしれない。
「待ちなさい。」
アリスはふと考えた隙に閉ざしてしまった扉の先に居る青年に話してみたがそれは聞こえるはずはないしあの時の青年はある意味人の話を聞かない。使っている魔法というのもあるのかもしれないが極限状態まで追い込んだように周りの音や視界を遮断する。
そして触覚も嗅覚も抑え込んでいるように思える。其処まで追い込むような必要は全くないのだがそれが青年としての流儀ならば従わないわけがない。
アリスは半ば諦めて座っている洒落た椅子から立ち上がると近くの紙を魔道書に挟んで青年に頼まれたものを運んでいった。
「持ってきたわよ。」
「有難う。早速だがカップに入っている水を投げてみて欲しい。」
アリスは最初何をしたいのか検討もつかなかった。いくら初心者用の魔法陣が組み込まれているからといって何をしたいのかそれは理解出来なかった。
火の強さでもみてみたいのか、その逆なのか。兎に角投げてみる事にした。青年はその瞬間に静かなそして何もない空に浮かんでいるものを念じていた。
何事も引き寄せるその不思議な力は何処まで通用するのかそれを試してみる必要があった。だからこそ青年が出せる力を出し尽くしていた。青年は右腕に持っている剣にその頭の中の念を全て送り込んだ。怪しく白く光る刀身にコップから離れた水は引き寄せられてその周りをくるくると回り始めた。
青年は片目を開けてゆっくりとその様子を見ていた。アリスもそれは何をしているのかは理解出来たがそれをする為には相当な努力があったのだと思われる。青年が利用しているのは少数元素である月のもので物を引き寄せる力を持っているとされている少数元素だ。
そもそも絶対数が少ないので集めるだけでも一苦労する事がある。その魔法を扱っているアリスの目の前にいる青年はある意味天才だった。
「まさかそんな事まで出来るのね。」
「月の元素だ。パチュリーとの研究で何とか使えるようになった。」
青年は刀身の周りで遊びまわっていた水を全て弾き飛ばした。と言うよりかは崩れ落ちた。青年は念じることを辞めて次の実験へと移っていた。アリスは次は右手の人差し指で人形を操る。