青年放浪記   作:mZu

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第152話

ある人の右人差し指から伸びる透明な白い糸。その糸はその先に付いている人形に命を吹き込む。金髪でブーツを履いているこの黒い屋根の家主であるアリス・マーガトロイドは目の前にいる赤いジャージの青年のした魔法に魅了されたと思われる。

 

「して、何か気になることでもあるのか。」

青年は淡々とした抑揚のない声で話していた。アリスにはその元素を利用した魔法などは知らない。だからこそ目の前の不思議なことには新たな興味が湧いたと思われる。アリスには人形の操作魔法は卓越しているがそれ以外はあまり得意ではないのである。ある意味では憧れの目で見ていたのかもしれない。

 

「いえ、気にしないで。つ、次は人形の方よね。もう準備してあるから。」

少し慌てている様子が珍しく感じた青年だが向こうのペースに合わせようとしている。それこそアリスがいないと何も出来ないからだ。青年は自分の中に燦々と輝く太陽を念じた。もう秋頃となって夏のような日差しではないが今でもその力は健在している。その太陽を思い浮かべてからゆっくりと剣を構えていた。中段なのだが地面と垂直にさせて人形に当たりやすいようになっている。

 

「頼む。」

青年は静かに答えた。アリスは右手の人差し指から人形に魔力を送る、そして青年の持っている剣を目掛けて進ませた。アリスの人形は近づこうとするところで弾かれた。それはまるで見えない壁でもあるようで人形はもちろん、アリスでさえも焦りを見せ始めた。青年はすぐにやめてから近づいてくる人形を刀身で払いのけた。アリスもそこで人形を引かせた。

 

「貴方、いつの間にそんなものを覚えているのかしら。」

アリスには驚嘆するしかないような事実なのだが前にも魔力の糸を切っている青年は当たり前のように覚えていたのかと自答した。そうでもないとアリスは納得出来ない。

 

「意外と普通なんだな。俺はこの力を恐れていた。少し前に武器を変えてな。」

青年は少し右腕をあげてアリスにも見えるように刀身の反射する光を見せていた。黒色の刀身には微弱ながらも魔力が流れている。その魔力はアリスにでも読み取れるが魔女とも呼べるパチュリーには誰のものかははっきりと分かるのだろう。

 

「黒色の物体を使っているのね。少し見せてもらえないかしら。」

アリスはスタスタと足音を鳴らして青年へと近づいた。その近づいた意味は青年にもよく分かる。

 

「そこまで興味を湧くものなのか。」

なぜか呆れたように話す青年だが同じように新しいものを探求するのは両者とも変わらなかった。青年はちょっと気になる物言いではあるがアリスには鞘に納めてから見せていた。

 

アリスはいつも青年が触っている柄を触って剣を抜いた。その事にはあまり意味はないのだが黒光りしている刀身にはどのような物質が使われているのかが気になるらしい。

 

よく観察してるアリスを見ている青年は少し血で汚れている小刀をジャージのポケットから取り出した。咲夜にそこは改造してもらっていて小刀なら携えられるような穴を革を使うことで作り出したらしい。

 

青年はその辺りの技術は分からないので任せたままなのだが仕事はしっかりとするようで今のところ何も壊れたりするようなことはない。それだけは確かに救いであるが今はそのようなことは出来ないのでどうしたものかとは考えている。

 

「新しいものには興味はあるものよ。それと使われている物質は何かしら。」

 

「魔法鋼。妖怪の山から貰ってきた。」

青年はさらりと答えてきた。アリスはその物質を知らないわけはない。

 

「そうやすやすと手に入るとは思えないんだけど。何かいけないことでもしたの?」

アリスはなぜか青年を疑わしい目で見ていた。魔法鋼というのはとても希少な物質として幻想郷では有名である。水のあるところにあるはずの砂利の中で黒い物質を探し出してからそれを接合する必要がある。香霖は別のルートで手に入れているので比較的安価だが刀身を作ろうとするとどれほどの量を使われているかが分かったものではない。

 

「いや、普通に使えないから掃除を兼ねて貰ってきただけだ。」

 

「それはどういう意味よ?」

アリスは妖怪の山には行ったことはない。人里の人々は知っているがあまり話を聞く機会のないアリスには縁遠い話である。青年はその後でにとりの話をした。

 

「加工が難しいものね。」

アリスは意外と短絡的に話していた。魔法鋼というのは確かに加工が難しい。その特性上形を物理的に変えることは不可能である。しかし研ぐことは出来るのでその辺りでしか難しいのだろう。

 

「そうらしいな。それで変えたのはいいがどうにも使いこなすことが出来なったから人に見て貰おうと思ったここに来た。」

そう話す青年だが何処か達観したような面持ちで話しているのでアリスには不思議に思えたようだ。

 

「それで使いこなせるようになったの?」

 

「ああ。単純に跳ね上がった自分の魔法の威力を恐れていた。それだけだったよ。」

それだけ、と強く念を押す青年にアリスはそれ以上はこの話をしようとはしなかった。もう諦めたのかそれとも理解できたのかは分からないがもう話す必要はないらしい。

 

「今日はどうするのよ。日も傾いてきているわ。」

 

「ならば、今日はそうする事にしよう。」

アリスのその言葉だけを頼りに中に入るように踵を返した。青年はその後に続いて黒い屋根のある家に入り一服する事にした。青年は慣れたように洒落た椅子に座るとグダー、と上半身を伸ばした。その横に紅茶の入ったカップを置くアリスは対面に座って湯気の立つそれを軽く口に付けていた。青年はすぐには飲もうとはしなかったがアリスは別にそのことは気にしていない。

 

「そうだ、人形を浮かせてみない?」

アリスは何か思いついたかのように話すが青年はその声に驚いた。心が落ち着いていたからかその反応も遅い。

 

「して貰えるのだろうか。」

青年は寝ぼけているのかくぐもった声で返事した。ある意味では久し振りに屋根のあるところで休めるからなのかアリスという信用できる存在が目の前にいるから安心しているのかは青年に聞いてみる必要がある。

 

「ええ、今なら出来そうなのよ。」

アリスは対称的に元気良さそうに話している。そしてとびきりの笑顔で。

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