天子との戦闘で傷を負った青年は天界にある桃を食べてから少し傷が癒えたように感じた。
しかし心配なので永琳に見せに行こうと永遠亭に向かった数日後、また来ていた。この竹林の間を抜ける不穏な風が青年の近くを通る。今日は竹林の機嫌が悪いのだろうと考えた青年だが本当にそのように感じる。竹の葉は一見緑のように思えるが少しくすんでいるかのように思える。所々元気のないところをあるので何かあったんだろう、と軽く考えていた。そしてそこに近づいてくるウサギの存在にも気づくべきだった。
「久し振りだな。」
青年はふと下を向いた。其処には子供のような見た目でピンク色のふっくらとした服装で黒髪にウサギの耳が付いている。足は裸足なので元々は動物だったのかそれとも裸足の方が好きなのかどちらかだと思われる。
「てい、か。今日は普通に出てくるか。」
青年にはとても不思議で仕方がなかった。いつもならいたずらの一つでもして顔を出してくるはずなのに気が変わったか人が違うのかどちらかは青年には興味はない。青年に過去と未来の観念はない。それこそ今のその瞬間だけを生きるという意味では最も楽しく生きている。
「そうだね。今はそのことは気にしないで。会うのは五日ぶりかな。」
「そうだな。」
永遠亭に向かう途中で青年は倒れてしまった。その時に助けてくれたのは青年の目の前にいる子供のような因幡 ていである。どのように助けられたのは覚えていないので下手な事はされていないことを願った。
「ここで会ったという事は永琳に会いにきたのか。それともいつもの癖か。」
ていは何処か青年の性格に慣れている節がある。その証拠にこの対応である。青年もその雰囲気にはそれだけの年齢の差があると見ている。青年も飽きっぽいところがあり人のことを見ていないように見えるがそうでもない。
「いつもの癖ではない。永琳に見せに行くんだ。」
青年は少し怒っているように思えた。年齢は差はあるが子供臭い見た目と性格は一致している。青年はそんなことを考えながら目の前の人に目を向けていた。
「そっか。この辺りから罠が多くあるから気をつけてね。」
ていはいつも通りと言うのか、ウサギというのはそういうものなのか、ふと青年は考えた。そもそも教えているのでないのかもしれない。
「言ってしまっては無駄になるだろう。」
青年は何処を見ているのかはよく分からないような感じでていに話した。そしてさも当たり前のことである。ていはま、そうだねというだけで青年の言葉はさらりと流した。二人の間には同じ空気が流れているのかていが青年の波長に合わせていると思われる。
「そうだね。先に進みな。私には関係ないことだ。」
ていにはあまり関係ないことだと思われているだろう。だが、青年はそのようなことを気にしていない。
「てい、ここではどのように生活しているんだ。」
青年は踵を返して何処かへ行こうとしているていに話しかけた。ていは小さく振り向いてショートの黒髪を揺り動かしていた。青年はそんなことは何も気にしていなかった。
「私は特に何もしていないよ。たくさんのウサギと一緒に過ごしている。偶に永遠亭にお邪魔している。」
「そうなのか。短絡的な生活はいつから続いているんだ。」
青年は思ったよりも何もなかったのだろうか微妙な表情をしている。ていはヘラヘラと笑っているような別にそうでもないような気がする。生意気な気もするがそれは歳のせいでそうとは思えないのが青年ではふと失望した。
「さて、いつからは忘れてしまったよ。何千万年もしているように思うけどもっと長いかもしれない。」
ていはさらっと答えた。青年はそういうものなのかと思っていたがそれぐらいは永琳や輝夜も生きているのかもしれないと考えるとふと感じるところもある。それともていの方が長く生きていると思うのが青年の中ではとても不思議だった。
「それなら魔法なんてものは知っているだろうか。」
「魔法、ね。私はあまり信用していないよ。」
「そうか。」
青年は知らないようである。ていが其処まで話そうとしていない理由が。魔法というのは呪術と等しく人を呪い殺すための道具。ていがここまで生きてこれた理由は能力というのもあるが魔法に触れようとしていなかった。それもある。そして健康に気をつけていたからこそていは幻想郷の中でも古くからいる者となっている。
「せいぜい頑張りな。」
ていは後ろで小さく呟いた。果たして悪魔か天使なのかそれは今の所わからない。