左の方へと向かっていた霊夢は大きな講堂へと入っていった。
其処は壁の一面が大きなステンドグラスが貼られていて何らかの絵を模していた。しかし霊夢には興味が無いようで適当に玉座へと伸びる赤いカーペットの上を歩いていた。
しっとりとした感触で脚にしっかりと吸着する。ふわふわとした高級感あふれるこの館にふさわしいものであった。側では金色の燭台に蝋燭が怪しげに揺れていた。魔法によって作られたのか生きているかのようだった。そして何とも不気味な雰囲気に霊夢は少しだけ脚の進みが遅かった。
「ようこそいらっしゃい。私はここの紅魔館の主人のレミリア・スカーレットよ。」
霊夢はその言葉の主人を探すが、玉座で堂々と座っていた。客として歓迎しているのかどうかさえ怪しい。霊夢はそう思った。
その主人は子供のように小さかった。そして淡い青のウェーブの少しかかった髪で、淡いピンク色をしている。頭にはナイトキャップを被っている。名をレミリア・スカーレット、その館の主人だ。
恭しく礼をすると霊夢の元へと歩み出した。其処で霊夢も歩みは止めなかった。一刀足を二つ分、そのぐらいの距離で対峙した。
「あんたがこの異変の元凶?」
霊夢は挨拶もなしに直球に質問をぶつける。
「異変というよりかは私が外に出やすくしているだけよ。如何、綺麗な赤色の空でしょう。」
レミリアは謝る気がなく、堂々としていた。それが主人としての自信や威厳というものだろうか。全てを押し通しそうな風格を子供のような身なりとしては十分に持っていた。
「そう、あんたを今から倒すわ。それで良いわよね。」
霊夢は札とお祓い棒を構えていた。紙の方を拳の近くにしていた。
「それは好きにしなさい。咲夜、お客に紅茶を出しなさい。」
レミリアは最低限、客として霊夢を扱うらしく広間で戦っているはずのメイドを呼んでいた。しかし返答どころか、姿を見せなかった。
「そのメイドなら男が戦っているわ。」
霊夢は仕方がなくそのことを説明した。
「それならすぐに来るわね。しばらく待ってなさい。」
レミリアはクスリ、と笑った。とても控えめで淑女としての気品を感じられる。霊夢への嘲る為だろうがそんなものが効かなかった。
「そうでしょうね。」
霊夢はいきなり札を投げて先手を取る。レミリアは蝙蝠となりその間をすり抜ける。両手にある紅く長い爪で霊夢を突く。
体の小さい為リーチは短めだが、それでも岩をも砕くような力を有している。霊夢は軽々しく身を翻して鋭い目でレミリアを見下ろした。当の本人は少しだけ口角を上げた。ほんの少しだけ楽しそうにしていた。
「其処まですんなりと避けられると悲しいものがあるわね。」
折角のチャンスだと言うのにレミリアが先に身を引いた。それが主人としての遊戯なのだろう。それだけの余裕を見せていた。
「そうかしら?あんたが其処まで力を込めていないだけでは無いの。」
霊夢は至って冷静に返した。口での決闘はしたくないのだろう。それと博麗の巫女として異変の犯人の命を奪う事を考えていた。手早く仕留める事だけに頭を使っていた。
「そんな言い方もあるわね。知ってる?鷹は最後まで爪は見せないそうよ。」
レミリアの両眼から放たれる紅い眼光が霊夢を緊張させた。同じように霊夢も巫女としての気迫を見せる。
「長い夜になりそうね。」
「楽しい夜になりそうね。」
双方が口を揃える。レミリアは楽しそうに笑みをこぼすのとは対象的に目を鋭くさせる霊夢。決着にはそれなりの時間を有しそうだった。
魔理沙は青年に言われて右側の別館となりそうな小部屋を探索していた。
紅いカーペットが長い廊下を敷かれており、同じような部屋と蝋燭の並びが永遠に続いていた。窓がなくどのぐらい進んだのかは目測では知れなかった。
飴玉のように両側が結ばれた状態でどちらにも逃げれない魔理沙は下に続く階段を見つけて兎に角降りていった。その速さはやはり異常であった。足音をこれでもかと出していた。
闇が怖くて親に擦り寄るその速さに匹敵していた。魔理沙は黄色い髪を揺らしながら、黒い帽子の位置を直す。
そして気づいたのだ。天井に着くようなくらいの棚に隙間なく本が並ぶ異様な風景を。此処は何処だろうか。先程まで館にいたはずなのに、何処か異世界にでも飛ばされたような気分になった。
魔理沙は不意に後ろを向いた。其処には長い螺旋階段があった。魔理沙は登ることを諦める。兎に角歩いてみようと気分をうまく切り替えた。箒を担ぎながら本棚を見ていた。そのほとんどが魔道書であるのを魔理沙は見ていた。遂には箒にまたがり本棚にある本を取り出し始めた。その本の内容はご丁寧に論文を書き連ねて最後にまとめとばかりに魔法陣が書かれていた。
どうやら土の要素を使ったゴーレムの製造方法らしい。魔理沙は軽くそれを理解した上で興味ないと本棚に戻した。そんな状態でゆらゆらと空を飛んでいた魔理沙は様々な魔道書を軽く読み漁った。その途中で下に降りる階段を見つけた。
降りてみるか、と軽い気持ちで魔理沙は降り始める。本棚に隠されていて知らなかったが、静かに本を読む少女がいた。薄紫の帽子とゆったりとした服装をしている。
そして皮膚のほとんどを隠していて眼鏡をかけて本を熟読する姿に魔理沙は魔女だろうと感じた。本の虫でもない限りはあそこまで読めるだろうか、本の隣には優雅な形をしたカップが置いてあるが湯気は出ていなかった。恐らく冷めているだろうと魔理沙は見ながら感じた。
全体的に紫色の少女は事務用の机に腰掛けていて微動だにしなかった。そして魔理沙はその対面にある低めのテーブルに備え付けられている負荷服のソファーに腰掛けていた。魔理沙は何もすることがなかった。
「何読んでいるんだ?」
魔理沙は大きめな声で話した。それは本を読んでいるためにそうしたのだろうが、元々気づいていたので其処までは必要なかった。
「自然魔法の魔道書よ。」
質素にそして冷静に話したその少女はふと前を見て急にパタン、と本を閉じる。そしてその上に小さめな眼鏡をおいた。
「自然魔法か、研究ご苦労だぜ。」
魔理沙は何か状況が分かっていないかのように楽しそうに話しかけていた。俗に言う不法侵入というものに少女は冷静に対応した。魔法弾を飛ばしたのだ。魔理沙はソファーの後ろに急いで転がり難を逃れる。
「いきなり何すんだ。」
魔理沙は声を荒げていた。理由としては危険なことをされたからだろうが、普通に考えれば少女の行動は正しい。
「不届き者に対応しただけよ。」
少女は少し小さめな本を引き出しから取り出すとペラペラとめくっていた。次は何をしてみようかと思考しているらしい。
「こっちは客人だぜ。」
悪日れるどころか、態度を変えない魔理沙に少女はそれなりの対応を取らざるを得なかった。少女は此処で一つ咳をした。
「それなら小悪魔に紅茶でも貰いなさい。そもそも野党に出す茶なんて淹れさせるつもりは無いけれど。」
少女は小声で詠唱を始めた。魔理沙は急いで箒にまたがりすぐに距離をとった。もう一度同じような弾を撃たれれば、一たまりもない。それにもう少しは威力が高まるだろうと、変な期待をしていた。
「その気なら遊んでやるぜ。」
魔理沙はやけに好戦的に話を進めた。少女は本当に迷惑そうな顔をしていた。少女が咳によって詠唱を強引に終わらせる結果になった。炎の渦が上がり、魔理沙の近くまで舞い上がる。魔理沙はそのギリギリを楽しんでいた。魔理沙は片方だけ口角を上げていた。それも無邪気ないたずら好きの子供かのように。そして口笛を吹く。
「流石だぜ。」
それは単純に感嘆なのか、ちょっとした嘲笑なのか、恐らく前者であろう。そういう所は裏がないのが魔理沙である。行動は裏だが。
「本が燃えるから控えたいのに。」
少女は多少疲れた形相を取り始める。流石に運動をしていなかったのか、体がついてこないというのが正しい見解である。
魔理沙は多少高いところからこの上を見上げるような天井を見つめていた。何かあるわけでもないが、ここに居る少女が何もしないのである。その少女の周りには泡のような小さな弾が散らばっていた。防護のためなのかは知らないが、変な事をしていると感じていた。魔理沙が見ている分にはそうだと思う。
此処からがこの術式の本番となる。魔理沙が次の瞬間に感じたのは寒気だった。魔理沙の横を通り抜けた一本のレーザーの後、無数のレーザーが乱雑に飛ばされていた。魔理沙は此処からどうしたか、レーザーだけなら容易かった。超低速で一つの網かのように迫ってくる泡が魔理沙には脅威であった。
魔理沙から少女が何処にいるかは分からなかった。それは相手もそうだろうと思ったが、あの正確なレーザーである。相手にとって魔理沙の位置は筒抜け。かなり不利な状況だと魔理沙は悟った。その中でろくに攻撃ができず、避け切ることに徹した魔理沙は次の手をどうするか考えていた。
流れは相手の手が出尽くすのを待つか、自分が攻撃して勝負を決するか。
そのどちらかしかなかった。
今の魔理沙にはどちらと現実的ではないと考えていた。それそうだろう。魔女の手を潰すなど何年かかるか分かったものではない。それだけのスタミナを有している魔女に魔理沙がついていけるかどうか。答えはNOである。標的が何処にいるか分からないのに一撃必殺を見舞うことは出来なかった。
「チッ、嵌められたってか。」
魔理沙は軽く舌打ちをしていた。魔女は更なる追撃を行う。彼女の周りには風が起きていた。その風に泡のような弾幕は乗り始める。そしてその場のような形をした弾がその風に乗る。
箒の乗った魔理沙にもその風の影響は少なからずあった。不安定にしているところで泡と木の葉の弾幕である。魔理沙は真っ向から勝負をしなくなった。
その代わりにこの地の利をどうにか使おうとしていた。魔理沙はその場から本棚の中を適当に飛び回った。魔女はふわりと体を浮かせて魔理沙の追跡を始めた。
「さ、頼むわよ。」
魔女がまた詠唱を始めていた。その詠唱を言い切る前に咳でむせてしまった。そのせいでもう一度詠唱をし直す必要があった。もう一度少し遅い速度で言い切りドラゴンが出現した。
銀色でコーティングされているような鱗で光をこれでもかと反射していた。キラキラとしていて本棚の間を通れないドラゴンは下の広間で立たせておいた。戻ってきた時や近くを通りかかるとドラゴンが反応する。そして外側から魔女が追い詰めていく。その算段ならいける、それだけの確信があった。
そんな頃魔理沙はどうしていたかと言えば、魔女に見つからないように魔道書を読み漁っていた。
今のところ対抗手段がない為何も出来ないし、勝つことも出来ない。万事休すかと思われたが、此処は図書館である。一つくらいは手段が見つかるだろうと軽く見積もっていた。
それらしい本を見つけては投げ捨てていく。本に対して乱暴であるがそれだけの余裕がないと言えばその通りである。本当にどうする事も出来ずに時間だけが過ぎていく。
それは正に浪費というものであった。魔理沙は何とか打開しなければ、勝つ手はないと考えていた。だからこそこうやって本を軽くじっくりと呼んでから適当に放り投げて次への本へと手を伸ばす。
「これだ!」
魔理沙が見つけたのは白い弾を空中に置いていく魔法。その一手に賭けるしかなかった。
魔女、もといパチュリー・ノーレッジはドラゴンを使役しつつ外側を自分で曲者を探していた。
其処には何時ものように本が並べられではあった訳ではなかった。所々本が下に落ちている。此処には一人本の管理を任せている人がいるがこのような事は一度もなかった。本が傷付いてしまう。
いくら防炎防水防腐の魔法が施されていようが流石にこのような傷は保護出来ない。パチュリーはよく見渡して曲者を探し出した。途中で白い弾を見つけたが何も気にならなかった。ただふよふよと浮いており埃でも舞っているかのようだった。
但しそのような気配がないので気にしていないのである。そんな時だった。ドラゴンの咆哮が聞こえた。パチュリーはその方向へと急いで向かった。やっと引っかかってくれたように感じたのでそれなりに速度を出していた。曲者は二階の対面にいた。
「よぉ、また会ったな。これからとっておきの魔法を見せてやるぜ。」
曲者は手に何か小さな物を持っていた。しかし、所詮は魔法道具であり威力の低いものしか撃てない。それを知らないのであろう曲者はパチュリーにとっては可笑しな人であった。魔法の事をよく知らない、そんな者なのだろうと。
「そうね、好きにしなさい。」
「そんじゃ、行きますか。」
手に持っていた道具を適当な位置に撃ち放った。本当に適当な場所である。ドラゴンにもパチュリー自身にも当てようとしなかった。真横に太いレーザーを撃っていた。そして破裂する。破裂した衝撃でまた破裂する。その連鎖は本棚の間を通ってきた。そしてパチュリーの後ろから押し出されるような衝撃を受けてパチュリーは初めて一本取られた。人間に負かされるとは、そんな風に軽く考えていた。
「マスタースパーク!」
曲者は既に後ろで構えていた。その様子はもう当てる気満々であった。当たってもいないのに既に当たっているかのようだった。パチュリーはその自信、奇抜な策に負けた。そして地に伏せてその後の記憶を忘れてしまった。