青年放浪記   作:mZu

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第163話

赤い提灯と酒臭い嫌な香りの漂うこの繁華街のど真ん中で額に一本角の体操服のような白い服装に半透明の長いスカートの下には何か黒いものが見える格好をしている鬼。

 

その人は淡い青い帽子に肩と胸元にポケットを付けたキュロットスカートのような半袖のズボンでここにも多くのポケットがある格好をした青年に話しかけていた。青年は帽子を深く被り何か目論んでいるかのような笑いを浮かべて側から見れば気味の悪い態度を取っていた。

 

「如何してする必要がある。」

青年はそれだけを聞いた。その声には確かに何か含まれていそうなのだがその人は細かい事は気にしない豪快な性格であるようで特に何か言われるような事はなかった。それどころか何かの冗談のように大きな声を出して笑っていた。

 

「ねぇ。懐かしい名前を聞いたのでな。お前が代わりに相手してくれるよな。」

何処か楽しそうにしているが確かに萃香の話は間違っていないと思われる。青年はゆっくりとした今の状況とは真逆な感じでその場に存在していた。その人きっと気にしないのだろうが。

 

「こちらに利益がない。する意味もなかろう。」

 

「やってけ!」

野次の一人が不意にそう叫んだ。青年に話しかけていたその人は急に酒の入っているのであろう瓢箪を投げつけてその鬼はぶっ倒れた。そして不機嫌そうに頬杖をつくので青年は邪魔されるのは嫌いなのだろうと思った。

 

「鬼の四天王が一人、星熊 勇儀。どうだ、やる気にはならないか?」

勇儀は赤い杯に入っている大量の酒を浴びるようにしていたが一滴もこぼす事はなかった。萃香に比べて酔いが回っているというわけでもないので酒には滅法強いのだと思っていた。

 

「いや。済まないな。たとえ遊びでしてくれると言ってくれてもそれは受け付けられる気はしない。鬼に敵うと思っているか。」

 

「萃香を知っているお前なら何と無く出来そうな私の予想だ。」

勇儀は急に立ち上がると左腕から一発拳を繰り出した。

 

青年は左足を下げてから避けるとそのまま移動していた。その身のこなしは軽いもので少し歪な動きをしているが周りからはブーイングが出てくる。

 

鬼にとっては避けるという行為は良くないものだが青年は人間なのでそのような事は致し方がない。食らっていたらまず骨が砕けるならとても運が良い。それぐらい力量差があるので正当な判断ともいえよう。

 

「その予想は外れていたか。」

青年派何故か強気に出ているのだがその真意はよく分からなかった。それこそ青年には何か策があるようにもないようにも見えるので何がしたいのか大抵はおいていかれる。それだけは青年の性格は変わらない。

 

「いや、まぁまぁ合っていたよ。ただそこまで小心者とはな。」

きっと勇儀は青年のことを妖怪だと勘違いしていると思える。それを知るのはまた後の話だ。青年は左脚を擦り寄せて普通の体勢に戻ると徐々に距離を取っていた。円形のように囲まれている青年だが触られるような場所までは移動しなかった。そして一つ断りを入れる。

 

「武器の使用は良いか。」

 

「好きにしろ。当たるかは別の話だがな。」

 

「それは萃香の時に知っている。その事は心配はしなくても良い。」

 

「そうかい。なら、ちょっとハンデと言うのをやろう。この盃に今から酒を入れる。零したら私の負けだ。」

良いだろ?と聞いてくる勇儀に青年はゆっくりと首を動かしていた。勇儀はそれを見て少し笑ってから酒を注ぎ込んでいた。勇儀はどれだけ目の前の青年を舐めているのかは知らないが並々に注ぎ楽しそうにしていた。酒は回っていないと思うがそんな風に見えるのは元々なのか顔には出ないタイプなのか。

 

青年は半ズボンのポケットから小刀を取り出す。香霖から作ってもらった内の金属が混ぜられているタイプの少し軽いものだ。それから肩のポケットから煙草を一本取り出す。

 

そして小刀に先端を近づけて火を付けるとその先から紫煙が舞う。何がしたいのか分からないが全ての下準備が終わるまで遊戯は待っていた。

 

「こうでもしないと勝てる見込みがないのでな。待たせて済まなかった。」

青年は右手に逆手で小刀を持っていた。本来は異端であるはずだが勇儀はそのような細かい事は気にしない。最近はこちらが主流と言ってもそうか、と答えるだけだろう。それこそ鬼の細かいことを気にしない性格に勇儀の豪快さが相まっているだけなのだろうか。

 

「別に気にするな。それぐらいして貰わないとこちらも困るからな。」

勇儀は左手に逆手を持っている。先程は左腕の真っ直ぐな一発を出しているので其方が利き手なのかそれともそれは偽造であるのかは青年は今の所よく分からない。

 

「最後に聞くが武器はなんでも使って良いんだよな。」

 

「しつこい。こちらから行くぞ。」

勇儀はそのような事は苦手であるらしい。何回も聞かれると鬱陶しく感じるのか青年が思った以上に小さく感じたのかはさておき右手を突き出してきた勇儀に青年は上半身だけを避けて左手で何らかの針を出すと小刀でそれを勇儀の腕に打ち込んだ。勇儀は一瞬何をされたのかと思ったがそれは気にしていない様子だ。青年はそのまま飛び退いてさらりと身を翻して背面をとった。思った以上に弱々しいのか右手で後頭部を掻いているが勇儀は右腕にあるものがどのようになるのは知らない。

 

「意外と弱々しいんじゃないか?」

勇儀は細い目をしながらゆっくりと青年を見ていた。青年は返答はする事なく左腕を狙った。勇儀は杯を右手に移し替えて青年の攻撃は甘んじて受けることにした。どうせ針だろうし何も影響はなかった。

 

それをされて何があると言う感じである。青年は地面を滑ってから身を返して勇儀と対面していた。青年は身を低くして目を閉じていた。勇儀はそこまでは分からないが動こうとはしない青年を不審に感じたので一蹴り入れることにした。

 

青年は飛ぶように後ろに避けてから勇儀を一撃を受け止めていた。青年は飛ぶのと同時に起き上がり顔を狙って来ていた勇儀の右腕に合わせて小刀の刀身を下に潜らせて接触させた。

 

勇儀は何かを感じたのだろう。一瞬だけ意識は吹き飛んだ。

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