青年放浪記   作:mZu

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第169話

秋の空が広がっている。

 

少年は未だにおじさんの元で食料を得るための方法を学んでいたがそろそろ学ぶこともなくなって来た。その事を痛感するがその先、どこに行けばいいのかそれはよく分からなかった。

 

不安や恐れはあったのだろう。

 

少年は今日も自分で手に入れた食料を皆に渡していた。しかし其処まで量のあるようなものではないのは事実である。これからどうするか?人生の岐路に立たされた青年はまた一人でどこかへと消えてしまった。

 

 

道沿いの雑木林の近くで一人で息を潜めていた。

 

この場所は比較的地理的なアドバンテージがあり、狩場としてよく利用している。少年は木の幹に慣れた体勢でありながら木と同化するようにしていた。

 

ここを通る人はまだらでいつ来るのかは分からないがそれだからこそ好都合というものである。ニュースなどではきっと多くの情報が流れている頃だろうが少年は愚かそれよりも長く生きていたおじさんも一度職務質問などはされた事はない。それに一度味を知ってしまった蜜をみすみす逃すわけにもいかないという事である。

 

「うん、そうそう。」

左側からサラリーマン風の男性が一人こちらに歩いて来た。少年はいつ出ればいいのかを的確に判断しながらゆっくりとその時を待っていた。

 

男性は三十代の働き盛りで楽しそうな口調をしているので友達か最愛の人と話していると思われる。それから少々酔いが回っているように思えるので上司の飲み会に付き合った帰りなのではないかと推測される。

 

少年はいつ飛び出そうか頃合いを見定めていた。

 

「今から帰るから。じゃあ。」

男性はふと電話を切った。もう話す事はないのだろう。少年はそのように感じた。それからいつもの癖なのかジャケットの胸ポケットに入れてからルンルン気分で歩いている。

 

少年は此処で木から降りた。と言ってもいつでも行けるように蝙蝠のような姿をしていた。そのまま地面に降りればそこから最速で走り出してすぐにありつける。

 

そして周りには人はいないという事を感じて少年は素早く降りてから地面を蹴りだした。体勢はブレていて走りにくそうだがその勢いだけは一級品となっていた。

 

男性が誰かいることに気づいた時には声帯は見事に綺麗に切られていた。血は出ていない。

 

そのキリキリを切り裂いた少年の腕は見事なものだった。それから男性は首元を触ってその痛みが何で起こったのか原因を探っていた。

 

それこそ目の前に現れた少年以外に何かあるのかと言えば普通に考えれば理解出来るのだろうがそれをさせない程少年の行動は早かった。

 

飛び出した勢いで男性の後ろに回り込んだので踝に傷を軽くつけてその場で倒れさせるようにしていた。思考をさせないとはこのような事をいう。

 

呼吸をするのような空気が擦れるヒュー、ヒュー、という音が聞こえる。吸う事は出来ても出すような事は出来ないらしく声にもならないその音だけが閑静な一本道で起こった。少年は前に倒れた男性を踏みつけてからゆっくりとナイフを研いでいた。

 

切れ味に自信がないのだろうが上で何か刃物を研いでいる音がするので暴れて抵抗しようとしていた。

 

「動くな。肉が不味くなる。」

男性はこの時に何をされたのかは感じたのだろう。しかしそれはもう遅いという事も。少年は人肉を好むカニバリズムの思想を持っていた。

 

いや、そのように教育されていた。

 

子供の頃に付けられた傷がそのままここまで続いている。言わばそれが必然であると心の底から思っているからこそ、常人から見れば狂気に満ちているのかもしれないが少年にとってはそれが普通のことなのである。

 

「痛みを伴うが少々我慢しろ。」

少年は首元の一点を狙った。頸椎と呼ばれる運動神経が集まっている箇所を突き刺せば人は動けなくなる。少年は小さいながらもおじさんから教えてもらっている急所を的確に刺していた。

 

男性の動きが亡くなった頃を見計らって研いでいたナイフで肩関節の辺りをこれもおじさんに教えてもらった通りに切っておいた。両腕を抱えて雑木林へと逃げ込んだ少年は今日得た物をその場所で食すことにした。もうこの生活を何年過ごしているのだろうか。それでも仲間が居て、師匠が居て、眠る場所があって、皆から何か分けてもらえて。それを終わらせる必要がある。

 

そしてその先を自分の手で切り開く必要がある。それからその時に考えることにしよう。少年は世間を何も知らない童心にそう思えた。

 

 

いつもの公園、そして何時もの仲間がいる。夕暮れともなり狩りに行く様な時間になったわけだが少年はすぐには動けなかった。まだ迷っている。その焦燥にも似たものに駆られているのが少年の胸を締め付けた。

 

「おじさん、俺、もう一人になるよ。」

少年は皆の前でその様に言った。おじさんは何も知らないのだがその素直な気持ちに汲み取ろうとしてくれた。それに少年は自分の意思でそう言っている。それを止める道理はなかった。

 

「なら今日は送り出す準備をする必要がある。貴方には多くの事を教えてきたが少し遅かったのかもしれない。それは俺が優しすぎたのもあるだろう。」

おじさんは少年との別れを惜しんでいた。前々から独立する様には勧めていたがいざその時になるとそれまでの思いがこみ上げてくる。

 

「俺、頑張るよ。これからも。だからね、おじさん。死んで。」

少年は胸に飛び込む様に、これまでの恩師に別れを告げる様に、全てを預ける様に、持ち前のナイフをおじさんの脇腹に刺しこむ。その周りに居たこれまでお世話になっていたホームレスの人達に一礼してからその場を離れた。その淡白な雰囲気には暫く動くものは居なかった。咄嗟のことで、何が起こったのか。誰もが何をしたのかさえよく分からなかった。

 

恩を仇で返す様な行為だが少年には通じない。

 

すでに感情の多くを欠損しているのでそのような事は通用する事はなかった。それからその公園のホームレスたちがその少年を見かけたこともその噂を耳にすることもなかった。その代わりある名前が裏社会、ホームレス達だけの情報網によって伝わった言葉がある。

 

死神。

 

指紋も残らずその場を立ち去り鮮やかに人を天へと導いていく、そんな話を聞いたのはいつ頃だろうか。

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