青年放浪記   作:mZu

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第17話

ただ広い広間で二人は対峙していた。

 

メイドは沈着に状況を把握していた。目の前には得体の知れない青年がおり、左右に一人ずつ誰かが居る。ならば、この瞬間に決着をつける。

 

メイドを残して世界は白と黒のモノクロの世界となった。だが、メイドだけがその中でカラーで存在している。その動かない孤独の世界で一人動いていた。メイドは男の周りにナイフを投げれる限り配置させた。物体にはメイドが触れる事でしか干渉できなかった。だから得手であるナイフだけしか投げず、拳で殴るような事はしなかった。

 

メイドが手を離せばそのナイフには触れる事はできない。それがこの世界での理なのである。

 

「そして時は動き出す。理解出来ぬ死を知りなさい。」

今度はこの世界を無くした。順々にカラーの元通りの世界へと戻る。知らぬ間に無様な青年の死体が転がるのだと思っていた。

 

メイドの思っている通りに進まないのがこの世界である。青年は平然とその場に立っていた。逆にナイフがメイドの元へ戻ってきた。

 

「何の対処もしていないとでも思ったか?」

青年は少しずつ口を開き始めた。そして驚愕しているメイドに青年は何もしなかった。その脅威はメイドはひしひしと感じていた。

 

「如何してなの?」

メイドは思わず疑問を投げかける。完璧な仕事をしたと思っていても少しぐらいは不備があるものである。しかし今回は失敗である。その事がメイドにはかなり響いているらしい。

 

「さて。手の内を教えてくれる敵がいると思うのか。それに負けるわけがないだろう。」

青年は冷静にメイドの質問に曖昧に答えた。確かに手の内を教えてくれる敵は居ないだろうし、それで負けるなら相当な手慣れである。そんな事をメイドは考えていた。

 

「いえ、そのはずは。」

メイドはもう一度白と黒の世界に入った。青年はかなり油断しているように感じた。右手で右脇腹を目掛けて刺そうとする。そこでカラーの世界へと戻した。

 

「ないわよ。」

「だろうな。」

青年は半身を翻してナイフの当たる場所には居なかった。

 

それどころか上を取られてノーガードの背中を見せつけていた。メイドは死の瞬間を実感していた。青年は軽く脚をかけただけだった。メイドは呆気ない攻撃に拍子抜けしていた。

 

多少体勢を崩されたがすぐに立ち直りノールックでナイフを投げてみる。当たるか当たらないか。そんな事はどうでもよかった。手元がぶれて速度も出ず、青年にナイフを渡す形になった。

 

「そのような施し痛み入る。」

青年はナイフを受け取った後に一礼にしてメイドに感謝した。

 

真っ向から勝負するしかないのか?メイドはそんな風に考えてしまった。

 

まるで時間稼ぎのような行為にメイドは咄嗟に白と黒の世界に潜り込んだ。その中でメイドは抑えようと息を整える。この音もなく生も感じられないような世界でメイドは立ち尽くした。

 

もう何が何だか、頭を抱えて眠りに入る。もう何も考えたくはなかった。世界には色が戻り全てに生が与えられて世界。メイドは青年と真っ当に対峙した。

 

「いえ、客人としてならば当然の行為です。」

メイドは長い長いインターバルを持たせて回答をする。

 

青年にとっては一瞬の出来事かもしれない。しかし、その一瞬に何かしていたのは青年にもよくわかった。

 

「それならこの館のメイドは無礼にも程がある。それも面白い。」

火もつけずに咥え煙草で佇む青年はその落ち着き払った態度がメイドには癪に触る。それがどうしたなのだろうか?そんな事は誰に聞こうとも知り得ない。

 

「無礼と感じるなら立ち去りなさい。」

メイドはついに青年を追い出すようにした。これ以上進ませてはお嬢様に危険がある。

 

火の粉は払っておく方が良い。いつ見逃して後ろにある爆弾に火がつくかよく分かったものではなかった。

 

ならここで!

 

メイドは勢いよくナイフを投げる。その速度と等しく青年へと近づく。

 

「いや、面白くなってきた。」

青年は不敵に笑みをこぼす。メイドにはそのような理由はよく分からなかった。

 

青年は右手に持っていた剣を鞘に納める。そのような余裕があるのかとメイドは驚愕した。

 

敵前で剣を納めるなどありえない。投げたナイフよりも低く身を構えて走り抜ける様は門番と同じく武芸をしているようにも見える。

 

ただのメイドではないのが見て取れる。青年はそれでも軌道が見えていた。

 

メイドは左手に盲点となるように隠し持っていたナイフを見せる。青年の視点がメイドの右手に執着していた。これは行けるとメイドは思っていた。

 

左手は青年に吸い込まれるとその間を一本のナイフが通り過ぎた。メイドの投げた得物は誰にも当たらず二人の空間を貫通した。メイドはサブプランとばかりにナイフを突き刺す。

 

青年はずっと見ていたものなのですんなりと剣でナイフが届かないように防いだ。メイドの手首を寸前で止めて傷にはならなかった。柔らかい豆腐でも切ろうかとするようにすんなりと、だ。

 

青年はメイドを左手を軸に遠心力を利用して投げ飛ばす。その時メイドが感じたのは脚に当たった鋭い痛みだった。青年はゆっくりとメイドに近づき確実にもう片方の脚にも当てる。メイドはその時に必死の力で起き上がらせた。青年の手には三本の自分のナイフがあった。

 

そして脚に当たっていた鋭い傷は自分のナイフが突き刺さっていた。この時に気づいた。青年が真っ向勝負をしていなかった事、そして戦闘すらしていなかった。

 

それはメイドの両肩にゆっくりと二本の白銀のナイフが止めとなった。

 

「チェックメイトか?」

なぜか疑問形に聞いてくる青年にメイドは為す術がなかった。四肢は傷を負い、まともに扱えない状態だった。

 

「ええ、そうよ。」

メイドは青年との勝負をもうすでに諦めている状態だった。

 

「しかしその、ナイフが急に現れるのはどういう能力なんだ。」

青年は勝負の終わりを告げるかのようにメイドに聞いた。不思議に思っているのはそれだけ不可解な事であった。

 

「私は時を止める事が出来るの。」

メイドは観念して全てを話した。青年は不思議そうな顔をしていたが、ようやく飲み込めたようだ。

 

「ここが幻想郷だからか。」

そうではない、とメイドは思った。聞いた割には無頓着な回答にもう困ってしまった。

 

「行くなら行きなさい。お嬢様はその階段の先にある扉の向こうの講堂にいるわ。」

メイドは従者としてあるまじき行為をとった。しかし普通なら向かっていくはずだが青年はその示されたところとは逆の道を行った。館の庭へと向かったのである。

 

メイドは何も言わないままその紅に囚われていた。

 

 

青年は思った。かなりの腕を持っている従者であると。だからこそ敢えて逆の道を歩んでいた。

 

「門番、ちょっと良いか?」

青年は門の近くまで向かうと壁越しに声を伝えた。

 

「はい、何でしょう。」

門番は完全に回復しているらしく、すんなりと答えた。先程は不意を突かれていたが体は丈夫であるらしい。

 

「従者が傷を負った。手当てをしてあげて欲しい。」

青年は心優しいお人だった、状況が違えば。

 

今は敵同士である。それを知っていての発言だろうか。

 

門番は青年の気が疲れ切っているのに気づく。この先に待ち構えていたメイドとの死闘はそれだけ厳しかったものと見て取れる。

 

「そうですか、分かりました。」

門番は静かに門を開けると中へと入った。青年との身長差は頭一つ分ある。それがどうこう言わないがそれなりに青年は気にしていた。青年が自然と見上げる形になっている。

 

「有難い、助かる。」

青年はそう言ってすぐに踵を返すと館の中へとのらりくらりと入っていった。門番はその後に続く。門番は不審に思いながらも、青年の言葉が本当なら、と思っていた。後の事はそのメイドに任せようとしたが、結果はこの感じである。三人のうち二人は中へと進んだかその場にとどまっている。そしてこの青年は咲夜さんを助けるために門番に声をかけた。

 

「どんな容態ですか?」

門番は咲夜さんの事が気になった。昔は世話をしていた者として子供のような愛情を注いでいた親が気にならないはずがない。青年はゆっくりと答えた。

 

「動けないように四肢にナイフを突き刺した。そのメイドの主人に対する忠誠心が俺を手段も関係なく殺そうとしていた。申し訳ないことをしたと思っている。」

青年は勝利を収めたが妙に自信がなさげだった。門番にとってはその事は不可侵としておいた。人を助けるような優しい気はしていなかった。

 

「傷のほどは如何でしょうか?」

門番は手当てをする際の事前情報として知っておこうと一応聞いてみた。確かに気になっている事とは違うが似ているところではある。

 

「傷は浅めにしている。が、せっかく美脚に傷をつけてしまっている。何とか出来ないだろうか。」

門番は青年に味方がいない事に気付いた。また、敵がいない事にも。青年にとって今の咲夜さんは怪我人に過ぎなかった。それまで戦っていたのは別人かのように興味がないようにも取れる。

 

「そうですか。出来るだけ綺麗に治るようにしておきますね。」

青年の思いやりを汲み取ってか、門番は出来るだけ早めに治すと答えた。その判断は吉と出るか凶と出るか少なくとも青年には知り得なかった。

 

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