青年放浪記   作:mZu

179 / 257
第179話

青い塗装されたこじんまりとした館、地霊殿と呼ばれる古明地 さとりの暮らしているところの庭ではこの静かな場所には似合わないような壮絶な戦闘が繰り広げられそうになっていた。

 

白い翼、それにかけるようにに宇宙のような装飾のされたマントを羽織っていて白のブラウスの内側から真紅の瞳を覗かせている霊烏路 空、通称お空はその目の前にいるものを睨んでいた。

 

青い帽子を深くかぶって後ろからボサついた黒髪を垂らすポケットが沢山ついた衣服を纏っている青年もまた同じく睨んでいた。

 

大きく踏み出して一撃を見舞おうと動き出したお空を青年は後ろへと飛び退いてかわすと左脚のローキックに合わせて腰に携えていた鞘で押さえつけるように叩いた。また後ろへと飛び退いて戦意のあるのかないのかはっきりしない青年をお空は追いかけていたがそれこそが罠だった。

 

先程二人の通って出てきた穴が青年の前にあった。それを確認するような事はなくお空は足を踏み出したのでその穴に片脚を入れて青年に後頭部を掴まれて嫌な体勢で地面に叩きつけられた。

 

お空はその場から素早く立ち上がった。それだけにお空の気分も悪くして更なる攻撃をされる前に決着をつけようと慣れないエネルギーの暴発に耐えながらお空は青年へと拳を向ける。

 

しかし目に見えるような位置には既にいなかった。お空は探そうとしていたがそれはすぐに見つかった。地霊殿の敷地からは離れて繁華街へと走っているように見えるのでお空はそれを追いかけた。青年は後ろを気にしながら制御させないようにした高速の飛行魔法により地面すれすれを飛んでいた。それこそこの先にある繁華街にはそれは頼れる人がいる。

 

星熊 勇儀という鬼の四天王の一人であるので力で対抗することができるかもしれない。青年は適当な事だが確かな自身があったので藁にもすがる思いで頼めば何とかなるかもしれない。

 

そう思った青年がお空を連れてきながらその場所へと向かう。その場所には関心がなかったので青年は覚えていなかったが真ん中には川が流れている。そこでかけられている橋の橋桁に右足をかけて飛行の力を変な方向へと向けると両手で反対の橋げたを掴んで身を隠していた。

 

その上をお空は飛び去るが周りの動揺は鬼しか居ないとしても並々のものではなかった。何せ、急に現れたのが勇儀を倒したと噂されている青年と何処か見覚えのあるが明らかに怖そうな形相をしているのが通り過ぎる。青年は腕の力を使って橋のところまで転がり込むが周りの状況など何も考えていなかった。

 

「何があったんだ?」

橋で呆然としていた鬼たちの中で一人だけ何となく提案するような言い方をしているが青年の耳には入っているのかいないかはさえ分からないほどに反応はなかった。

 

聞いているが無視しているのか、聞いていて耳に入れておくだけなのか、目の前からの一撃を避けようと準備しているのか。青年は左手に持っている黒い刀身の小刀を構えて前からの一槍をしゃがんで避けた。

 

それだけでどよめく周りの鬼たちに青年は静かな興奮を覚えたがそれを表に出すような事はなかった。お空にはその青年と同じようなものを露わにして大きな声を出して落ちてきた。

 

それは彗星の如く。

 

瞬く星々になど目をくれずにただ一点の黒点を目指していた。

 

小刀を鈍く光らせて左脚を軸にして地面に平行になるように飛び上がると小刀の波紋の上で空から降ってくるものを弾き飛ばした。

 

青年は右腕を体に擦り寄せて小指と薬指で持って他の指で勢いを止めるようにしていた。お空は川の中へと飛び込み水しぶきをあげるそのそれを青年は一身で浴びていた。周りにも少なからず影響はあったのかもしれない。それでも何も気にしていなさそうな青年はその場から立ち上がるとユラッ、としてから答える。

 

「勇儀を連れてきてくれ。俺が倒れるまでに早く。」

青年は周りに叫んでいた。その声こそは小さいがその脅威と言う名の何物でもなかった。慌てふためく鬼には目もくれずにしたから込み上がってくる憎しみに打ち勝つ必要がある。手段などは気にしていられなかった。

 

「分かった。」

そんな声はするが足音にかき消されて青年には聞こえなかった。

 

それに青年は深く集中していた。どれだけの強力な魔法を繰り出すことができるのか、どのような方法でどんな元素を用いて何をするのかを必死に念じていた。それからは己の体の限界を超えてさらにその先へと向かっていく必要がある。

 

それだけを理解してそれ以上何をすることができるのかは青年しか知らない。

 

リミットを外すのも自分で壁を作るのも自由だ。青年は左から感じるその熱風に左目だけを開けて反応した。周りにはもう誰もおらず、一騎打ちという状態になっていた。

 

これから何が起こるのは青年にも分からない。サイコロを振るかのような一か八かの勝負になりそうだ。青年が左手の中で回して親指で切っ先をお空の首筋に向ける。

 

それに反応してお空はただひたすら真っ直ぐに突き進んだ。イノシシのような猛進をするがそれは青年は読んでいる。軽くあしらった青年だがそこからが問題だった。

 

間合いを詰められているのでここからは相手の方に分がある。リーチの長さは劣るがその速さや器用性では段違いに相手の方が有利となっている。青年はその間合いを気をつけながら一発を受けてはならない。右脚を後ろにして闘牛のように扱ったがその後はお空の反撃の時間となっていた。

 

右脚を軸にして膝蹴りをしてくるのを青年は軽く跳んでから右腕で器用にその力をいなしたが軽く転がされた。それだけ相手の力が優っているということでもあるが最小限の損傷で抑えた。そこからどうするのかは青年に任せるが絶望的であるのは変わりなくそれこそ死んでもおかしくはなかった。

 

お空の左足の裏が橋についた時、最低限の損傷で抑えた青年はその先のことまでは読めなかった。青年の元へと走り込むお空の勢いを止める術はなく橋を壊すかのような一蹴りを腹で受け止める事になったが出来るだけ抑えたつもりだがそれでも力というのは分散させる事はできなかった。

 

その時には死というものを感じたがお空はその場で足を止めた。それ以上は行こうとはしなかった。青年の前には一枚の壁がある。

 

「姉御。」

青年はふとそう呼んだ。それこそ救世主のような存在へと変貌した青年は良くも悪くも素直にそう言った。

 

「そう呼ばれる筋合いはないよ。」

赤い一本の角を持った金髪の長めの髪で体操服かのような上に半透明の長いスカートの中に黒色の何かを履いている。下駄を履いていてどう見ても酒豪のような威厳のある立ち振る舞い。

 

星熊 勇儀と呼ばれている鬼がお空の前には立ち塞がっていた。ちょっと下に見下した節があるのだがそれは青年は何も文句をつける事はできなかった。今は助けてもらっている立場なので何も言いだすような事はできなかった。

 

「有難い。真紅の瞳を砕いてほしい。何だったら俺も援助として入ろう。」

青年はわざとらしく傷口を抉るように言っていた。鬼に対しては禁句であるし、まず種族の優劣の違いは大きくあった。大きく分けて神が一番高く、その次に妖怪や幽霊そして最後に人間がくる。

 

そして鬼というのは妖怪の中でも最高とも呼べる存在であり神にも匹敵するという噂もあったりなかったりする。そんな事など知らない青年だが勇儀は気にしていなかったようだ。

 

「任せた。加減は出来ないから多少の傷は目を瞑ってくれ。」

勇儀は少しだけ後ろを向いて地面に座り込んでいる青年の方を見ていた。寛大である勇儀の性格には青年も流石に期待に応えようと思わせた。

 

「後ろには俺がいることを忘れるな。」

青年は小言かのように口を挟むが勇儀は本当に気にしてなどいなかった。そうだったらしいです終わらせるので青年も何かと許している節があるように見えないわけでもなかった。

 

青年はスッ、と立ち上がると両手に小刀を持って構えていた。左手には黒い刀身で右手には見た目には分からないが鉄の混ざっている黒い刀身のものだ。重さは多少異なるがまだ使い慣れているわけではないのである意味ではどのように持っていても良かった。

 

その前では余裕綽々に含みのある笑みをこぼしてお空と対峙している勇儀が居る。二対一という勇儀には気に入らない状況だろうがその事は気にしていなかった。

 

それだけ認めているのかはさておき指をポキポキと鳴らして戦闘態勢に入っていくのをお空は我慢出来ずに一発攻撃を加えようとしていた。何がしたいのか勇儀はそれを真正面で受け止めた。右手と右手がぶつかりその一瞬の空気の振動を耳の中に入れた青年はその真実を知ることになる。

 

鬼でさえ正面からは止められなかった。一歩だけ退いた勇儀だがお空も同じく拳を痛そうにしていた。両者が動きを止めている中で青年は何を思ったのかその場から離れていた。ある一瞬に賭ける。

 

「勇儀、隙を作ってくれ。後は左側は空けていてくれ。」

青年はそれだけ言っていつでも行けるように集中してどのような軌道でいけば良いのかそれだけを考えていた。今青年が出せる最高速手間どの角度を進みどのタイミングで何をするかそれを全て頭の中で図式化していた。

 

「おう。」

勇儀の返事は短った。恐らく青年が下がっていることもわかっているのだろう。そしてあの杯を落としてしまった頃を思い出すが何か気にするような事ではなかった。勇儀がしたいと思った事をやる、邪魔するならなぎ倒す主義である。仲間であれば肩を組むということも。

 

「しゃぁぁぁああ!」

お空は更なる声を出して大きなエネルギーで勇儀と立ち向かおうとしている。その気迫には青年も況してや勇儀も押されるような事はしなかったが周りはそうでもないらしく鬼とは思えないような弱気な声が上がっている。

 

勇儀も負けじと気合を入れていた。鬼としてもう失態は出来ないというのかと思えるほどでもう青年は別世界となっていた。何か壁があるかのような中でそれを蹴破るように入るにはどのようにすれば良いのかを考えている青年にもまた違う意味で壁があった。

 

お空は一歩踏み出して右腕を引いてから前へと押した。勇儀も同じ格好で左足を踏みしめて潰すかのように右腕を動かしていた。互いの拳は擦れ合い互いの頰に当たった。

 

そこから一瞬だけの根気勝負だった。どちらかが押されたらそこから挽回するような手段はないのだろう。勇儀は右足を橋板に擦り付けて後ろへと行かないようにしていた。

 

ずっしりと巨岩のように重心を落としてお空を殴り飛ばそうとしていた。それはお空も同じで同じく勇儀に負けないようにしていた。

 

顔の歪ませて本気の殴り合いを始めているところで青年は後ろの方で身構えていた。このような互いに一歩も引けないような勝負に水を差すような青年の行動だがそれはもう仕方がないことだということで開き直る事にした。そうでもしないとやっていられない。

 

「よいしょっと。」

勇儀がお空を吹き飛ばした瞬間に青年はその場の橋板を壊すような勢いで前へと進むと風の元素を使って加速して最高速へと達して橋桁で方向を変えるとそのまま愚直にも真っ直ぐにお空の胸元を狙った。

 

手段はこれぐらいしかないと思えた時やろうと思った瞬間には青年は軌道は図式していた。其処からはどれだけに正確にできるかだけだ。それを見事やってのけた青年にはかなり驚かされる、と勇儀は感じていた。

 

「ぐっ、はぁ。」

お空の息の抜けるような声で出てその場に倒れこんだのを青年は受け止めていた。

 

「さて、地霊殿まで運ばないとな。」

そう言った青年を勇儀は肩を貸してやっていた。青年は最初受け取るつもりはなかったが結局のところ使う事になった。お空と言う重みに耐えられなくなったのである。

 

「お前ら、こいつは運んでこい!私は男を運ぶ。」

勇儀は周りの鬼たちを呼び寄せてから地霊殿へと向かってくれた。その背中で何を感じているのかは分からないが相当疲れの出ている青年はやっと落ち着きを取り戻していた。

 

さとりに見せられていたあの過去の記憶というものが青年を極限状態まで追い詰めていったのだと思われる。だが今はそのような事はない。青年は勇儀の背中で安らかな時間を過ごす事にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。