周りはまるで白で塗りつぶされたかのように視界は悪かった。
今日はとても霧が立っていて余計にそう思えた。淡い青い帽子からはその鋭いというわけではないが垂れているわけでもない目をした青年は久しぶりの場所へと訪れた。
昨日地霊殿は出発してきた。
どうやら危険物は没収されたらしいので煙草と言う青年にとっては相棒のようなものまで奪われてしまったが別に気にしている素振りを見せようとはしなかった。
あまり執着というものは感じていないらしくあるから吸う、無いなら要らないという考えとなっていた。そんな青年の目の前にはその怪しい館があった。紅く塗りつぶされた地霊殿とはまた違う色合いでまるでその主人の威厳を示しているかのようだった。
青年は少しだけウキウキしながら門の前まで降りていく。一段と霧が濃いらしく一回だけ池に落ちたが防水性のある衣服なのであまりその事は感じさせなかった。但し水はとても冷たいのでそれだけで機嫌は少しだけ悪くしていた。
「久しい。何日ぶりだろうか?」
青年は地面へと降り立ちゆっくりと口を開いた。目の前には首に緑色のマフラーをした少女で緑色のチャイナドレスを着込んでいる。
夏なら肌は見せていたが今回は少し姿が変わっているらしい。青年はチラッ、とだけ見てからすぐに視線を水平へと持っていく。
「元気そうで何よりです。」
紅魔館の門番をしている紅 美鈴という名で紅く長めな髪が特徴的である。服には龍の刺繍がしてあってそれが何か意味合いを持っているのかそうでは無いのかは気になっているがあったりなかったりするので記念品の類なのかもしれない。それとも毎日の衣服に変わり映えを気にしているのか。
「今日はパチュリーに会いに来た。」
「はい。聞いています。」
美鈴はその場から動こうとしているが急にピタリと門の前で立ち止まると何がしたいのか青年に向けて構えていた。青年は妖怪かハンターでも現れたのかと思っていた。妖怪は少ないが賞金のかけられているような扱いのこの館の主人は偶に現れる俗に襲撃を受ける事がある。
それこそ美鈴が数人見過ごすくらいであとは咲夜が片付けてしまうが偶に出くわす事はある。戒めとして十分に痛めつけてから美鈴は帰すが咲夜は非常にも血飛沫を上げさせるので通った方が大変であったりする。懐かしいと思っていた。
「誰か、居るのか。」
青年はその場で右腰に携えている剣の鍔を親指で弾いて静かに構えていた。しかしその必要はなさそうだ。
「いえ、パチュリー様から伝言がありまして。実は貴方を通してはならないということです。」
美鈴の動きはそこで急速に変わった。それこそ壁だと思っていたものが罠であるというくらいの衝撃がそこにはあった。青年は素早く美鈴の腰の入っている拳を左足を後ろに半身にしてから後ろへと飛び退いた。青年は状況が掴めていないらしく軽く混乱している状態だがすぐに立ち直った。というよりかは楽しく思えてきた。
「そうか。なら話を聞いてみる必要があるらしい。」
青年の表情は少し大人びていていた。何かあったのだろうがそれこそ美鈴には何もわからない話だった。四季異変も霊出異変も解決した一任者であるのだがそれを認知されるような節はなく博麗の巫女やそのバックアップとして君臨している八雲 紫の名が並んでいた。
知らないというのは仕方がないことでもある。しかし何が起こっても仕方がないと割り切っているのかそこからの行動は素早かった。ズボンに付いているポケットから素早く小刀を取り出す。鞘に納められているはずだがそれを見る人は少ないのは内蔵されているからであり、河童の技術力の高さが伺える。
「本当に申し訳ない事です。一応咲夜さんと同じ立場であるというのに。」
美鈴は遅い動きで息を整えていた。そして両手を広げて前で青年と重なり合うようにすると親指と人差し指で作った空間から覗いていた。左脚の方が前で出ていたがその構えだから何だ、というのは青年は思っていた。対して青年は右手に垂れ下げるように小刀を持っていた。何も構えていないように見えるのが青年のやり方である。皆からはそのように思われている。
「俺は認めていない。」
そこからは両者は素早かった。青年は上から斬り伏せる。
それに合わせて美鈴は受け流すと青年は後ろへと転がり込んだ。そこで美鈴は左脚の膝裏に一本の針が刺さっているということに気づいた。
それはかなり浅いものなのだが誰からされたのかはすぐに分かった。転ばしたはずの男だ。
ただのうのうと暮らしていたというわけではないらしいがふらっ、とした美鈴のその隙は見逃さなかった。青年も本気に来ている。だからこそ片手は開けていた。そこで何でも攻撃を通せるようにしていた。これは一枚取られたらしい。
「不思議な感覚ですね。安らいでいるかのようです。」
美鈴はその針から伝わるその感覚に優しく包み込まれていた。
「気持ちが良いだろう。月の元素と火の元素を少量を入れている。確か脱力させたはずだ。」
青年は少し嬉しそうに話していた。
一撃で落とされたわけだが美鈴も何処か満足そうな表情をしたその場で倒れ込んだ。そもそも抜くだけでも時間がかかる。
その間に首は刎ねられていると感じたのだろうか何か気にしているようだった。それこそ青年は紅魔館へと入る門の中を通り抜けていた。冷徹な周りとは違い優しさのある膝裏から伝わる何かは確実に美鈴の体を蝕んでいたがそれを気にすることができるほど万全ではなかった。
安らかに眠りにつきそうになるが必至に目を開けて針を抜く。黒い棒のようなもので何か変哲のあるものではないが青年の魔法が使われていたのを見て美鈴は不思議に感じた。
そしてこれを投げられた理由というのも確実に気になる。今度はもう少し本気を出してみようと考えた美鈴だがそれはいつになるのだろうか。