青年放浪記   作:mZu

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第183話

内なる思想に導かれて黒髪を大きく揺らしている青年はその扉を開いた。その先にはいつも通り螺旋階段がある。そして目線と同じぐらいのところに本棚があり、隙間なく何かの本が置かれている。

 

背表紙には何も書かれていないものもあるが厚さや色や大きさは違い、ジャンル毎に分かれているような気がする。そして青年はその場所から階段の手すりの上に自分の体を乗せて下を見ていた。いつも通りと言うべきなのか誰かが居るようなそんな気がしないのだが何か嫌な気がしているのがなんとも気になる。青年は仕方がなく自身の心の中で何がしたいのか聞いていた。

 

もう今では慣れたものだが内なる自分という存在は不安な時にふと浮かび上がる泡沫の一つであるらしい。青年は一通り終わらせるとその場から身を投じた。

 

皮膚にはその場での空気が当たる。スカッ、とする棘のある空気が青年の頬を叩く。その先に待ち受ける者がそれだけの迫を出しているかのようだがそれでぶれるほど青年もヤワではない。それだからこそここまでやって来たというのが事実である。

 

「久しいな。この空気というのも。」

青年は誰かに呟くようにしているが其処には二人しかいない。紫色の髪をしていて縦縞の模様のない紫色のゆったりとした服装をしていて丸縁の眼鏡をかけているパチュリー・ノーレッジ。この図書館の虫とも呼べる人物であり食べず、寝ずで魔法の研究に明け暮れている。

 

青年にとってはとても有り難い神のような存在であるがどうやら今回はそう思って対応はしてくれないらしい。それからその人に紅茶を出しているのは小悪魔という使い魔であるが青年には何処か違う気があるのは気のせいだろう。

 

「ええ、久し振りね。」

パチュリーは客人に言うような口ぶりではなかった。もちろん身内に話すような言い方でもない。それこそ賊と話しているかのような棘のある言い方であった。知り合いだからそのような言葉になっているだけで全く歓迎しているようには見えないのが気になるが青年としては気にしているそぶりはないのである意味ではそれでいいのかもしれない。それで良いのかはさておき、青年はある事を聞くことにした。

 

「して、パチュリー、門番に通すなと言ったのは本当か?」

青年は特に疑っているような節はないのだがそれが何か問題があるのかと言われるとある。少しは怒りなり何か反応を見せても良いのかもしれないが変に面白がっているので楽しそうにしていた。パチュリーはもちろん、小悪魔も表情には出さないが変な感じだあるのは確か。

 

「ええ。どうして前に追い出したかは分かっているでしょう。」

 

「頭を冷やして来いと言うことか?」

 

「いえ、貴方にはもう来て欲しくないからよ。それでも今日はノコノコとやって来たんだからそれ相応の覚悟はありのでしょうね?」

パチュリーは冷徹にも青年を追い出そうとするが当の本人がけろっ、としているのが妙に気に入らなかった。何か分かっているかのような表情をしているのがパチュリーには何か引っかかるらしく嫌そうな表情をしていた。何があったのかはしらないが小刀をのぞかせているので青年はやる気はあるらしい。

 

「覚悟はしていない。」

青年は変にニヤリ、と笑うとそのまま手すりを飛び越えてパチュリーと同じ視線にした。いつ間にか抜いていた小刀を見せているがパチュリーも小悪魔も冷静を装っていた。それこそ何があったのか人形のような感じであるので青年は変に不思議に感じた。それだけに何かあったのかと思えるほどであるがそれが普通な気がする。

 

「小悪魔、行ってあげなさい。」

ティーポットをパチュリーの使っている机に置くとそのまま歩き出して青年の前に立っていた。青年は小刀を手遊びの道具として扱っている。まるで前の状況を何とも思っていなさそうだった。それこそ何があったのかと感じるほどに状況に流されなかった。

 

「ご苦労だな。」

一応は声はかけるがそれ以上は何もしていなかった。何か問題でもあるのかと言わん程にその場で立っているので小悪魔からすれば嫌な事この上ない。

 

小悪魔は右手のひらを見せて何か出そうとしていた。何があるのかと思うだろうが青年はまるで見えていないかのように反応を見せなかった。

 

刹那、小悪魔の手のひらからはショットガンのような赤い弾が飛ばされていた。青年へと向かっているはずだが青年は右足を後ろへと下げて半身になり左手を上げただけだった。それだけで小悪魔の弾幕はいとも簡単に避けられていた。それだけではない。

 

小悪魔は何をされたのか分からないがその場でフラフラとし始めて前へと倒れた。その後ろでそのあっさりと倒された小悪魔を心配そうに見つめつつ青年の方を向いて何か言いたそうにしているパチュリーは口をパクパクとさせていた。どれほど弟子が強くなろうともここまでの事はないと思っていた。魔法だけを練習していたわけではないと言う事はそれだけでよく分かった。

 

「小悪魔も大変だよな。上から命令されてこうもあっさりと倒されているとな。どうだ、パチュリー、貴方自身が前に出てくる頃合いではないか?」

青年はなぜか挑戦的だった。まるで何も分かっていないようだったが確かな目はあるのはパチュリーの目にはよくわかる事だった。何があったのかはあの一瞬で青年はある魔法を発動させていた。それは簡単に言えばとても少量で小さい攻撃範囲で的確に狙っている、それだけでパチュリーが出てくる理由となっていた。

 

「仕方がないわね。お望み通りにしてあげるわよ。」

パチュリーは一冊の魔道書を片手に重い腰をあげると万年床のような場所から動いてゆっくりと前へと出て来ていた。青年はその様子を見ながら段々と落ちていくテンションに付き合いながらその時を待っていた。

 

「重い腰をあげるとは何か面白い事でもあったのか?」

青年は嘲笑気味に答えていた。パチュリーとの勝負を楽しみにしているかそれとも自分の魔法を披露することができそうなのが良いのか。

 

何かあるようで両者は互いの動きを見定めながらその勝負の時刻を待っていた。楽しみ半分、不安半分という感じだ。

「いえ、そのはずはないわ。」

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