淡い青い服装でピンク色の髪を唾のない帽子から覗かせて襖からひっそりと覗き見ている幽々子は自分の庭師とどこから来たのかよく分からない青年の勝負を見ているつもりらしい。
青年の方は何回か来ることはあったがここ半年は顔を見たことはなかった。それだけに彼処まで近寄ってもらえて良かったとは感じているが何が起こるのかはよく分かってはいないのでどうなるのかはまだ分かっていない。そもそもどの程度の実力を有しているのかが読み取れないので興味津々になっているというわけである。
「何かの力に目覚めましたか?」
庭師はゆっくりと口を開いてその余韻に浸っていた。何か楼観剣から感じ取ったことでもあるのだろうと幽々子は感じた。
「いや、昔を思い出しただけだ。」
青年の方も抑揚もない声で答えるだけで不穏な空気がその間を通っていただけだった。二人の世界に入っているのを感じ取りながら幽々子はその邪魔をしないようにその場からは動かないようにしていたがそれでも暇に感じることは多い。
「そうなんですか。」
その言葉を放った瞬間に楼観剣を下から斬りあげるように動かす。右手一本から放たれたその一撃を青年は来る方向へと逃げてから返し刃を受け止めてもう一度弾き返す。そしてお互いが踵を返して対面するようになっていた。その瞬間に両者がもう一本引き抜いて一歩足を踏み出す。
振れば当たる、その距離でお互いはにらみ合っていた。青年が踏み出してから妖夢は一歩退いた。その隙を青年は振り抜こうとはしなかったがその後は何故か謎の間があり、妖夢は不思議に思えた。打てる時にやらずに何を目的にしているのかが意味の分からないので何か楽しいわけでもない。
「何が目的なんですか。」
「何も。」
青年は本当に有益な事は何も答えなかった。それこそ何か隠しているかのようなものである。
「でしたら私は何もしません。」
「俺が賊ならもう幽々子は居ないかもしれないな。」
青年はヘラヘラとしながら軽快な動きで妖夢との間合いを取った。そして少しずつ下がっている。妖夢はその謎の行動に何か不安を感じたのですぐに止めることにした。
「なら、来いよ。剣術指南役。」
「私には妖夢という名前があります。」
得手である右腕から楼観剣を振り下ろす。そして白楼剣で左腕から斬りあげてそこから前へと斬り進んだ。青年は意外にも苦戦した様子である。
最後の一撃には身を後ろへとよろつかせていた。それを好機を見た妖夢。
その場から大きく地面を蹴って青年の元へと向かっていた。しかし青年に誘われていたと気づくのは転ばされていて天を仰いでいた時だ。そして立ち上がるが少しだけ気分が悪くなっていた。
「何をしたんですか?」
弱気な声で話している妖夢を軽快に手遊び用の道具として黒い小刀を持っている青年は口角を上げただけで何も答えようとはしなかった。
呼吸がしにくいと妖夢は感じているが横隔膜を刺激しているのでそうなるだろうと青年は思っていた。それから妖夢は双剣を構えているが青年も同じように構えていた。
その間に二人の接近はなく離れていくこともなかった。青年の手のひらで遊ばれているのを感じ取った妖夢は一気に距離を詰める。一刀の居合からダッシュ斬りの要領で間合いを詰めて一撃を浴びせるという少々非道な技を放つ。未来永劫斬、そう心の中で叫んだ妖夢の剣は青年の剣の前には無力に等しかった。
サラリ、と止められていたのを認識した妖夢は後ろへと飛び退き距離を空けるがそれは読まれていたのか足元をすくわれた妖夢はその場に転んだ。竜がくるぶしを一回りしたかのような風が吹いていた。
「足腰は鍛えておいた方がいいだろう。」
青年はそれだけを答えているのだがそれがどのような効果を示しているのかは分かっていなかった。
「それで結局何がしたかったんですか?」
妖夢は双剣を鞘へと納めてから歩き出して青年の近くに寄った。
「何も。少し昔を思い出したので何となくやってみただけだ。」
青年も少し迷いがあるようでスッキリとした答えではなかった。妖夢はそれ以上は何も聞かないことにした。あまり聞くようなことでもないと判断したのだろうが謎は深まるばかりなのでそのうちと言うことである。
「幽々子、妖夢が負けを認めたから攫われてしまうな。」
青年は襖で覗き見ていた幽々子に話しかけた。
「何をするのかしら。」
幽々子はとても楽しそうに答えていた。そんな事をするはずがないと幽々子はもう分かっていたのだろう。青年もそれ以上は何も答えるような事はなかった。
雪の敷かれているところへ向かってから縁側でその景色をのんびりと見ていた。幽々子はその青年に一つ耳打ちをしていた。それだけなのだが一回ここで面白い事をするつもりらしい。
「幽々子様、山本さん、茶を持ってきましたよ。」
妖夢は幽々子の世話役として茶を持ち運んで来ていたのだが何か気になる光景になっていたことが不思議で仕方がなかった。幽々子様の服装をしている人からは黒髪が見えている。そして紫色の服装をしている人は帽子でうまく隠しているが胸が不自然であった。無理やり隠しているかのように腕を組んでいる。それ以外は何か問題があると言うわけではない。
「姿が変わっていますよね。」
妖夢は攻め立てるような口調で話していた。幽々子はくすくすと笑ったのですぐに分かってしまった。
「やっぱりですか。」
「幽々子さんが笑わなければ見つかる事はなかっただろう。」
「だって、妖夢がすぐに気づかなかったのよ。」
幽々子は紫色の帽子を顔の前からどかしてくすくすと笑っていた。その上品な笑みをこぼしているのを膝を受け止めている青年という構図。
「幽々子様、足を組むのはやめて下さい。はしたないです。」
「大丈夫よ、誰が見るというのよ。」
「それもそうですけど。」
「幽々子さんが着たいと言ってきたからな。しばらくさせておくと良いだろう。」
「もう、二人してなんですか。」
「私たちは元からこういう仲よ。残念だったわね。」
「そういう話ではないです。」
その後、青年と幽々子の服装をもう一度変えて三人で静かな時間を過ごしていたとかそうでもなかったとか。