青年放浪記   作:mZu

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第192話

黒髪を揺らした青年はやり方を変えて実現するために何をすれば良いのか考えていた。此処にはメモする一式がなかったので全て頭の中で想像通りのことをしようとしていた。

 

それに出来る、出来ないの概念はなくただひたすらに実現するための方法を模索し続けた青年とその協力者であるお燐とお空はその熱意には圧倒されながらもそのやる気に鼓舞されてここまでやって来た。実現が可能と思われる段階まで来たので初めてさとりに許可を取りに行くことにした。

 

所有者としての威厳もあるだろうしそもそも土地を借りるという意味では当主に聞く方が素早く事が進む。その方が早いだろうと思えたので青年も一旦休憩してからそのように事が進むことを祈ってお燐に行かせていた。

 

青年は久しく地上には出ていなかったので何となく意識が遠のくのを感じながらどのようになっているのか考えにふけっていた頃だった。

 

「良いってさ。さとり様から許可を得る事が出来たよ。」

お燐は青年の近くに寄って大きな声で話していた。別にそうする理由はないが青年の意識が迷子になっていたからなのだろうと思うとふとそんなことを感じる。

 

「そうか。なら、早速作業に入るとしよう。」

お燐の言葉を聞いて何か思ったのかフラフラと歩き出して目印をつけていた場所の前に立つと双剣を音を立てて抜いて構えていた。二人は後ろからしか見いていないのだが額の近くに刀身をすり寄せて何か念を送っているようにも見えるのであまり話しかけるようなことはしなかった。

 

だが、何をしているのかは興味はあるので二人は近づいていくことにした。左腕に持っている剣からは水滴を垂らして右腕の剣で受け取るように絡め取っている青年は己の限界ともいえるような事をしていた。

 

まず火の元素を使って水の元素を可視状態の水に変えてから右腕の剣で抽象的な月の元素を使って周りに集めていた。それを邪魔するのはご法度というものである。

 

お燐とお空は互いの顔を見合わせてまた後で話を聞くことにしようとしていた。何が起こるのかは全く分からないが話しかけても良いわけがないと思えてきた。そして離れていく。青年が逆手に剣を持って左腕に持っていた剣を鞘の中に納めると其処から一気に剣を振り下ろした。

 

大きな轟音が鳴り響きお燐は耳を塞いで飛び上がった。ちょっとした土煙を上げているのが気になるがやはり話しかける気にはならなかった。あまりにもびっくりしたのかお燐は地面をのたうち回っていた。その姿を心配そうに見つめるお空だがどうする事もできなさそうなので取り敢えず落ち着かせようと話しかけていた。

 

目印が付いていたところで地面に座り込んで寝転がる青年も気になるが意識はやはりお燐のほうへと向いていたらしくお空は何もしなかった。

 

「びっくりしたよ。」

 

「すまない。集中しないと出来なかったから話しかけるのを忘れていた。」

青年は悪びれもしなかったがその功績は確かなものだった。青年が地面に穴を開けた音でお燐がダウンしてから数分が経っていた。その頃にはお互いに落ち着きを取り戻していた。

 

「これも温泉を作るためには必要なことなの?」

お空はそんなふうに聞いていた。先に言うがある程度は計画は三人で練っていた。その中でお燐はどうしても雑用という形で身の回りのことをさせていたが大体の計画のことは知っていた。青年が念入りに話していたというのもある。それに対してお空のエネルギーを使っているのにもかかわらず本人が何も覚えていなかった。それでは何ともならないので青年はもう一度話していた。

 

「そうだったね。私が赤い小さな弾を作ればいいんだったね。」

 

「そうだ。お手数をかける。」

青年はそれだけを伝えてからもう一度立ち上がると双剣を抜いてから意識を集中させていた。これから練習していたことを行う。青年はどのように動けば良いのかを頭の中で妄想していた。

 

そして何を使うのかを念じて剣に伝えていた。そして合図を送る。そこからはぶっつけ本番ということになる。青年が成功したからといって下から湧き出る可能性はあるとは限らない。

 

つまりは地霊殿から繁華街までの間の道の何処かでする必要があるのだがそれがどこで起こるかを正確にするのは至難の技とも言える。そもそもそのような技術は三人にはない。やるだけやってからその先を考えていく必要がある。

 

「準備出来た?」

お空は集中している青年に話しかける。青年は片目を薄く開けてから閉じた。それだけであるのだからしっかりとお空には伝わったらしい。

 

「行くよー。」

お空の右手のひらからは小さな球が射出された。その小さな弾でもそれなりに力があるのでそれが困ったものではある。しかし成功させなければ先には進まない。

 

青年はそう思ってから目を見開いて地面を蹴る。そして双剣を振って赤い小さな弾を囲うと其処から踵を返して更に包み込んだ。陰の元素により元素の活動を止めておいてからゆっくりと先ほど穴を開けておいたところへと入れていく。そして剣で最後の一押しをして青年は後ろへと倒れた。

 

それだけ集中していた証拠とも言えるがそれは慣れていないという証でもあった。一回の使用で此処まで追い込まれるとは思っていなかった青年は自分の力不足を勝手に痛感していた。

 

「これで暫くすれば間欠泉の弱いものが起こるはずだ。」

青年は両腕に持っていた剣を地面に置くと鞘の中には納めなかった。それだけ疲れているからではなくいつでも対処できるようにしていたのだ。

 

地面へと衝突的に飛び出した間欠泉はかなりの威力で行われていたのだろう。青年はそれを加味してどれだけの小さくすれば上手く調整できるのかを考えていた。

 

その中で青年は何とか出来る物で試すことにしたが今のところは何も起こっていなかった。しかし三人は何も声は出さずに出てくるのを待っていた。地面の小さな揺れを微睡みの中で感じた青年はふと立ち上がり自分で開けた穴のところを見ていた。その中からは少しずつだが湯気が立ち込めていた。

 

そして姿を見せたのは透き通るような色をしている湯が出てきた。そして流れるところを探すようにあたりへと広まる。これが地霊温泉の第一歩だった。これからはお前らに任せると言う話を伝えてから地上へと出る事にした。


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