人里ではある噂で持ちきりであった。その噂というものは雲の上に船が浮かんでいるという話だった。
最初のうちは何処かのホラ吹きが流した話だろうと誰もが思っていたが段々と同じような話を聞くうちにもしかしたらそうなのかもしれないという話になっていた。
それを嗅ぎつけた新聞記者はこぞっていろんな視点から書かれたその船についての話を掲載、それによりより混沌へと落とし込まれた状態となっていた。その熱気に溢れる人里は程遠い場所である意味では静かな何もないような場所にいた。
「眩しいな。」
紫色の服装をしていてローブのようなゆったりとした服装をしている黒髪の後ろで結んだ髪のある青年は蹴伸びしながらその太陽の方を向いていた。
薄暗かった地底とは違い明るく日差しの暖かい温暖な気候をしていたので青年は余計に気持ちよくなっていたのかもしれない。それにカラッとした乾いた空気をしていてとても嬉しそうにしていた。じめっとした湿った空気ではない。
「だがかなりの期間地底に居たようだ。」
急にしょんぼりとしていた青年だが真冬に起きた地底での起因がある異変は霊出異変からも基本的に地底に居た為にいつのまにか春へと向かっていたのに気付いたということである。
それだけ温泉作りに熱中していたのだが不満であると言えばそうなるのだろう。地底では一日中日は登ることはなくまた沈む事はない。眠くなったら寝るし起きたら一日の始まりだ。
そんな生活だったので日がどのようになっていたのかは知る機会がないので当然と言えば当然である。考えていても仕方がないと思えた青年はその先を急ぐことにした。しかし飛ぶ気にはならずそのまま西の方向へと向かっていた。そこには人里と呼ばれる場所があり何か物が買えるようになっている。
無一文の青年だが知人に少し借りることにしようと考えていた。それとも妖怪の山にでも行こうか、にとりにはとてもお世話になっていたのでその礼を言いに行くのも悪くはない。青年はふと考えながら西へと向かっていた脚を北側へと変えてそのまま歩いていた。
何か問題でもあったのか誰かの唸り声が聞こえる。青年はなんとなく気になるので行ってみることにしたがそこにいたのはネズミだった。
癖のあるダークグレーのセミロングの髪をしていて真紅の瞳をしていた。そして耳には丸いものがある。青色のケープを羽織っていて全体的に灰色の服装をしているがスカートの裾には奇妙に切り抜かれたようになっていた。黒い棒を持って何かしているようだが何をしているかは分からない。
「何しているんだ?」
「いや、無くしものを探しているんだ。」
その人は振り向いて青年に顔を見せた。あまり表情の起伏のない人のようで無関心そうな目をしていた。首からペンデュラムのようなものは垂れ下がっている。
「君には何も分からないだろう。」
「そうだな。だから教えて欲しい。何か面白そうだ。」
「そうかい?なら協力してもらうとしよう。飛倉というものを探していてね。それらしいものがあったら教えてくれると助かる。」
「そうか。」
青年は辺りを探してみるが別にそれらしいものはなかった。そもそも何かわからないのでなんとなく探すことになっている。
「その飛倉というのは木製のものなのか。」
「微妙に違うがその観念で探してくれれば良いだろう。」
その人は何かそっけない返答しかしなかったので何も答えられなかった。
「名前はなんだ?」
「忘れていたな。名はナズーリンという。君は?」
「俺は名前は持っていない。青年とでも呼んでくれたらそれで良い。」
「とても変わった人間のようだ。興味が湧いてきた。」
「それはどうも。」
「後ついでに宝塔も探して欲しい。」
ナズーリンは青年に対してぽろっと追加で頼むことにした。しかし青年はどちらもどのようなものか分からないので何も答えられなかった。
「宝塔とはなんだ。」
「簡単に説明するなら白い半透明のものが入った社のような形をしている。言っても分かりにくいから無理に探さなくても良い。」
「そうか。少し時間をもらっても良いだろうか?」
「どうした、何か思い出したのか。」
「香霖堂で見たことがるように感じた。だが本当にあるのかは分からん。」
ナズーリンはある意味では適当にあしらって適度なタイミングで切り捨てようとしていたがそれは少しだけ伸びそうだった。
「それは本当なのか?」
「はっきりと言える自信はないがあるような気はする。」
「それなら早めに行こう。」
ナズーリンは青年を引っ張るような仕草を見せるがすぐに冷静を装った。あまりそのようなところは人には見せたくないというナズーリンの甘えなのかは分からないがつまりはそういう事なのだろう。
「それならまずはそと飛倉の形を教えてもらいたい。そうでもなければ教えることはできないな。」
「元々は宝塔の光をあてることで初めて作動する木箱のようなものだ。だが何かの拍子に砕けてしまったのでその破片を拾い集めようとしているということになる。決まった形はないからそれらしいものしか探していない。」
「となるともしかしたらガラクタのようなものがその飛倉というものになる可能性もあるのか?」
「十分にあり得るだろう。何せ常人にはただの木片だろうからな。」
「それは仕方がないな。」
青年は少しだけ考えていた。ナズーリンはその間に青年の変な事についてなんとなく頭の中で整理していた。今まで会ってきた人間とは違い生きているのかと思えるようなほど起伏のない性格をしている。そしてとても素直なような気もする。そして興味ありそうなことには首を突っ込む。
「それでは連れて行ってくれるのだろうな?」
「そうだ。少し距離あるがどうする。」
「歩いていくさ。」
「飛べないのか。ならしかたがかいな。」
「君も飛ぶことは出来るようだね。それなら飛んで向かうとしよう。」
「そうだな。」
青年は右腰から抜いた剣で身体を浮かび上がらせると自分の中で判断を怠らないようにしていた。何かあれば気にぶつかるか誰かに迷惑をかけることになりそうだ。