青年放浪記   作:mZu

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第196話

ただ広く悠然と人里を見下ろす雲の上では大きな入道雲が突然現れた。巫女と魔法使いはその状況を確かめるべく急いで向かう事にした。その場所は何も無かったがそれだけにその雲はとても目立っていた。

 

「アンタね。」

霊夢はビシッ、とお祓い棒を使ってその人を指していた。その人は眉ひとつ動かす事はなく頑固なオヤジの様な鋭い目線を霊夢へと届けていた。霊夢も同じように目を見て話を進めようとしていた、ある意味では二人だけの戦いになっていたのだがお互いに口を交わす事はないので何をしたいのかは全くと言って何も分からなかった。魔理沙は後ろで傍観に徹することでその空気からは一歩引く事にした。

 

「雲山、お辞めなさい。」

その入道雲、雲山と呼ばれていた妖怪の下で尼のような姿をした女性がいた。頭には尼のような頭巾をしていて水色の髪を晒した灰色がかった黒色の瞳をしている。

 

頭巾の裾にはギザギザの切れ込みが入っているのでずっと着込んでいるからなのかそのような服装であるのかは判断はつかなかった。雲のような何の色味もない白色でスカートとも呼べる部分の裾は藍色をしている。灰色の長めの靴下と黒色のブーツのような姿をしている。右手には金色の輪を持っている。

 

「誰よ、私はアンタに用はないわよ。」

 

「待ちなさい、霊夢。少し話を聞いてみるのがいいだろう。」

 

「誰よ、」

 

「そんな茶番は置いておいて話を聞くなら下にいるあの人の方がいいと思うぜ。」

魔理沙は少々の茶目っ気のある発言をして霊夢の気を引かせてから身のある話をしてみる事にした。尼のような姿をしている女性は目の前の二人の話を真面目に聞いていた。

 

別に盗み聞きするつもりはないが敵対するかもしれないので油断はしていないと言う意識の表れでもあった。

 

「で、アンタは何者よ?」

 

「私は雲居 一輪。入道使いの妖怪よ。」

一輪と名乗ったが霊夢はさらに警戒する事になった。それは妖怪であると言う事。

 

「なら一旦退治されなさい。」

 

「強引だぜ、ちゃんと話は聞いておいた方がいいぜ、霊夢。」

その魔理沙の言葉に耳を貸すつもりはなさそうな霊夢はその先にある入道雲との戦闘の事しか考えていなかった。魔理沙は友達として無駄な戦闘は避けたいと考えていたがそれをさせてくれなかったのは霊夢の行動の早さにあった。

 

既に札を投げつけていた霊夢はそれから追撃をかけるようにお祓い棒を右手に持ってその入道雲の元へと突き進んでいた。

 

「札は効かないのね。」

ピタリと空中で止まった霊夢は一旦一輪と話を交わす事にした。

 

「それでアンタはどうして私に喧嘩なんて売ったのかしら。」

 

「いえ、私はここである物を探していただけです。」

一輪は冷静に霊夢の言葉に対して返していた。ある意味すっきりとするぐらい清々しい回答なので魔理沙もかける言葉も見失ってしまった。確かに一輪の言う通りなので霊夢を擁護する意味は何もないのである。

 

「霊夢、もう辞めておけ。」

 

「いえ、妖怪と私に言った時点で退治される理由よ。さぁ、大人しく退治されなさい。」

 

「どうして話を聞かない人なのでしょうか。雲山はどう思われますか。」

はい、はい、と一人で会話している一輪を奇妙なものを見る目をしていた二人だが雲山から発せられる声の大きさがあまりにも小さく何もを話しているのかは一輪にしか分からないと言う事である。

 

霊夢は札を袖から出して戦闘準備をしているので魔理沙はそれを止めるべく右隣に箒を寄せていた。まだ早い、と霊夢を止める魔理沙だがあまり効果はないのはよく知っている。

 

こういう時ストッパーとして働くのは魔理沙の方である。一旦動き出したら魔理沙よりも素早い行動を起こすのでお互い様というものである。

 

「雲山は相手してやってくれ、と仰っています。如何されますか?」

一輪は一通りの会話を雲山とは済ませたらしく結論を取り出してそれから金色の輪を前に突き出していた。どうやら何方でもいいらしい。

 

「そんな事は言われなくても大丈夫よ。」

一体何が良いのかはさておき攻撃を仕掛けるために大きく右腕を振って札を一面にばら撒いた霊夢は一輪の方を狙っていた。最初は雲山の方へと向いていた。

 

それでも下へと軌道を変えているので一輪はさらりと輪を下へと向けていた。その後を雲山と右手が覆い、ポスッ、と突き刺さる形で受け止められてしまった札はその後ハラハラと地上へと舞い降りていた。霊夢にはどうしてやる事もできなさそうだった。

 

「やりますよ。」

一輪は一旦冷静をなくしたように叫ぶと左右の腕を前へと突き出してから下から上へと右腕を動かした。その後に続くように雲山の人の大きさもある拳が乱雑的にそして狂気的に襲ってきた。避ける事はほぼ不可能。無数に現れる拳に霊夢と魔理沙は避ける事しかしなかった。

 

それでもその後のことまでは覚えていなかった。その後に雲山の二人を突き飛ばすような拳には気付けなかった。霊夢は咄嗟に自分を札で包んで身代わりとする事で一難を逃れた。

 

魔理沙は小さな八卦炉を箒の掃くところへと取り付けて爆発的な加速力でその場からは逃げていた。その素早さに一輪は少し感心しているが力の差は歴然であった。顔と両手の拳しか見えないが一輪が豆粒かのような大きさなのでもしかすると雲の下に本当の身体があるように思えた。

 

それだけの大きさに二人はどうするのかを迷ってしまった。何か策はあるのだろうか。魔理沙は一旦魔法道具である缶のような容器を一輪に投げつけて時間稼ぎをするようだ。もちろんそれは一輪の元へは当たらないが一様の時間稼ぎとして効果はあったらしくそれだけで魔理沙は一旦息を吐いた。

 

「霊夢、あれはどうやって倒した方がいいと思う。」

 

「知らないわよ。アンタの魔法は弾かれているからもしかすると硬さは自由自在なのかもしれないわね。」

舌を鳴らして厳しそうな目つきをする霊夢はこの場で本気というのもを見せるつもりであるらしい。それでもやはり届かないのではないかと思えるのだがさてどうだか、魔理沙は友達のその力には憧れている。

 

だからこそここまで付いていくのであるが今回は勝てそうなビジョンは何も見えなかった。それこそ何が出来るのか魔理沙自身はそのことを考えていた。何が出来る、それだけだった。

 

「偽装するのはどうだ。」

 

「偽造?どうやってやるのよ。」

 

「それはおいおい話す事にしよう。あの拳は危ない。」

魔理沙はそれだけを伝えると左側へと逃げていた。霊夢は前の状況を確認してから急いでその場から離れようとするのだが何も見えなかった。

 

あたりの景色が一気に回転し始めてそれから何が起こったのかを理解するためには時間がかかってしまった。それから右半身に来る激しい痛みがあってやっと気付けた。それが何が起こったのかを知るのにはとても遅かったのかもしれないがそれだけで霊夢には十分だった。

 

「やってくれるじゃない。」

舌を噛んで意識を取り戻す霊夢はそのままの速度、方向で雲山の後ろへと回り込むとそこから一気に札を投げながら霊夢はお祓い棒に霊力を込めていた。

 

札は雲山へとそれからお祓い棒の先端は一輪へと向いていたがそれは一輪には同時に処理されてしまった。雲山は軌道の事も考えて先に自分の体で受け止めて一輪の方へと向かないように勝手に動くと一輪は金色の輪の上にお祓い棒を滑らせて左手で人差し指と中指で下へと指示した。

 

上から来るその衝撃に霊夢は背中を反らせて地上へと叩きつけられる、肌に触れる刃のような空気の擦れる痛みが全身に感じる中で止まらないその予知から半ば諦めていた。

 

そして腹に一本だけ筋を描くようになっていた痛みを知覚した時には何か違う事に気づいた。

 

「霊夢、あまり無茶はしないで欲しいぜ。」

魔理沙は黒いとんがり帽子を上げて霊夢の方を向いていた。そして一旦雲の下へと逃げ込むので霊夢ははっ、としていた。

 

「何しているのよ。」

 

「今は冷静になるべきだ。それに下からの攻撃を止めるのはきっと難しい。」

魔理沙は霊夢に上を向くように勧めていた。何も見えないので雲山は顔と拳だけの存在だと認知することができた霊夢だがそこからどのように繋げられるのかは何ともならなかったそうだった。

 

「そのようね。それでこれからどうするのよ。」

 

「兎に角これでも飲んでいてくれ。」

魔理沙は取り敢えず会話を始める前に一本のドリンクのような容器を霊夢に渡していた。その容器を渡された霊夢だが何が入っているのかは分からないので半信半疑の状態でどうすればいいのかさっぱりだった。

 

「これは何よ。」

 

「痛むだろうと思ってな。その痛みを抑制するための魔法道具だとさ。」

 

「魔理沙、何か下手物ではないでしょうね。」

 

「その点は安心しろ。私が複数の魔道書を読み漁って調合したものだ。味は保証しないが効果は抜群だぜ。」

魔理沙は自信満々に答えるのである意味霊夢も何となく飲んでみる事にしたらしいがその味に顔を歪ませていた。そうなるのは仕方がない事だとしてそれにしても苦そうとも辛そうにも見える顔をしているので魔理沙は苦笑いする事しかなかった。それ以外は何もなさそうだ。

 

「何、これ。不味いわね。」

 

「仕方がない。調合したものは大抵そういうものさ。」

魔理沙は箒を上へと向けて飛び出す準備をしていた。霊夢は一旦魔理沙から離れて出来るだけ多くの札を準備していた。

 

「マスタースパーク!」

魔理沙は大きな叫び声と共に八卦炉から大きな熱光線を射出する。その中に霊夢は札をばら撒いて上へと振り撒いていた。

 

それこそ何が起こっているのかはよく分からないのだろうが相殺しないように上手く調整された威力をしている。霊夢と魔理沙だからこその一撃に上で悠然と眺めていた一輪と雲山にはもろに当たったと思われる。

 

「一気に押しかけるぜ。」

 

「ええ。」

それから二人は速度を上げて雲の上と再登場すると構えていた、戦闘に入る前のその前触れとも呼べるそれを。だがその必要はなかった。一輪が急に現れた二人の方を向いていた、その後ろを狙撃するようにある巫女が立っていた。魔理沙はどうしてそのような事になっていたのかを考えていたが別にその必要はなかった。

 

霊夢はもう見えていたのかのように反応は薄かったが新たなる来訪に敏感に反応していた。緑色の髪をしていて白の羽織で青い水玉模様のスカートをしているその少女は大幣を持って二人の神からの仰せのままにここまでやって来ていた。

 

「霊夢さん、お久しぶりです。」

その人は一礼してからそのように話していた。

 

「誰よ?」

霊夢はその礼儀に答えるつもりはなさそうで名も知らないので悪態をついていた。魔理沙は霊夢に耳元で軽く説明していたが全て話し終える前に向こうの方から紹介された。

 

「東風谷 早苗と申します。守矢神社の巫女をしている者です。」

丁寧に受け答えをして品のある早苗とは裏腹に何の品もない霊夢が対照的に見えて少しだけ吹き出してしまった魔理沙は二人から睨まれる事になっていた。霊夢は一瞬だけ魔理沙を見てから早苗の方を向いていた。

 

「アンタも財宝の為に此処へと来たのね。」

霊夢はいつまでも喧嘩腰で話しているがきっと早苗の気に触るのだろうが本人は何の反応も見せずに静かにいいえ、とだけ答えていた。

 

「人里ではとても不安に思っている方がいます。その方の為に私はお二人の言葉のままに船を探す事にしました。」

 

「そんな建前はいいわ。付いてくるなら付いて来なさい。」

霊夢は激しい口調なのだが何か慈悲のあるかのように話を進めていた。品はなく口は悪くとも巫女である事には間違いない、人を導く為の術は持ち合わせているようだがそれなら賽銭は空っぽである訳がない。

 

「はい、お二人についていきたいと思います。色んなことを教えてくださいね。」

ニコッ、と笑った早苗を鼻で笑う霊夢だがそれ以上は何もすることはなくせを見せてそのまま真っ直ぐに進んでいく事にしたらしい。それだけ済むならいいのかと魔理沙は心の中で思いながら口には出さずに霊夢と同じくを背を向けていた。その二人に早苗は敬意を込めて付いてく事にした。

 

古参である霊夢と魔理沙は新参者である早苗を歓迎するとは明確には口にはしていないのだがそのように感じる。二重の意味で早苗は二人に向かって静かに手を合わせていた。

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