大きな音がした。
その音の出所は後ろの方から聞こえているがこの船には四人しかいないはずで目の前にいる寅丸 星、ナズーリンと船長、それから青年しかいないはずだがその音は人為的な木の折れる音がしていた。
「招かれざる客なのか。」
黒髪の青年はボソリと答えていた。その声は四人にしか聞こえているのかどうかそれぐらいの声量であった。
「そうだね。ここは私が止めておこう。」
ナズーリンは宝塔の探索の時に用いていた黒い棒のようなものを両手に持ってその物音のしている方に向いていた。それから船長もどこから出したのか分からないが錨のような青いものを取り出していた。
青年は面倒な事になったのだろう。そう考えたのか柄を右手の中に納めてからその方へと向いていた。
「寅丸、何があったのか分かるか。」
「このような魔界にまで来てくださるなんてなんと信心深い人なのでしょう。」
「嬉しそうなら何よりだ。」
青年はそれだけを言葉として出してから何か言おうとしている寅丸を見ないようにしてその音の原因と思われる場所へと向かっていた。客人して招かれているのは確かであるがただ傍観しているというのも癪に触るらしいので寅丸の発しているのであろう事は耳には入りそうになかった。
「アンタ達がこの船の持ち主ね。」
聞いたことのある声が響いてきたところで青年はふと何かを感じると踵を返して後ろへと下がった。船長とナズーリンには悪いがこの声は知人なので行けばこじれる事になる。
「おいおい、何やってんだよ。」
これもまた聞いたことのある声がしてくる。最初に話していた人とは昔からの関係なのでその二人の間には表裏一体のような距離感がある。青年は余計にその場から逃げようと思えた。
「流石です。このように進む事も時には必要なようですね。」
誰?青年はその声を聞いた瞬間にそのように思えた。もう誰だろうと思えて面白半分でその方へと向かおうとしたがなんとか押し止まり行くことはなかった。しかし面倒な事になっているのは言うまでもないので青年は何と無く寅丸のところへと行く事にした。
「どうされましたか?」
寅丸はその青年の行動を疑問に感じたのかそのように聞いていた。行動している本人は首をかしげるだけで言いにくそうにしているので寅丸は黙って引き出してみる事にした。
「知人が迷惑をかけた。」
「知人なんですか。話を聞いてみてこちらが判断させてもらいます。」
「優しめに頼む。だが、迷惑をかけたのは事実だ。厳しくしてもらっても構わない。」
青年は言いにくそうにしながらも寅丸と背中で語るのでお互いの表情は読み取る事は難しそうである。それでもちゃんと意図は伝わっているらしく寅丸は善処する、とだけ答えていた。
「邪魔するなら退治するわよ。」
「財宝はどこにあるんだぜ。」
「妖怪は退治されるべきです。」
この船へと侵入してきっと中を探検したと思われるが青年はアホらしくて言葉も出なさそうだった。それこそ何をしているのか顔を隠したくなるような気分になる。
「まず船の一部を壊したのを謝る方が先じゃないか?」
「そうだね。いきなり来てその態度だと此方も相応の対応をしないといけなくなるから面倒ですね。」
ナズーリンと船長は少々怒りながらもそれは隠して三人との対話をしていた。兎に角青年は事が終わるまでは静観しているつもりだがいつ指名が来るのかは分かったものではないので出来るだけ静かに動きを見せるような事はしなかった。
「それなら私も何も我慢する事はなさそうね。」
「私も参加したいです。」
「さて、やろうぜ。」
何故か力を込めている三人をナズーリンと船長は暴力では訴えるつもりはないのだろうがこうなれば手早くそれを使っていた方がいい。ナズーリンはきっと何もしないのだろうが船長の方は自分のものを壊されているので怒りたくなる気持ちも分からんでもない。
「寅丸、俺と一戦交える事になるのかもしれない。」
「それはどうしてなのだ。」
「理由は簡単だ。向こうの方に行ったところでどちらに着けばいいかよく分からなくなる。」
「分かりました。本来私達の仏教は暴力は禁止されていますが今回は牽制という形で必要となるのでしょう。」
「すまない。本当に迷惑をかけてばかりだ。」
「いえ、お気になさらず。」
寅丸がその言葉を発した時点で青年の心は決まっていたように思える。ここから始まる勝負に感化されるかたちで青年は剣の鍔を親指で弾いていた。
「貴方達がここから出ていけば何もするつもりはありません。」
「そんな訳が通ると思っているの?空に浮かんでいる時点で怪しいのよ。大人しく退治されるか抵抗してから退治するのか選択は与えるわよ。」
「いっそのこと清々しいほどの自己中心的なお方だね。」
「こうなったら正当性を訴える事にしよう。ちゃんと策はある。」
ナズーリンにも不毛であるのは目に見えているがそれをなんとかする事は出来なさそうなので半ば諦めているようだ。
「人里では噂になっているらしいわね。その混乱を鎮めるためにそれ相応の退治する理由はあるのよ。さぁ、どうするの?」
赤い服を着ている巫女はそのようにお祓い棒を構えてナズーリンの目の前に向けていた。何をするのかと言えばそれはもうどうにもするような事は出来なのだろう。
「分かった。それは迷惑をかけた。だがこちらにもそれには正当な目的があることは忘れてほしくはない。」
「なら抵抗するのね。」
赤い服装をしている巫女は袖から出しておいた札をいきなり投げつけた。目の前で何をするのかは読めていたのだろうか黒い棒を用いてその札を吸い寄せると無力化してその場をなんとか凌いだ。
「その辺りの融通は利くようにしてみたらどうだ。」
「私は私なの。それ以外は何も関係ないわよ。」
「そうかい。ムラサも協力してほしい。」
船長は錨のようなものを背中に背負いながら気怠そうにしていた。それ程に面倒な事態になったらしいがそれをどうにかする方法は何もなさそうなので諦めて立ち向かう事にした。
侵入者にはそれぞれの正義がある。そして船長とナズーリンにもそれなりの正義というものがある。これは元から避ける事は出来なかったのかもしれない。