「何の用。早く入れなさいよ。」
おさげ髪に何か御利益のありそうな紙を巻いた紅白の巫女特有の和服を着た少女がやる気のなさそうに地面を蹴りながら歩いて来た。どれだけ面倒くさそうにしているからもう見れば分かるほどだった。
「寒くないか?」
青年は少女の聞いて来た事には答えずに衣服のことを心配した。脇の部分が大きく開いており青年が言いたい事も分からんでもない格好をしていた。
「余計なお世話よ。」
少女はムスッ、と不機嫌にしながら悪態をついた。青年はそこまでするつもりはなかったと思うが、結果的にはそうなった。
「確かにな。話を戻すがここが博麗神社であっているか?」
青年は申し訳なさそうにしながらも、図々しく自分の用を言った。少女はそんな姿を不審そうに疑いの目を向ける。おさげ髪が軽く揺れていた。
「そうよ。それで何の用?」
「ご立腹だな。どうした。」
「アンタは馬鹿なの?呆れるわ。」
少女は首を動かして宙を仰ぐ。言葉の通りに吐息を漏らす様子に流石に青年も異変に気付いたようだ。
「流石にふざけ過ぎか。」
「そうね。良い加減にしなさい。」
少女は特に変えもしない態度に腹を立てつつあった。青年はその様子をじっくりと眺めているだけで何かしようとはしなかった。
「話を戻すわ。確かに博麗神社で合ってるわ。」
「それでお前は誰なんだ?」
青年はまるで話を聞いていないかのように話を続ける。少女は怒っても無駄だと悟ってからか、何も言いはしなかった。
「私は霊夢。博麗の巫女よ。」
霊夢は堂々と名乗る。青年は霊夢か、とボソリと呟く。
「それで霊夢。ここは何処なんだ。」
「幻想郷よ。薄々感じていたけど外の人間なのね。」
再び外、という単語が出てきた事に青年は驚きを隠そうとはしなかった。青年はそれから自分で落ち着かせると沈黙を続けた。
「兎に角、此処から帰ることも可能よ。その目的で来たんでしょ。」
霊夢はどうやら何処かに飛ばせる能力を有しているようだった。巫女というのも伊達ではないと青年は感じた。
「いや、もう少し観光を続けるつもりだ。」
青年はあっさりと答えた。その様子に霊夢は目を細めて不思議そうにしていた。
「偶に居るのよね。そんな馬鹿げた奴が。」
「人間を美味しそうに食べているのは見たからな。相当危険らしいな。」
青年は平然として考え込むように答えた。迷いの一つでも出始めたらしい。霊夢は気難しそうな顔をして腕を組み始める。
「兎に角、今日は泊めてあげるわ。折角助かったんだから無駄に燃やす必要はないわよ。」
霊夢は日が傾き、暮れようとしている時間から外に放り出す事が出来ず、中に入るように促した。青年は否定的な表情を見せた。
畳の上に木で出来ている素朴な丸机があるだけの質素な部屋であった。此処はいつも霊夢が居る所らしいが、生活感というのは全くない。それどころちゃんと住んでいるかさえ不安に思う。
「茶を出すから少し待ってなさい。」
隣に湯でも沸かす所があるらしく霊夢のはそこへと向かった。
「ありがたい。」
青年はそう言って腰から畳の上に落ちると自然体で寝転がり始めた。そして頭の後ろで腕を組んで軽く持ち上げる。左膝の上に右脚のくるぶしを乗せて図々しいほどに気ままにしていた。部屋を見てみると入る時は気づかなかったが押入れのような場所があった。どうやら彼処に家財道具を入れていると思う。そうでもしないとこんな机以外に何もない部屋にはならないと思う。
「ところでアンタは何者よ。」
霊夢は青年に聞いた。当の本人は首を霊夢の方に向けただけで我関せず、状態であった。
「さあ。俺も知らない。」
「アンタね、如何して話そうとしないのよ。」
「名前はないんだ。逆にこっちが聞きたい。」
霊夢は青年の発言に頭に血が上ったのか机の上に二つ湯呑みを置く。そして、ズカズカと足音を立てて近づいた。どうやら一発入れたいらしい。
「鉄拳でも食らわせましょうか。どうしてアンタはそこまで神経逆撫でするかしら。」
「近付くな。」
青年は後頭部を畳に擦り付けながら霊夢の方を見る。その様子に霊夢は怒りを募らせた。そこに追い打ちをかけるような言葉である。
「本当に頭に来た。」
拳を握り締めながら近づいて来る霊夢に青年は顔色を変えないばかりか、微動だにしなかった。
「お前の服装を見てみたらどうだ。よく分かるだろ。」
霊夢はそう言われると下を向いた。丈は短めで近づけば中が見えてくる。青年はその事を考慮して注意を促したらしい。勘違いして勝手に怒っていた事が恥ずかしくなり机の近くに霊夢は座った。家主だと言うのに肩身が狭そうに見えるのは気のせいだと思う。
「ありがとね。」
霊夢は震えた小さな声で言葉を発すると青年は耳を傾けるだけで反応は見せなかった。何か意図があるようには見えないのだが、青年の行動が読めないと霊夢は思った。
「いや、俺が彼処で身を起こしたらいい話だしな。気にするな。」
青年は目を瞑りながら口だけを動かした。相当疲れているのかそのまま寝てしまそうなほどだった。