レミリアは思わず嘲笑ってしまった。その口に煙草を咥えた男が救世主かのように現れたかと思えば、見ての通りボロボロであった。
「何しに来たの?貴方の来る場所ではないわ?」
レミリアは咲夜にその男をつまみ出すように叫んだ。しかし返事はなかった。まぁ、良いわとレミリアの中で解決させた。
「おぉ、来てくれたか。良かったぜ。」
「遅いわよ。」
二人の顔に少しだけ光が降り注いだ。何かの間違いだろうと、レミリアは感じた。明らかに他の二人よりも弱そうな男が一人来た所で何が変わる?対して変わらないだろう。変わったのは空気だけだろうか。とてもつまらない空気となっていた。
「貴方は此処で散ってもらうわ。」
レミリアはグングニルを真っ直ぐにして青年に狙いを定めた。大きな漆黒の翼を使い、カーペットに吸い付けて余力を残す突きをする。
青年には軽々しく避けられた。それどころか、半身した避けた時に出ていた脚に躓いた。盛大に転げるかと思ったが、其処は吸血鬼と言える。受け身を取り左手の指を使って止まり後ろを向いた。
其処にはステンドグラスを威圧のように立つ青年がいた。全体的に赤で染められていて、青年の着ている灰色の着物が異様に目立つ。次は其処に居るのか。
レミリアは槍を今にも突かんと構える。青年は右手で剣を持ち、後ろに何かしてから左手は柄に触れていた。そして右脚を出して右手でレミリアを狙う。左手は相変わらず柄に触っていたがレミリアは何も気にしなかった。彼処から何が出来る?
右手に剣があるのにか?持っていて使わないのか?何がしたい?
不思議な疑念を持ちつつ青年と対峙しているレミリアは敢えて受けてやる事にした。理由としては簡単である。ちょっとした子供の遊戯にも付き合わない大人にはなりたくはないのである。
「美味しそうな色をしているわ。」
レミリアは誰にも聞こえないように呟く。そう本当に誰にも聞こえることはなかった。右手を軸に左手で狙いを定めて腕を引き延ばして左足を前にして飛びかかるように突く。右肩を前にして渾身の一撃を見舞う。
それが慢心であったと気づくのは大分遅かった。
扉が開いて二階の廊下と一階の広間を分ける手すりに腰をぶつけて飛ぶ事も受け身を取ることも許されずそのカーペットに落とされた。レミリアはその間ただただ苦しかった。そして急激に空気が肺の中に入りむせかえっていると青年は手すりの前から顔を出していた。そして辺りを見渡してから一点を見ていた。レミリアを見逃そうとしてない眼がレミリアには怖かった。何をされたかさえわからないので青年が何者か、そんな疑問が生まれた。レミリアはその為かその場から動けなかった。
動けなかったというわけでもなかった。怖かった、この戦闘の中で息を止められて初めて死を恐れた。腰を打った衝撃でまともに脚が使えなくなっていた。
「やるな。見直したぜ!」
魔理沙はそんな青年の事を肩を叩きながら褒めていた。彼処まで無様な姿に成り果てたのは青年が居たからである。レミリアにとってその様が逆鱗に触れた。主人たる私が部外者に上から何かを言われる、この状況が好かなかった。
「良いわ。本気出す。」
レミリアは大きな声で下から叫んだ。その声に三人は驚いた。その地獄から這い出て来ようとするその根性が三人には伝わったのかもしれない。
「霊夢、魔理沙。下から俺を援護してくれ。出来るだけ当てずに妨害しろ。行ってくれ。」
二人は青年にそんな風に命令されて動くだろうか?
「はいはい。」
「よっしゃ!行くぜ。」
答えはもちろん肯定である。青年は首で言葉を使わずに賛成を示すと、魔理沙に八卦炉で火を付けて貰った。もちろん口に咥えている煙草である。煙草を吸って、ゆっくりと口から紫煙を吐き出す。二人はその間に階段を使って下に下りていた。
「容赦はしないけど良いかしら。」
黒い翼で飛び上がり廊下にいる青年を一点に狙い始めた。相当頭に来ているらしい。
「良いぜ。」
まるで人が変わったかのように好戦的だが、二人はその事が疑問であった。
「その決断は凶と出るわよ。」
レミリアは神槍スピア・ザ・グングニルを構える。レミリアは此処までで見せて来なかったような笑顔を見せ始める。青年は右手で下から上に来るような合図を出した。レミリアは何ともないような態度を見せる。もはや意味が分からなかった。
「そうかもしれないな。」
青年のその言葉を聞いてレミリアは一気に距離を詰める。相手の動きを熟知するために軽く動いていた。青年はその動きにも興味を示さなかった。それどころか興味を持てなかった。
レミリアは槍を半分ぐらいで持ち横薙ぎで青年の右半身を狙う。レミリアは目を見開いた。それは青年な攻撃が届いていなかったからではない。逆に何か後ろにされた訳でもない。
「何が、おこっ、た。」
レミリアは霊夢の札と魔理沙の星の魔法によって高密度の弾幕を張られて行動を止められた。そして白銀のナイフがレミリアの腹部に刺さる。其処に腹部に急所を狙われたような痛みがする。どうしても耐えられる気力がなく下へと落ちた。
「有難う。」
誰に言ったのか分からないような感謝を誰もいないこの廊下で小声で発した。口に溜めていた紫煙を口を開けて吐き出す。大きな煙を上げて上へと昇っていく。そして空気と混じり合い、目には見えなくなった。
「最後は呆気なかったな。」
魔理沙は今まで苦戦していた事を忘れて、今は目の前にいる死んだかのように倒れている少女を見ていた。霊夢は何も言わずに紫煙を吐きながら階段を降りる青年を見ていた。
「なぁ、霊夢。これは私たちがもっと評価されてしまうな。」
魔理沙は嬉しそうにしていた。が、霊夢がそうでもないような表情を浮かべている。
「あの青年が居なければどうなっていたかしら。」
霊夢は魔理沙にギリギリ聞こえるような小声を話していた。博麗の巫女としてもしもの事を考えると、居なければどうにもならなかった。
「魔理沙、有難うね。あの青年を連れてきて。」
「おう。」
これにより幻想郷に起きた紅霧異変は終わりを告げた。平和な日々を送る事となる。
これにて紅霧異変を終わります。