青年放浪記   作:mZu

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第200話

頰には冷たい風が流れて髪を梳いては惜しくも通り過ぎていく。船の速度を落としているらしくそのようなくらいのものであった。

 

黒髪を後ろで結んでいて毛先を風に遊ばせている青年は目の前にいる虎のような見た目をしている寅丸 星に左手を指し伸ばしていた。

 

「寅丸、俺と踊ってはくれないか。」

 

「踊るんですか?」

寅丸は意外にもほんわかとした話し方で青年の言葉の意味をわかっていないような言い方をしているがまた可愛らしく感じる。青年はふとそう感じた。

 

青年は鼻で息を吐くと寅丸へと差し伸ばしていた左手を下げると何か気になるのか後ろの方を向いていた。その後ろでは侵入者である三人の赤と白、そして星の瞬き、緑色の清らかな色をした弾幕をあの人を慕う二人が必死に押さえつけていた。

 

ナズーリンのペンデュラムのようなものを回して基本的なものを無効化しているのが厄介であるが船長の放つ錨のような青いものもまた面倒であるのは確かなようだ。ここまで影響は届かないらしいが青年はその美しい景色を見てから目を瞑って寅丸のほうへと向いていた。

 

「俺の踊りは無粋なものだ。合わないかもしれないがその手持ちの槍が飾りというわけではないのなら受けてほしい。」

ここでようやく青年の例えを理解できたらしく寅丸は難しそうな表情をしていたのだがパッ、と明るい顔へと変わる。青年はそれを見てから左腕で持つと甲板へと向けていた。

 

「ここで戦えという事なんですね。」

 

「微妙に違うな。一戦交えてほしい。」

 

「なるほど。やはりやってみたかったのですね。分かりました。私も期待に応えられるよに致しましょう。」

右手にはナズーリンから受け取っていたらしい宝塔を持って左腕には毘沙門天を用いたような槍を持っている。とてもシンプルであるかたちなのだが何か意味のありそうなものであるのが青年は首を傾げていた。

 

「そうか。少し気になるところはあるが無理難題に答えてくれてありがとう。」

青年はその場から少しだけ離れると独特な間合いを作り出していた。寅丸は片手ながらも垂直に構えているがどことなくぎこちなく感じるのが気になるがその事は何も言わなかった。

 

「いえ、お気になさらず。」

寅丸にも何か気になるところはあるのだろうがいづらそうにしているのが少々笑いを誘われそうになっている。青年もなんとなく言いたくないのだろうが喉元まで来ているのをなんとか抑えている。

 

青年は右脚を突き出して上から襲いかかる。虎を思わせるその一撃に寅丸は意外にもしっかりと受け止めていた。その目からは何か違うものがあるようにも思えないが本性というのが見え隠れしているようにも思えた。

 

「やはり飾りというわけではなかったか。」

 

「私にも譲れないものはありますよ。」

青年はそうだな、と言わんばかりに首を縦に振るうが瞬時に引き抜いたの峰を寅丸の脇腹へと当てた。その速さには驚いたらしく寅丸はその瞬間に負けを認めた。青年は一歩離れて一礼すると音を鳴らさないようにして鞘の中へ剣を納めていた。

 

「そうか。あまり戦闘は得意ではないのだろう。」

 

「そうです。杖代わりにしか使っていないもので。」

寅丸は弱々しく答えていた。青年はそのことを馬鹿にしたりする事はないが少し疑問を感じているのは言うまでもない。青年はその戦闘の後の余韻に浸っていたのを邪魔したのは三人の侵入者だった。

 

「アンタ、いつから居たの?」

 

「霊夢か、少し前だ。」

青年はどこにあるのかよくわからないポケットから煙草の箱を取り出すと一本だけ出して唇に咥えた。それから火をつけるような事はせずに相手の返答を待っていた。

 

「ま、良いわ。それでその後ろにいる人は誰なのよ?」

 

「毘沙門天様だ。」

 

「お待ちください。その方の代わりというだけです。」

青年は口元を動かして寅丸に聞こえる声で話すと納得させる形で話を通していたらしい。しゅんと弱くなっている寅丸を誰も話しかける事はしなかった。

 

「して、何か問題でもあったのか?」

 

「ええ。人里が混乱しているのよ。それにアンタも加担するならどうなるのか分かっているでしょうね。」

 

「お空との件の時に分かっている。だが、探し物をしているのを手伝ったらそのお礼をしたいと言ってくれたから甘える事にした。そうしたら大きな音が聞こえてきたから何事かと思ったら貴方達が居たわけだ。」

青年は淡々と答えていた。それだけに正当な手段ではない三人は何か部の悪そうな表情をしているが青年は特に気にしているわけではなかった。

 

「確かに迷惑をかけている。だが、考えてみて欲しい。人里に不安を与えないように空から探していた。そして隠密に誰にも気づかれないように探していたその努力は認めてやってほしい。」

 

「そうね。もう何も話す事はなさそうね。」

赤い服装をしている巫女はお祓い棒で左手を叩いていて不満そうにしているのだが青年の言葉も一理あるので一概に怒れないと言うのが正直なところである。それなら一層の事、話さないわけにはいかないと感じたらしい。

 

「それでその人たちの目的なのだがあの人の復活を目指しているらしい。」

 

「あの人って誰よ?」

 

「俺も知らん。」

 

「そう。」

青年は踵を返すと三人とは背中で向き合っていた。赤い服装の巫女は青年の元へと近づくと何か引き寄せられれような勢いで宝塔に近づいていく霊夢は何かを取り出していた。

 

急いでいたので雑なものだがそれは宝塔を包み込むようになっていた。それから光が漏れていて何かが現れそうな雰囲気のある風が起こっていた。何があったのかはこれからの楽しみでしかないので青年は静観しているつもりなのだが後ろからくる三人をこれ以上は行かせないように左腕を伸ばして進路を妨害していた。

 

「遂に集められたのですね。」

とても楽しそうにしている寅丸の邪魔は出来ないと青年は感じたが見るから怪しいその光を早く辞めさせようとしている赤い服装の巫女と黒と白の魔法使い、緑と白の巫女は青年の制止を何とか突破しようと噛み付いてきそうな勢いがあった。


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