巫女にはその先が分かっていない。今は逃げる事に必死のようでまるで状況を見ていなかった、盲目の呪文でもくらったように。
後ろから来る大波を避ける手段は何もなかった。それだけの威力を持ち合わせていた。聖も温厚な人であるが財宝を奪おうとしているその事が昔から変わっていなかった事にお灸を据えてやるつもりらしい。
大きな一撃を止めたのはこの場で全くと言っても関係のない人だった。それ故に聖でさえその人の登場に疑問しか浮かばなかった。
「どのような意図があるのでしょうか。」
聖は自分の右腕を一本の黒い刀身をした妙な力を感じる剣で受け止めていた紫色のローブで全身を纏っている同じく紫色の柔らかそうな帽子を被って黒髪を見せているそのつり目とも言えないくらいの角度の目つきをしている青年。その青年がいると言う今の現状には言葉を掛けづらいと思われる。
「こんな奴でも俺が幻想郷にいる理由の一つだから傷つけるのは許せない。それだけだ。」
青年は後ろに一歩だけ飛び退くと左腕をだらりと下げてその場で構えていた。その信念も何もないが自分のしてみたいと思うことをしているだけだと認知するのはまた後の話になる。聖は急に笑みを浮かべるのをやめてしまった。
「それは淀んだ素直な言葉ですね。」
絵巻を広げている聖を見ていた青年は何か違うと思えた。霊夢や魔理沙と対峙している時とはまた違うものである雰囲気を醸し出している聖に開けないように口の中で舌を回していた。
「淀んでいるのかもしれないがそれが人間という存在だ。当然とも言える姿であろう。」
青年は何か試すように言葉を選びながら話していた。別にその必要はないのだが聖はきっちりと答えた。
「確かに当然でしょう。欲に塗れた醜い姿をしているのが人間という存在です。ですがそれだけではありません。それと同じくな綺麗な部分があると信じています。」
「なら、妖怪にも同じことを思っているのか。」
「はい。人間と同じく醜い存在、そして人間からすれば異形とされ排除する対象でしょうがそれが間違っているということを私は証明したいです。」
「それは同感する。が、実際それをした結果このような誰かの力によって呼び戻される形になっている。そうだろ?」
「はい。言い返す言葉もありません。」
「聖、それで貴方はこれから何をしたい。」
青年は軽く聞いてみる事にした。今のある行為であるのかは別として僧侶に説法をするなど豪語同断であろうがそれを気にしないのが青年の性質というものである。聖もそれを感じ取ったのか合わせるようにしていた。
「私は皆さんと争いのない平和な世界にしたいです。皆が理解し合えるそんな世の中にしたいと思います。」
「なら、自分以外は殺すべきだ。それか反感を買われないように弾圧し続けるか。」
「それはなりません。争いは次の災禍を生み出します。それを止めることが私の役目です。」
「関係の中に歪みは生じる。それは大きくなればなるほどに厄介なものとなる。それでも戦う覚悟はあるのか。」
「ないわけがありません。」
「俺がその第一の壁として立ちはだかろう。受けてはくれないか?」
「だから淀んでいると申しています。」
青年はその剣を納めてから右腰に携えている剣の柄を触りながらまた一歩後ろへと退いた。聖が絵巻を腰に巻きつけるようにして宙に浮かせると数珠のようなものを持ち出して青年に向けていた。
右手を聖の顔で止めてから親指で支えるようにして持つと何かを念じているかのように思えた。青年は瞬時に反応して左へと飛び退くと青年がいたその場所が妙に焦げついているように見えた。
それだけなのだがこの周りにいた人を驚かせるのには十分なものだった。青年も右膝をつけて抜いていた剣を甲板の上に置くと前方へと重心を傾けていた。
「天罰か。面白い。」
「貴方ぐらいですよ。そんな楽しそうな表情をしているなんて。」
冷徹な気迫のある聖だがそれ以上に青年の好奇心と名付けられていそうな心を揺り動かすものがあるのでそれ以上に燃え上がっているように見える。
青年は姿勢を崩さないように一気に近づくと剣を逆手で振り上げてから聖に当たりそうなところで振り下ろす。聖は見えていたかのようにさらりと避ける、その先の一撃までは読み取れなかったが。
青年は振り下ろした剣の柄頭を左手のひらで押し出す。それは聖の腹部に当たるのだがあまり刺さったという実感はわかなかったらしい青年はその場から離れるように軽いステップをしてからとんとん、と足裏で軽く体全身を揺らしていた。
「身体強化、やっぱりな。」
ニヤリ、と笑っている青年に蔑んだ冷たい視線をしている聖なのだがその表情は温かく感じてしまうのが何故だろうと思っていた青年。
不思議そうにこちらを眺めているのを何か気になる聖はもう一度念仏を唱えてみる事にした。青年は一度見た事のある攻撃はもう受ける気は無かった。だが別に聖を直接攻撃をくわえるような無粋な真似はしなかった。空には黒い雲が覆っていた。
それだけに何処からどのように落ちてきても不思議ではない天候なのだが青年は何か対策をするようなことはなかった。聖の攻撃を学習していないかのようにその場に居続けるので聖は不思議そうにしながらもとにかく撃つことにした。
天がどよめく。
その声に合わせて天からの一槍は青年の、頭上を受け止められると青年は屈みながらも後ろへと下り、投げられていた金属物の尻を叩きながら一線を描くとその先にあったものへと突き刺さる。逆手に持って左腕をまっすぐに伸ばしている青年に聖は片目を閉じながら隠されていたその力を認めようとしていた。しかしここで引き下がるのも癪に触るので絶対に下がる気はなさそうだ。
「私の雷をこのように利用するとはやりますね。」
「いや、一発。その一発で利用できると思わなかったらこうはならなかった。」
青年は剣を先ほどは逆に構えてから切っ先を喉笛へと向けた。その圧はそれなりの物なのだが聖もその程度で引き下がるほど弱くもなかった。相当暇だったらしく鍛錬を続けていた結果そのような感じへとなっていたと思われる。しかしそこに受けてくれる相手がいなかったことが聖の向上心と見合わない程度となっていただと思われる。
「そうですか。まさかそのような扱われ方をするとは、思いませんでした。」
腹部を掠ったらしく血の滲んだ衣服と傷口が露見していたがそれを何のそのと思っているらしく聖は正面から向き合うことになった。