「いつの間に対抗できる程強くなったのかしら。」
青年の背面では意気消沈している魔理沙を引き連れてナズーリンや船長、寅丸のいるところへと避難していた。その判断はやはり巫女とも言える、簡素で素早いものであるが一段落したからかそれから余裕が生まれたのだろう。何か問題でもあるのかと思われるが何もないのが事実。青年はそれだけの実力をつけたのにはそれだけの理由がある。
「聖様が苦戦しているようです。」
「こうやって見ていられるくらいが丁度いいと思うよ。」
「主人はもう少し実力をつけたらどうだろう。」
「そのような物は必要ないのですよ。」
何故か和やかな雰囲気が流れているバックとは裏腹にお互いが視線で牽制しあっている二人は更なる高みへと昇り詰めようとしていた。
「聖、貴方には勝てるのかどうかは分からない。だが出来るところまではやらせてもらう。」
「いくらでも来てください。私は貴方の全てを受け止めます。」
聖は力強い言葉でそう言っていた。青年は面白かったということではないのだが笑みをこぼしていた。どのような理由なのかはコロコロ変わる表情からは読み取れなさそうだが何かあるのだろう。
「そうか。遠くから突くよりも近くで息を聞いてはくれないか。」
「良いでしょう。先ほども全てを受け止めるつもりです。」
青年は剣を納めるとローブの何処かから小刀を二本取り出す。
両手ともに逆手で持っていた。そして手の中で小刀を回しながら聖の方へと近づいていく。その速度は遅くて一歩一歩じっくりと甲板を踏みしめるように近づいていく。
相手に準備をさせる訳になるがそれこそが青年の戦法の一つとも言える。それだけに集中力を必要とする青年の基本戦術はこうしたゆっくりとした歩調から生まれてくることもある。聖はじりじりと間合いを詰めてくる青年とは一定の距離感を保って同じように動いていた。
隙だらけで下手くそな剣士のように見えるが先ほどのようなものを見せられた後ではここまで長く生きてきた聖でさえも身を一歩だけ引くような必要はあると思われる。
それが青年から与えられたミスディレクション、聖は手のひらで踊らされることになっているのだがそのままで居続けるわけでもない。聖は一気に間合いを詰めるとそこから右腕で真っ直ぐな正拳突きを放つ。青年は首筋を掠らせるように避けてから骨を断ち切るように小刀を振るうがそれを右腕を外側へと向けることで何とか阻止した。
青年はその場で聖から離れるように一回転した後にペロッ、と小刀の波紋を舐め取る。其処には赤い液体が付いている、それだけで聖には衝撃を与えた。
「打撃には強くても斬撃には弱いか。」
聖はその青年の小言に顔を歪ませていた。それだけなのだが青年はまた違う表情のように捉えていた。今までとは違う、そう青年の心の琴線を触れた危惧は見事に的中した。
聖は一気に近づくと飛び上がる。青年の攻撃を一度避けるためなのだがその行動を青年も読み取れなかっらしく予想外の動きには付いていけていなかった。
聖は左腕をバネのように縮こませると降りてくるその勢いそのままに甲板へとふるい落とした。青年も避けてはみるがフラフラと酔っ払いのように後ろへと下がっていた。
そして柵に背中を打ち付ける。何が起こったのかと思ったが周りの景色が微妙に見え方が違っていた。遠くの方に見えていた景色が少しだけだが隠れているように思えた。
そして一直線にしているのに雲が目に入っている。聖はその一撃によって船体を微妙に傾かせていた。それに足を取られた青年は柵までよろめいてしまったのである。
しかめっ面を晒す青年には構うことなく右腕を伸ばして攻撃を加えるがそれをまともに食らえるほど青年にも余裕がなかった。それだけに次に放たれる左腕の攻撃には左肩を撃ち抜かれていた。
右足を軸に回りながら甲板へと転がり込み一難を越したが当てられたところからは痛みを伴うらしく取りこぼしていた小刀を右手で拾う。
その隙とも言えないところを聖はライダーキックを模した神速の一撃を与える。青年も見えていないわけではないがなにせ、その速度がいけなかった。右脚を突き出して青年を踏みつけるかのような一撃を加えてから甲板を擦らせるように右足を動かすがその一瞬の間に当たらないところへと移動していた。
青年は其処でもうやられる訳にはいかないので逃げる事にした。甲板に擦りつけられるような高度で垂直に飛んでいたがそれに追いついてくる怪物がいた。それから何が起こったのかはよく分からないが踏みつけられたように思えた。そして青年が起き上がると目の前に既に前に立っていた聖のようなものに青年は後ろへと後転してから起き上がると右足の回し蹴りが青年の元へと放たれていた。
その事はもう分かっていた。
それを左手を使ってから後ろへとよろめきながら下がると不意打ちのように左脚の裏で更なる一撃を加える。其処で青年は右肩を突き出して出来るだけ一点に集まるようにしておいた。ここでも左手を使った。
右手に持っていた剣を肩のところへと構えておくと甘んじて聖の攻撃を受けた青年は左肩から甲板へと着地させてからその転がる勢いを使って何とか怪我しているのだろう部分を避けてから足裏と右手に持っていた剣を使って三点でその衝撃を吸収するがそれでも間に合いそうになかったので転がり込むと背中を船倉へと打ち付けた。
その大きな音と聞き取りづらい呻き声が合わさって気味の悪いことになっていた。それでも青年は耐えていたが余りの衝撃にそう長くは耐えられそうになかった。
肩で息をしながら右膝と右腕を使って上半身を起こしていたが気を失ったように前へと倒れてからだらだらと口から赤い液体をこぼしていた。それを誰も責める人はいなかった。六人を見守られながらその場に寝転がる。かろうじて意識はあるようだが虚となっている淀んだ瞳をしていた。
それを見てからある人が誰かに話しかけるとその人は青年の肩を持って運び出すと横になれる場所へと移動させていた。そして船内のどこかへと運び出されているのは覚えているが誰がしていたのかは青年は分からなかった。】193
春も近づき桜の花びらでも咲き始めたそんな頃だった。その温かい日差しに誰もが照らされて気分のいい春眠をしていた。
射命丸の文々。新聞には先日の空中で浮遊していた謎の船についての記事が書かれていた。それを配る天狗たちを他所にある二人は人里の上を通り過ぎていた。
頭上に大きな赤いリボンをつけて黒い髪で首には当たらないくらいの長さをした髪型で脇を開いた赤い巫女服を着用している博麗 霊夢。
黒いとんがり帽子がトレードマークのようでそこからカールのかかった金色の髪を見せている白いシャツに黒いベストを羽織った黒いスカートを着用している霧雨 魔理沙。
その二人はある書状を持ってある場所へと向かおうとしていた。送り主はどうやら青年のようで短絡的な言葉で来てみて欲しいと言われたので今から向かってきていた。内容としては何の挨拶のなくただ要件を述べただけのものなのだが魔理沙は行ってみることを決めて霊夢にも同じような内容が書かれていたのでいくことを決めた。
「何か癪に触るのよね。」
気分の悪いそうに話している霊夢は面倒くさそうに話していた。
「別に気にすることはないぜ。何方にしろ二人で来る事には変わりなかったぜ。」
青年の最後の一文はお互いに話すようにとだけ書かれている。一人ではいけないという事であるが強制的に来いとは言っていないので青年はどちらでも良かったのだろう。
そのような意図の読み取れる一文なので霊夢は行きたくはなさそうにしている。対して魔理沙は新しいもの見たさにグイグイと手を引っ張っていたらしく霊夢も諦めて付いてくる事になった。
「このまま真っ直ぐに行けばいいのよね。こんな所に何かあるとは思えないのけれど。」
獣道を通り抜けるようなところの先に何かあるとも思えないらしいが小道具屋のある所なので一概に無いとは言い切れないのがまた嫌な所でもある。兎に角進む事にした二人の目の前に妙に切り開かれた土地へとたどり着いた。門があるが簡素な場所で建物が二つあるだけだった。大きな母屋と思われる場所と物置と思われる小屋のような場所、その二つが見えたところで二人は地上へと降りる事にした。その場所は石で作られた真新しい灯篭の間を石畳の一本道が通っているだけでその他には何もなかった。それだけに何らかの特別な場所で自分の家である博麗神社と同じような気がするとふと霊夢は感じた。同様に魔理沙も思ったようだ。
「何日ぶりだろうか。」
弱々しくも聞き覚えのある声がしてきた。その声の主は白い着物の上に黒のベストを羽織った隣の女性と同じような格好をしていた。どちらもぐったりとした様子でその建物と同化している。
「体の調子は大丈夫なのかぜ。」
魔理沙はその青年へと近づくと女性の膝を枕にして横になって無気力そうにしているその人に話しかけていた。船の上での惨状はよく覚えている。だからこそ気になるということではあるがそれ以上に何故こうなっているのかを聞きたかったらしい。
「永琳の薬を飲んだから大丈夫だ。」
必死に起き上がらせるがすぐに横に倒れるので無理するな、とだけ伝えておいた。霊夢はそんな弱々しい青年を蔑むような目をしている。
「永琳というのは誰の事だぜ。」
「会っていなかったのか。貴方達が竹林の上で戦っていたその時に俺はその人に会っていた。其処で姫に時間を飛ばしてもらって朝を迎えたというわけだ。それからは定刻通りに日を刻んでいる。」
「あの時ね。あの異変は大変だったわね。」
「永琳の頭脳に負けていたな。」
青年はボソリと小馬鹿にするような口調で話していた。その言葉に二人は少しだけ気分を高ぶらせたところもあるがその気持ちは抑える事にした。
「幻術の中で幻影と戦い、それが消失したから異変は解決した。見事に永琳の描いたシナリオ通りだったようだ。」
含みのある表情で話しているのだが青年にとってはそのようにしか言えなかった。だが、大体の人たちはその事には全く気付いていない。真実を知っている青年と知っているつもりである目の前の二人ではそれなりの事実の虚偽が生まれているようだ。
「それはどうしてそう言えるんだぜ。」
魔理沙はどうしてそのような事を知っているのかそれが気になっているらしく青年に聞いていた。
「本人から聞いた。」
青年のその言葉はある意味ではとても重たかった。それこそ無能であると判子を押されているようで激昂したくなる気分もあるが誰のことかは分かっていないので何も言えなかった。
永琳という名前は青年しか知らない。しかしさらりと答えたのを嘘である証拠も真実である証拠も同様にどこにもない。霊夢はそれ以上の詮索はできなさそうだった。その事を見計らって青年は話をさらに進める。
「で、俺はその人から薬を貰ったわけだが気力を全て患部に当てて治癒させるものだからタイミングが悪かった。」
確かに気力のない様子でへばっている青年と僧侶にはそうとしか言いようのないぐらいの空気が流れていた。魔理沙は少し興味を示しているようだが聞くようなことはなかった。
「そのようね。邪魔したわ。」
霊夢はその場から怒りながら立ち去ると魔理沙も仕方がなさそうに付いていった。二人がその場所ら立ち去った。その後は無音な風の音しか聞こえない空間へと変化して二人はその中で静かに体の傷を治していた。辺りからの念仏の唱える音がだけが耳の中を通っていく。
青年は左肩を中心とした打撲の傷。その人に肩を貸していた僧侶は左脚を伸ばしてその場から動こうとはしなかった。先日の甲板での戦闘は引き分けになっていた。
青年はもちろん動けなかった。
吐血をして意識を朦朧として船長と寅丸の肩を持って連れ去られるような青年はまるで死人のようなものだった。対して左脚を封じられた状態で体勢を崩した僧侶は痺れを感じて口も動かせないような状態で甲板の上に伏せていた。青年は何とかして其処まで追い込んだのだ。
僧侶のあの一瞬の二撃の間に青年は反撃という形で針を刺しこんでいた。いつそのようにやっていたのかは本人は何も覚えていないらしい。