青年放浪記   作:mZu

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第206話

硬そうで黒っぽい色をした目の前にそびえ立つ大きな幹があった。その下で綺麗な模様の入った布を広げてお猪口を片手に何かを飲んでいる。

 

ピンク色をした短めの髪をしてベールが後ろについている青い帽子を被っている。その帽子には三角の物が付いていてこの世のものであった。

 

それに対して白の衣服に黒色のものを羽織っている修行僧のような格好をしている青年はこの世のものではなかった。しかしその穴は感じさせない程に仲の良さそうに見えるのがまた不思議なものであると思われる。

 

「こう見るとこの場所も広く感じる。」

ぼそりと呟いた拾わなくても良さそうな独り言を述べる青年。その目は虚としていてどこを見ているのかは不明だが全体を見渡しているだけなのかもしれない。

 

此処、白玉楼の主人である西行寺 幽々子はお猪口を口元へと運ぶと青年の言葉と一緒に水を流していた。刺激というものが足りないらしく不満そうな表情をしていると思うがこの情景には満足している。

 

「妖夢、遅いわね。」

幽々子はお猪口を青年の方へと向けていた。

 

青年はそれに気付くと片膝を立てて置いていた右腕を動かして注いであげた。しかし今は幽々子の言った事には答えるような事はなく二人だけの独特な時間が流れていた。別に多くを語る必要はない、そして絶対を言葉を返さなくても良い。くだらない会話で答えなど見つからないからだ。

 

「して、今日は何用だ?」

後ろを振り向いた青年は頭上の左斜め後ろで神妙そうな表情を浮かべる八雲家の一人を気にしていた。二人の時間の妨げになるので誰も近づけたくはないらしい。故に後ろでコソコソとしているのが気になるらしい。

 

「あら、気付かれちゃったのね。」

金色のストレートの髪型で上半身だけの自分の能力によって浮かばせている、正確には空間移動をしている八雲 紫。その人は口元を扇子で隠しながら青年と幽々子のいる桜の木の下に現れていた。

 

「幽々子の視線が不審だった。」

青年は短絡的に答えるだけで紫には一切伝わりそうになかったが何となくこうではないか、という憶測で話を進んでいく。

 

「幽々子、何してるのよ。」

 

「何もしていないわよ。」

 

「そんな事はどうでも良い。貴方は様子を見に来たのか?」

青年は二人の会話を無理に切り出していた。

 

青年にとっては傷の慰め合いのような会話には興味はないので紫がここに来た理由を知りたかった。それだけなので会話が成り立ったというとそうでもない。

 

「そうよ。霊夢が宴会に来ていないのを不思議そうにしていたわ。行ってあげないの?」

 

「あの様な場所は好かないから行くつもりはない。」

 

「静かに飲みたいそうよ。」

青年の言葉に保護者のように付け足しをするがそうされた本人が納得するようなので不思議な関係性だな、とふと感じた。紫はここに居ても邪魔をするだけだろうからその場からは居なくなってしまった。

 

「帰ってしまったか。」

紫の使っていたスキマと呼ばれるものはその場からは消えて周りにはいつも通りの白玉楼の風景が広がっていた。青年はお猪口を飲み干してから幽々子の前へとそれを突き出した。

 

幽々子は少々を驚いたようにしているが普通に注いでくれた。それからはまた無音で静かな時の流れをゆっくりと感じることのできる憩いの場へと変わってしまった。ポツリポツリと浮かんでくる言葉を出してみては場を乱してみたりする。急に詩を言ってみたりしてそれだけの時間を過ごしていた。

 

「幽々子様、山本さん。桜見を楽しんでいますか?」

何も話していないのでその事を心配したらしいがそれは不要であるとその場で感じていた。二人には二人の楽しみ方がある。それだけで別に気にすることはなかった。青年はその現れた色白の人にお猪口を渡してその場に座るように指示した。

 

「妖夢、まず座ったから一杯だけは飲んでいけ。」

青年は呟くように言ってその人は慌てたように周りを見ていた。目の前に仕えるべき人がいてその人のお墨付きの付いている人から酒を飲むように勧められている。それだけなのだが従者がこのような場で飲んでもいいのだろうか。

 

「遠慮します。」

 

「だそうだ、幽々子。残念だったな。」

 

「そうね。妖夢なら飲んでくれると思ったのに。」

 

「俺も正直失望した。」

急に責め立てられる事になった妖夢が困惑した表情を浮かべていた。それだけに何が行われていたのか分かっていない状態だった。落ち着いた小さな笑みをこぼす幽々子だがそれも怖かったらしい。対して青年は無表情で妖夢の方を見ていた。

 

「待ってください。私は従者の身、幽々子様と同席して酒を飲み交わすのは良くないです。」

妖夢にもそれなりの信念がある、それを知れただけで青年は満足だったらしい。お猪口に入れたものを飲むと幽々子の方を渡していた。

 

「誰がいつ酒だと言った?」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「残念だが水だ。」

 

「水ですか?」

妖夢はキョトンとした表情を浮かべているだけで何を言っているかは理解できない様子だった。それを幽々子は面白そうにして様子を静観しているだけだった。

 

「もうやめて下さいよ。」

 

「安心して飲んでくれ。酔うことはない。」

それを聞いて安心したのか妖夢はお猪口を空にしていた。喉が渇いていたらしく一気に飲み干してしまったらしい。青年はそれを見て注いであげることにした。

 

「一連の流れは終えた。今日はどのようなものなんだ?」

 

「今回は軽い食事にしてみようとしましたが具材がなかったので魚を煮付けにしてきました。」

 

青年は嬉しそうな笑みをしていた。

それを見て緊張がほぐれたのか固い表情がなくなった。幽々子もそれには変な意味で驚きながら一口魚の煮付けを食していた。それを続けて青年が一口摘むとお猪口を空にさせていた。

 

体を震わせていたがその時点で妖夢も気づくべきだったと思われる。

 

「寝てしまったな。」

「そのようね。」

疲れたのか頰を赤らめて眠ってしまった妖夢にその場にいた二人は何か思うこともなく各々の時間を過ごしていた。水だと思っていたものがいつのまにか酒へと変わっている事もあるので二人には注意されたし。

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