青年放浪記   作:mZu

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第207話

初夏と言えるほどの日の照り方をしている春も終わりを告げようとしているそんな頃、青年は山へと登っていた。人里の南西側に新しく命蓮寺なるものが生まれて精力的な布教活動をした結果として人の数は減ったがそれでも人気のある場所だった。

 

大きくこの山の頂上にある守矢神社の巫女目当てである男性が多いと思われるがそれも仕方がない事だと思われる。しかし半袖になるように腕をまくっていて後ろで黒髪を結んでいる青年は相変わらず白の着物に黒色の羽織って笠を被っていた青年は順路とされている山道を大きく外れていく。

 

その青年は慣れた足取りで登っていくとたちまち辺りの景色は山の中へと迷っていくような道になっていた。しかし臆する事なく進んで行くとある家がある。

 

本来なら用はないので通り過ぎていくが一匹の猫が青年の前に立っていた。その人は尻尾を二本生やした猫又の姿で緑色の被りやすそうな帽子からは尖った黒耳が出ていた。

 

そして茶髪の短めな髪で白のワンピースの上にノースリーブの赤色のワンピースを着た服装で胸元には白色のリボンがされていた。名を橙、八雲 紫の式の式でこの妖怪の山の一角にあるマヨヒガという一軒家で一人で暮らしている。偶に顔を見る程度なのだがそれでも懐くものは懐くらしい。青年は少々困ったような表情をしていた。

 

「今日は何の用だ?」

青年は視線を合わせるために腰を屈めて話を聞く事にした。橙はそれを聞いて何か言いたそうにしていたのを青年は補助するように話をしていた。

 

そうするとこのマヨヒガに藍が来ているので顔を合わせてはどうだろうか?という話になったので仕方がなく中へと入っていく。

 

戸を開けた青年は山登り用の靴を脱いで周りの靴と同じように揃えるとその中へと入り一室へと向かっていた。からり、と開けた襖の隙間から黄色い尻尾が見えていた。微妙に入ってきたところが悪かったらしい。青年はそう思ってすぐに襖を閉めるとその部屋を回り込むようにして中へと入った。

 

「こんにちは、紫様から何やら行って来なさいと言われたので面倒な事になっている。」

その言葉に唖然として何も反応をしなかった青年はその場で立ち止まり少しの間考えていた。紫の式神である藍はきっちりとした上下関係であり逆らうことは難しかった。それに巻き込んでしまったを悔やんでいるらしいので青年は何を話せばいいのかよく分からなくなっていた。初めて会う人との対面のような緊張感はないがまた別の糸が張られているのは事実である。

 

「その事は気にするな。俺も別に用がなかったわけでもない。」

そんな事を言うが青年にもやりたいと思っていることはあるのは事実なので一刻も早くその場から立ち去りたいと考えていた。それに藍がこのようになっているのはここに来る途中に紫のお得意の空間を飛び越えるスキマというもので覗かれていたのだと思われる。

 

「それは助かる。それで紫様からの言伝もある。」

藍は変に溜めのある言い方をするので言いだすまでは静かに待っていた。それにここで口を挟む必要はない。

 

「早く相手を決めて欲しいとのことだ。」

 

「そう言われても急な話だな。」

右手で顎を摩る青年は困り果てた表情でうーん、と唸りながら考えていた。確かに急な話で突拍子もない話なのでここで断ってもいいのだろうがそれでもこの後で藍がどのように言われるのかはよく分からない。何せ、紫の考えている事はよくわからない。それは永夜異変の時に知れている事である。

 

「そうだ。本当に申し訳ない。」

頭を床に擦り付けているが別にそこまでして欲しいわけでもないが誠意は伝わるので変に体を小さくさせた青年は素早く頭を上げさせた。

 

「俺は藍に頭を下げられるような人物ではないからやめてくれ。」

 

「そう言うのならやめる事にしよう。それでその真意についてなのだがどうやら独立をさせたいのだと私は考えている。」

 

「独立?何故そのような話になっている。」

青年は疑問にしか思えなかった。何故急にそのような話になっているのかが全く持ってよくわからない。

 

「私の式である橙は知っているだろう。つまりはそれだけの実力があるから独立を決めてはどうだ、と言う話なのだろう。そこで貴方との縁談を鍵として半ば追い出すようなつもりなのだろう。」

 

「憶測で話をするしかないのが残念だがやはり真意は読み取れない。」

 

「それは私も同感だ。急にそのような話を振られても困るものがある。」

青年もそうだが藍も同じような表情をしている。それだけに青年も話を切り出しにくいが藍も同じような感じであるらしく会話が進みそうになかった。そこへまた一匹の猫が入ってくる。藍の式である橙なのだが盗み聞きをしていたのだと思われる。それで話が聞こえないから入ってきたのだろうと、青年は凡その予想を立てていた。

 

「藍様と青年さんが同居を偽装すれば良いんですよ。」

 

「子供とは思えん発言だ。」

青年は首を傾げながら橙の方を向いていた。今は座っているので視線は同じぐらいなのだが上から見られているように思うと何となく気になる。主に藍が何を教えたのかによる。

 

「橙、どこでそんな言葉を教えてきたんだ?」

 

「寺子屋ですよ。漢字の読み取りの時にその言葉が出たので調べたんです。」

 

「よく出来た子だ。して、俺はここでお暇させてもらう。ここで痴話喧嘩を聞いてもいいがその為に妖怪の山には来ていない。帰りに寄るだろうからそれまでには答えが出していてくれ。」

その場から立ち上がると怒り心頭のような気がする藍だが青年はまた来るとだけ伝えてその部屋からは出ていく。その音は出来るだけ音を立てないようにしているようで逆鱗に触れないようにしているかのようだった。

 

「橙も寺子屋に通っていたのか。慧音のいる寺子屋なのだろうか。」

誰もいないマヨヒガの玄関先でそう呟いてから山道を登っていく青年は孤独な旅路へと歩みを進めていく事になる。少々心残りもあるのだが心を鬼と化した狐の目は鋭く逃げる方が得策だと思えた。そうでもなければ紫の式など名乗っている場合ではないのだろう。青年はふとそう思った。

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