青年放浪記   作:mZu

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第208話

川のせせらぎとその奇妙な音が聞こえる。

 

川の声を阻害するようなピチャ、ピチャとリズム感のある音で平たいもので川の顔面を殴っているかのようだった。そして見たことはある茶色のブーツで黒い紐は緩んで脱ぎ捨てられていた。

 

笠を被った青年はその光景を眺めているだけで何か言葉をかけたりしようとはしなかった。逆の立場なら話しかけられるのは好きではないのでやらなかった。青年はその場を何もいないかのように通り過ぎようとしていた。

 

「ちょっと、挨拶の一つも出来ないの?」

ドスの利いているわけではないが大きな声で威嚇しているのは暗めの唾が周りについた青い帽子を被っている空に関係していそうな格好をしている。

 

「天子とは関わりたくない。前に怪我をさせられたのは覚えているだろう。」

不貞腐れた表情をする天子だが青年はまるで見えていないかのようにしていた。

 

「何よ。まだ根に持っているわけ?小さい男ね。」

 

「肋骨を砕いておいてよく言う。」

青年は何となくだが右脇腹の所をさすりながら唇を尖らせていた。

 

「それぐらい良いじゃない。結局桃を食べて治っているんだから。」

天子は少々怒っているかのようにしていた。それだけなら別に問題はないのだがそれ以降もこのような口調が続くのだと思うとそれなりにうんざりとしてくるものはある。だが、それはそれでいいと青年は割り切っていた。

 

「正確には治っていない。」

 

「天人でもないと治らないわよね。」

 

「一個食べて傷を癒せるのならそれはこの世のものではない。」

何処か呆れたムードが出ている青年は嫌なものを見ているかのような目をしていた。

 

「それがあるのが天界というものよ。他は何もないんだけどね。」

 

「そうでもなければあのような惨事にはならなかった。幻想郷中の天候を変えるとは何の力かは知らないが大きく出たものだ。」

 

「ふん。それで何が言いたいのよ。」

 

「自分勝手な人だ、とだけ言っておく。」

青年も別に暇でここに来ているというわけではない。それなりの目的を持ってここまで来ている。なのでここでこうして過ごしているのはいささか奇妙というものである。

 

「どこに行くつもりよ。」

 

「折角だからどこに連れて行けと言うのか。ごめんだ。」

 

「何よ、高貴な天人の命令が聞けないわけ。それとも恐れているから早く逃げたいのかしら。」

口元を隠して小さく蔑むので青年は気にしないようにした。

 

「好きにしろ。足を引きずられようとも俺は知らん。」

青年からすれば別に関わらなくていいと考えていた。それこそ何か用事があるわけでもなければ単純に此処にいるだけだし下手な話このまま通りすぎるのも悪くない。青年はそんなことを考えていたがその辺りは別に良いのだろう。

 

「その言い草は何よ。何か文句でもあるわけ。」

 

「言いたくない。」

 

「言いなさいよ。」

 

「やめておく。」

 

「言いなさい。」

 

「面倒な事になった。」

言葉とは裏腹に楽しそうにしているのだが何か気になるらしい天子はその場から起き上がっていた。そして裸足で川沿いを歩くので足裏は痛そうなのだが体は頑丈であるらしく特に気にしているような様子はなかった。

 

「それは私に会ったから?それとも他のこと?」

 

「前者。」

 

「即答なのね。気に入ったわ。」

青年の予想とは反対方向へと進んでいく話にこのような考え方もありなのかとふと思ってしまった。何がいけないと言うわけでもないがまずい状況であるのは間違いないらしい。それだけは青年は自覚していた。

 

「どうしたら嫌われる。」

 

「きっと無いわよ。私が気に入っているんだもの。何しても変わらないわ。」

 

「迷惑な天人だ。」

青年は嘆くような細々とした声を出していた。細長く息を吐く中に言の葉を入れ込んで話しているので聞き取りづらかったらしい。天子はもう一度お願いといったのでそこで青年は素早く答えた。

 

「仕方がないじゃない。こっちの方が楽しいんだもの。それともアンタが天界に来る?」

 

「やめておく。」

 

「了承してしないなんて他の人間が聞いたらどう思うんでしょうね。」

 

「他は他だ。気にする事もない。」

青年はきっぱりと答えていた。その速さにはいっそのこと感嘆の声が漏れそうなものである。目の前にいる人が常人なら。

 

「天人の言葉は素直に聞きなさい。」

 

「それは面倒なものだ。」

 

「ふーん。私もそれなりに秘策はあるのよ。無視できない方法が。」

大体やることは分かっていた。だがそれがどこから出てくるのは不明なので青年はしばらく時間を使って見てみるのもありだと思われる。

 

天子は得意げにして笑っているので気になるといえば気になる。だが、何か違うように思えるので微妙な気分になっていた。天子は右腕を上に掲げるとすんなりと落ちてくるように赤い刀身をしている剣がその手に納まった。

 

何が起こったのかはさておき青年はまじまじとその様子を見ていた。

 

「緋想の剣が降りてきたと言うのか。」

 

「どう?もうこれは私のもの同然なのよ。」

 

「そうらしいな。」

青年はその光景には見惚れていた。乗ってやっても良いと、そんな雰囲気があるので一層の事ここで一戦始めようとしていた。

 

「さぁ、やるわよ。」

緋想の剣を右手に持って刀身を青年に向けていた天子は左足を後ろに擦り下げていた。青年は県には手をかけていないのでやる気があるのかどうかと言う話なのである。

 

「せめて靴ぐらいは履いてくれ。足裏が痛くなる。」

 

「相手の気遣いなんてどれだけ余裕なのかしら。良いわよ。履いてあげるわ。でも後で後悔しない事ね。」

そう言いながら近くに置いたあったブーツへと足を入れていく。青年はしっかりと準備が整うまでは待つ事にしていた。

 

「靴は履いたわ。貴方も早く構えたらどうなのよ。」

 

「そう言われて構える奴がどこにいる。」

 

「どっかに居るでしょう。と言うか普通は構えるものよ。」

天子、と言うよりかは普通ならと言うその言葉は青年には通じることはあまりない。青年の独特の世界に社会の常識というのは全くといって通じるようなことはない。

 

「仕方がない。構えてみる事にしよう。」

青年は右腰から剣を取り出すと少しだけ身を後ろへ置いた。

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