ある日の紅魔館。今日は冬というのにも関わらず少し暖かいと感じるような日だった。外は曇っていて釣りは上手くいかなかったので紅魔館に籠ることにした紅魔館の使用人らしく白いシャツに黒色のベストを着てシャープなズボンを着用している革靴を履いている青年は館内へと入っていく事にした。
少しむすっとしているような表情をしているとは言い難いがわかる人にはわかるのだとも思われる。そしてスタスタと普通に歩いていくその背中を遠くから眺めていたある人が居る。その人は手の中にその冬も夏のような暑さに変えかねない代物を持っていた。
「メイドちょー。仕事の点検お願いします。」
後ろからの当然の妖精メイドの声をした時にきゃっ、と異常に可愛らしい声を出した辺りを見るとどうも意識を飛ばしていたと思われる。その結果としてこのような素を出してしまうような完全で瀟洒であるはずのメイドは仕方がないので自分の能力を使って手に持っていたものをどこかに置くと妖精メイドについていく事にした。
これで一通り部屋の掃除が終わるのだから青年とメイドには頭が上がらないものである。この結果としてメイド長の行う仕事は格段に減っていた。そして自分の時間やお嬢様に困ってあげられる時間が増えていた。メイド長は時間を操ることができるのだが止めている間の数分の後には必ずインターバルがあった。何秒という物だがその時間さえ惜しいと思えるほど館を掃除するのは大変なものだった。
以前ではそれを一人でやっていて妖精メイドが汚したところを追加でやっていたがそれがどうだろうか。今では昼前には全てが終わっている。数秒の移動なのでインターバルというものはなくほぼ無限に時間を使えるようなものであった。
兎に角今はお嬢様へと食事の配給に向かわなくてはならない。メイド長は時間を止めて問題の部屋へと向かう事にしていた。
紅茶の香りがする一室では一人のメイドと主人らしき幼い姿をした人物が居た。メイドは主人の近くで背を伸ばして立っていて主人は椅子に座ってゆっくりと朝食をとっていた。実際今日は少し遅れた。朝から時間を狂わされているメイドはもう何が何だか分からないような状態となっていた。
「咲夜、安心なさい。一応受け取ってくれるわ。」
「何を視ていたのですか。」
「運命よ。貴方は必ず報われるわよ。」
そいう主人は目の前に置かれていたスクランブルエッグが挟まれたサンドイッチを食べていた。とろとろの卵をふわふわのパンが挟んでいる。トマトの酸味のあるソースがかけられていてそれがアクセントとなっていてとても美味なのであった。
そして人間の血が入っている香り深い紅茶を一口飲んでから主人は次なるものへと手をつける。カリカリと焼かれているベーコンでその噛んでいる音も大きく脂身がサンドイッチへの食欲を増進させてくれる。そしてふわふわなパンに挟まれたふわふわの卵の入ったサンドイッチを食していた。
一通り食べ終えると食後のデザートとしてケーキやタルト、マカロンが置かれていた。その種類も一つにしても量は多く選ぼうにもいくつ食べようかという所から迷ってしまう。そしてどれも美味なので何を食べようかということで頭を使ってしまう。主人は欲望のかられるままに食べていた。
その間に紅魔館で一日に出てくる服を洗濯していた。そして紐を使って庭一面に広げていた。その作業をする頃には陽がそこそこ登っている頃だった。妖精メイドはもう遊びにいっているが少なからず手伝ってくれる人もいるので少しだけ助けられているところもある。
それを終えると今度は昼食を作り始めていた。主人だけではなくて妖精メイドのためにも量よりも質を重視した食事を作る必要がある。その手、体が休まることはなくメイド長はその日を終えようとしていた。そして一日を珍しく全て使い果たしてしまったメイド長はヘトヘトな事が分かりやすいような表情をしていた。だらしないと言われるだろうがそれを言わせないように常に完璧であり続ける。それが紅魔館のメイド長の強さでもある。
「咲夜か、珍しいな。」
もう勉強は終えたらしい。青年は多くの何が書かれているのか解読出来ない紙切れを横手に持ちながら挨拶をしていた。ここでメイド長は意を決して言ってみることにした。
「ねぇ、今日何の日か知っているかしら。」
「興味ない。それに今日の日付も忘れた。」
青年は相変わらずだった。自分の興味ないことは聞くようなこともしない。
「今日は二月十四日。幻想郷ではあまり浸透していないけど女性が男性にチョコを渡す日なのよ。だからね、作ってきたのよ。」
素早く時間を止めて朝持っていたものを渡そうとしているメイド長は頰を赤らめながら自信がなさそうにしていた。青年はどう思うかは知らないが大抵の人なら何があるのかドキドキするかもしれない。青年はそうでもないらしい。
「そうか。それなら是非貰うことにしよう。」
青年は空いている片手で受け取る。
「中には一口の大きさに丸めたチョコが入っているのよ。それなら食べやすいでしょう。」
今の状態のメイド長は完璧のカケラは一切なかった。それでもメイドではなくて一人の少女としての姿を見せていたのは少なからず効果はあったのだと思われる。
「そうか。早速食べることにしよう。」
青年は今まで勉学に励んでいたのだろう。体をいち早く休めたかったのだろうが味見ということでその場で食べることにした。
中にはキラキラとしたものが散りばめられているチョコが入っている。本当に一口の大きさに丸められたチョコが三つ入れられている。箱も手作りだろうが中の仕切りまでもしっかりとしているものだった。青年は疲れを癒すように一つだけ掴んで口の中に入れることにした。
「滑らかな舌触りと甘くないビターな味がする。香りも甘ったるいものではなかった。とても美味しい。これなら食べやすい。」
青年は何も気にすることなく感想を述べていた。
メイド長は顔を隠していた。
「疲れたのか。今日は早く休め。」
その優しい一言も今のメイドには身に刺さる。