青年放浪記   作:mZu

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第210話

燃え上がるような体に冷徹な目を笠から覗かせる奇妙な青年は柄を口に咥えて川のある右側に切っ先を向けて手には何も持たなかった。

 

獣の刃物の使い方をしている青年は天子の方へゆっくりと近づいていた。その姿はまるで悠然とした山のようで動かなさそうな岩のようだった。それだけに天子でさえその事には身をたじろがせるほどだった。

 

「随分と姿が変わったわね。」

天子はふざけるような口調でおちょくるように話していた。だが、反応はない、いや、反応する口を塞がれているようだった。青年は人を変えたようにしているのだがそれが事実であるのかと思えるほどに豹変はしていた。青年は依然として天子の方へと歩いていた。

 

その間合いはもう一刀足の範囲内となっていたが一向に立ち止まる気配はなかった。一歩ずつ距離を置いていた天子もいい加減にしないと終わらないと感じ取っているのか緋想の剣をかざして太陽の気質を吸収していた。こうでもしないと目の前の悪魔は対抗できるわけがなかった。それだけの実力を有しながらここまで一切話題になるような事はなかった。

 

「ねぇ、少し待ってみない。それからでも遅くはないでしょう。」

それでも青年から返事がもらえる事はなかった。適当ながらも何か言ってくれた青年は何も話さず冷たい目付きで何も感じていないかのように徐々に距離を詰めていた。天子も対抗する術はあるはずだと思いながらその期待を裏切るようにしているのがどうしても心の中に引っかかっていた。

 

青年は左脚で河原の石を踏みつける。そして放たれる一撃、恐ろしく牙を向けた狂獣は天子の左肩を狙っていた。常に向けられていたその照準を解放するかのようなものだったが天子は両手で緋想の剣を持って後転しながらも何とか受け止めたがそれでは間に合わなかった。

 

青年の次なる一撃は天子の横になっているところへと向いていた。太陽の気質を使用しても弾かれたその一撃はある意味では死を覚悟した。何を始めるのかは何もかも分かっていた。もう既に勝てるようなものではなかった。そう感じた天子の耳に入ったのは何処からか聞こえる獣ような雄叫びだった。

 

余計に恐怖感を感じたがその音に青年は反応した。首を振って辺りを見回す青年のようなものはある人物を捉えると口で噛み挟んでいた剣を取ってから鞘の中へと納めていた。

 

「お辞めなさい。その為に教えたわけではありませんよ。」

ドスの利いた低い声で話しているその少女は左腕に紅葉柄の上半身くらいの大きさの盾に荒削りの大剣を腰に装備していた。

 

白髪の毛で顔の輪郭を隠すようなカールをかけた首筋ぐらいに当たるくらいの長さでモコモコとした白い服装で黒を基調とした赤い紅葉の葉が描かれているスカートを着用していた。青年はその人の声を聞いて動きを止めた。

 

「椛、やはり千里眼でも見えていたのか。」

 

「ええ。それに使わなくても見えましたよ。」

椛と呼ばれている人にヒョコヒョコとしている青年を見て何が何だか状況が掴めないような天子。目を丸くしてその様子を見ていることしかしなかった。

 

「そうか。評価はどれほどだ。」

 

「まずまずですね。」

 

「そうか。」

何故か気を落としている青年だが親に褒められなかったのが悔しかったらしい子供のような悲しい表情をしていた。何かあったのだろうと思うが何も分かっていなかった天子はただただその光景に飲まれているだけだった。

 

「それで後ろで膝をガクガクさせている人は誰なんですか。」

 

「天子だ。天界の住人であるらしいが何故かこの様な状態になっている。」

 

「ちゃんと介抱してあげてくださいね。」

椛はキョトンとした目をして落胆したような口の開き方をしていた。中々な阿保面な気もする。青年はそう思ったがまだまだ届かないところはあるのでこれからも指導を受けたいと感じている。

 

「分かっている。」

青年はそれだけ答えた。

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