その後、天子は疲れた様子で帰って行き青年は川を更に上流へと上っていた。河原の近くを歩いているだけなのだが意外と距離があるように思える。単純に足場が悪いからなのか。
「前の時は感謝している。」
青年は何かを思い出しているようだった。
「はい、それにしても武術もそれなりの腕はあるようですね。」
「そうか。世辞として受け取っておこう。」
青年はその言葉は真に受けない。
「真実なのですが、貴方はその評価をされるためにはしていないのでしたね。それはお好きにしてください。」
椛はいつも通りの和やかな雰囲気をしていた。
本来は哨戒天狗としての役目を果たすべきなのだが今回は知人の勇儀程度として片付いているので仕事モードではない椛は何処か気の緩んでいるように見えた。前に会っていた時よりも柔らかく感じているが何処かで疑問が浮かぶ。
「そうさせてもらおう。」
「ところで貴方は何をしにここまで来たんですか。」
「にとりにとても助かったとお礼をしたかった。それだけだ。」
率直な感想として話している青年だがその事とは別のところへ視線の向いているので椛はその事は追求する気は無かった。別に何か出てくるような気はしないのでどちらでもいいと言うのが率直なところである。
「何か助けられたのですか。」
「勇儀との戦闘やお空の時も助けられた。それに聖との戦闘でも助けられた。その事を早く伝えたい。」
青年は生き生きと話しているので椛はウンウン、と相槌をする程度であった。それで青年は満足であるらしい。
「だが、その分力が増したような気がする。その事は気をつけないといけない部分でもある。」
「それが一番大きく起因しているんですね。」
「人を傷つけるのはやはり怖いものだ。それが例え敵として幻想郷を大きく脅かすとしても。」
「貴方は優しい。自分の欲よりも相手の気遣いばかりです。戦闘というのは自分の全力を尽くして行う事です。ですが、何か怖いと感じている何かが貴方の力に制限をかけています。それで貴方は何処まで実力をつけたいと思いますか。」
椛は聞いていた。青年がどのようにしたいのか、を。
「そのようなものはない。」
青年は少しだけ迷っていた。何か違うような気がするのだ、何かが。誰かを倒したいから力を付けているわけでもない、それにそれだけの欲の為でもない。それだけに空っぽな青年という容器は何もかもを吸収し自分のものとしていくのだろう。全てを吸収して何かを取り戻した時に青年がどのようになるのか。