青年放浪記   作:mZu

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第212話

珍しく朝霧のある夏ような日だった。それだけなら何の問題もないがこんな暑い日に起こるようなものではないと誰もが感じ取っていた。

 

ある天人のせいではないかと囁かれていたがそのような根拠は全くなかった。ほんの薄暗い夏のような朝、その大きな影を見た人里の人々は大きな悲鳴を上げてその声に妖怪や人間、神が共鳴した。人々が恐れ慄いた「それ」を皆で究明しようと奮起していた。

 

 

が、しかし青年には関係のない話だった。

 

皆がある一点へと向かっていく中、一人孤独に歩みを進めていた。今回はある人を連れているが薄暗い青い炎によって灯された岩の中の空洞を進んでいく。その中には何らかの人の住むところであるような木造の住居や壊れかけているように見える橋があり青年の後ろにいた人は大層怯えながらその道を歩んでいった。また暫く整備のされていない岩の道を進むと赤い提灯で灯された場所へとたどり着く。

 

ここで面倒になるので右腰に携えていた剣を抜くとふわりと体を浮かせてその繁華街の上を通り過ぎる。その下ではあらゆる店があるが地上から追い出された鬼や忌み嫌われてここまで追い込まれた人などがここで酒を飲み交わしている。青年はゆっくりと左手に掴んでいた手を離すと自分も地面へと降りた。

 

そこからまた歩き出せば青年が今行きたいところへとつく。その場所は木材がある以外は水溜りがあるだけで何かあるようには思えなかった。

 

「連れて来た。」

青年はその場にいた人達に声をかけていた。皆は困り果てた表情をパァ、と明るい顔を変えて期待の眼差しをしていた。

 

「これはどういう事なの?」

 

「実は前に椛と来た時に話した事があるだろう。」

 

「あの時ね。」

 

 

数日かのその前のことだった。青年が妖怪の山と呼ばれる北側に極めて近い所へと行った時の出来事だ。あの時はなんだかんだあって椛と一人の工房のところまで来ていた。

 

「久しぶりだ、にとり。元気にしていたか?」

青年はそのように話しかけた。慣れた様子で何かの音が鳴っている工房の中へと話しかけたのだが一切声が聞こえなかったので何となく中を覗いていた所で気づいたらしくにとりは青年の近くへと向かっていた。

 

外ハネをしている青色の髪で小さな尾を作っていた。そしてタンクトップと思われる灰色の服装で下も灰色をした色気のない作業着をしていた。

 

工房の中はとても熱くなっていたがその原因は窯であると気づいた青年は外で出てくるのを待つことにした。

 

「椛、貴方はどうしてそこまで力が強いんだ。」

にとりが来るまでの暇つぶしとしてそのような事を聞いてみることしたらしい青年は右頬に頬杖をついて河原に胡座をかいていた。

 

「それは知りませんが元々白狼天狗が身体能力は秀でいたからでしょうね。」

冷たく答える椛に何か機嫌を損ねる事でもしてしまったのかと思い始めた青年は口を開けてそうだったのかもしれない、と言ってから口を閉じた。

 

その後は簡単に話せば何もなかった。にとりが来るまでは慣れていながらも反りの合わない二人であったので呼ばれた本人が帰りそうになっていた。

 

「盟友、それで何か作って欲しいものでもあるのかい?」

 

「いや、今日はそのような事で来たのではない。お礼をしたかった。」

 

「お礼ね、わざわざ来てくれるとは光栄な限りだよ。」

にとりは嬉しそうに青年の言葉を聞いていた。青年も同じような表情をしているのだが少し時間が経ってからにとりの表情とは違う顔になっていた。

 

「でも、作ったのは霊出異変の前だよね。」

 

「そうだ。それでその時間何をしていたのかを聞きたいのだろう。」

 

「そうだね。さすが盟友だよ。」

 

「話は簡単だ。温泉を作っていたり、怪我をしたのでその療養をしていたりしていた。」

青年はさらりと答えた。それだけなら別にいいのだろうがその言葉の内容がある意味では常識を考えてみるとあまりにも何をしたいのかは全くわからない。温泉?何を話しているのか全くわからなかった。

 

「武器を使うということはそう言う怪我なんかをすることになるけど。温泉はよく分からないね。」

 

「そうだったな。間欠泉が噴出したのは知っているだろう。それをうまく利用して温泉が出来ないか考えてみたら人の協力はあったが出来た。」

 

「軽く凄いことを言うね。さすが盟友だよ。」

 

「その時にも使えたのだが、異変解決する為に何回か利用させてもらった。にとりに小刀と釘と針を作ってもらっていなかったらこうはならなかったのだろう。」

 

「良いさ。これからもこの私を頼って構わないよ。何でも作るんだから。」

 

「そうか。それは良かった。」

青年はその場から立ち上がると立っていた二人に見守られる形でその場から来た道を反対方向へと歩いていた。にとりはいつ来るのかと思っていたがその日は意外にも近かった。

 

「そうだ。数日かそのぐらいか前になんでも作れると言ったので折角なら温泉でも作ってもらえないだろうか。源泉の出が悪くなってしまったらしい。」

青年は困った表情をしていた。そしてにとりに対して懇願しているのでどうにか期待には答えたいがどうすれば良いのか分かっていなかった。

 

それだけで済むのなら良かったが意外にも人数は揃っているらしく中途半端に出来ている温泉を見ながらにとりはどうにか此処から逃げることを考えていた。周りは妖怪に妖怪に妖怪に鬼、絶望的だ。

 

「にとりさん、その青年さんからお聞きしました。武器を作ってもらったのは貴方のようですね。そして物の作成はお好きのようです。是非ともよろしくお願いします。」

 

「にとり、これからも頑張ろうね。」

 

「何かあったら私までお伝えください。できる限り準備します。後、寝泊まりや食事の事はこちらで用意させてしています。」

 

「何か力仕事は私に任せてくれ。そういうのは得意なんだ。」

 

「山川さん、これはどういう状況なんですか?」

にとりは後ろを振り向いて青年の方を逃げるように向いていたが効果はまるでなかった。

 

「俺の計画に賛同してくれた人たちだ。温泉の作成中に非常事態になってしまったから貴方の名を出したところ連れてきて欲しいということになった。俺はもう一人ぐらい有識者を連れて来たいと思っている。」

青年はそれだけを置いていき何処かへと消えてしまった。

世間は大鯰が原因とされている異変で騒がれていた頃、後ろに髪を結んでいて何かを見通しているかのような目をしている修行僧のような格好をした青年はある場所へと向かっていた。

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