質素な佇まいの寺がある。その寺の名前は命蓮寺と言うそうで決して見えないと言うわけではない程度の高さの塀と木造で装飾は何もされていないが立派な建物が建っていた。
ここで借りている服を着用して三月ぶり来てみる青年だが一種の不安というものがあった。説明するようなものでもない、だが一応気になるもの。
「おはよう。貴方が新しく入ってきた門番か?」
青年は命蓮寺に入るための門の前で掃き掃除をしている人に話しかけることにした。その人は犬耳をつけたようなものが頭の上にあって緑色のような青色のような髪色でウェーブのかかったショートボブほどの髪型をしている。小豆色のような長袖のワンピースを着用していて黒い靴に三つ折りソックスを履いていた。
「おはよう。はい、そうですよ。」
元気よく大きな声に青年は一瞬だけ身をたじろがせた。耳に響くような声なので耳の穴を塞ぎたかったがそれは出来なさそうである。日常会話程度なので少しの笑みをこぼしているのでこれが普通くらいと言うことであるらしい。
「少し声の大きさを下げてほしいが出来るだろうか?」
「出来ますよ!」
いまだに大きな声で話しているのでこういう人なのだろうと青年は何となく感じていた。見た感じ大きな声を出すことのできる妖怪であるらしいが正体というのかどのような種族であるのかは皆目見当もつかない。
「名は何と言う?」
「幽谷 響子です。よろしくです。」
「俺は木葉という。以後よろしく頼む。」
「よろしくお願いします。」
童のような笑みをこぼして頭の大きく下げるので青年も失礼にならないように同じように頭を下げて同じような言葉を言っておいた。そうしておかないとこれから大変なことになりそうなものである。
「では、聖に会いに行くことにする。何をしているかは知らないが頑張ってほしい。」
箒を両手に持ち掃き掃除をしているように見えるが今は手を止めている、これからそれを始めると思われるがそれだけが寺の勤行ではないと思われるので少し適当ながらもそのように言っておいた。
背中についていた小さな尻尾を体から見え隠れするぐらいに振っている。椛のような面影を感じるがそれもまた一興、軽く考える事にした。
「はい、分かりました。」
もう一度お辞儀をして丁寧に迎え入れられた青年はそのまま中へと入っていく。その中は本当に当然のことながら何も置かれていなかった。
明かりを灯すための灯篭のみが置かれていてそれ以外は母屋と離れ小屋しかなく仏間と思われる部屋からはその像は襖の隙間から見えていた。
開けている意味は到底理解できないと青年は其処で諦めて歩みを進めることにした。だが、縁側に座っている人を見て進路を大きく変える必要があるように思えた。
金色の髪に紫色のグラデーションをかけた長神の女性で下には白色の生地の服を着て黒色の上着のようなものを着用しているが前を小さな交差を作るように何個か作って止めているように見えた。この命蓮寺の名付け親である聖 白蓮という住職である。その人は縁側で座禅を組んでいた。
朝の日課と思われるので邪魔しないようにその場から逃げるような足取りで別のところへと向かおうとしていた。
「貴方ですか?」
薄くを目を開いていた聖は同じような服装をしている青年に声をかけていた。意識は白濁としているようで五感を研ぎ澄ましているように思えた。毎日そのようなことをしているとなると感心するものがあると青年は感じた。
「そうだ。」
優しく小さな声でこの静寂とした雰囲気を壊さないようにしていた。青年はすぐ近くには寄らずにある程度の距離を保って会話をすることにした。
「盗人が現れたのかと思いました。」
聖も同じような気持ちであるらしく同じような声の出し方で耳に息をかけるように話していた。周りからはきっと二人が何をしているのかはよく分からないのだろう。
「もしかしたらそうなるかもしれない。」
「冗談はよしてください。そのような邪な心は見えませんでした。」
「よく知っているものだ。」
「それだけ多くの人と妖怪を愛していきました。皆平等に救い出せるようにしたいです。」
「その心があれば叶う。して、体の調子はどうだろうか?」
「それはお互い様でしょう。」
聖は薄く目を開けているが何を見ているのかは瞳の動きが分からないので青年には理解できなかった。別にそのことは気にしていないがまた別のものを感じる。
「俺はそこそこ本調子に戻りつつある。だが、油断するとまた怪我をしそうなので争いは起こさないようにしている。」
「それは良い行いです。」
「そうか。」
音を潜めた青年と笑みをこぼした聖の二人の空間を壊す人は誰もいなかった。この早朝に船長や寅丸を見かけないのは気になるが各々のすべきことをしていると青年は考えておくことにした。
「ですが一つ。言い争うことは辞めないでください。その言葉は口喧嘩のように聞こえますがお互いの心を知るためにも言葉を交わすことが大事なのです。」
「そのことはよく知っている。そうでもなければここへは来ることはないだろう。」
「そうですか。それは良かったです。」
聖はまたいつものように習慣付いている座禅を組み始めた。日が出ているがまだ暑いという訳ではなかった。座禅を組むのにはこのやり易いところから始めるべきだと感じた青年は聖の近くまで行くことにした。
「聖、一つ頼みたいことがある。」
「何でしょうか。」
聖はその雰囲気そのままに答えていた。疑問形のある話し方で最後の方が微妙に上がっている。
「それをしてみたいんだ。」
「それは構いませんよ。」
どうぞ、というので靴を脱いで縁側で座禅を組む聖の隣で同じような格好をしている青年は少しの説明を受けてから始めることにした。何か起こるようには思えないがどうやら心を鎮めるために行なうものであるらしい。五感を研ぎ澄ますという修行という意味ではとても有意義な時間となっていた。
「聖様、もう時間は過ぎました。」
誰かの声のその足音にも反応を起こさなかった二人、それを見ていた尼のような格好をしている人は驚いたそうな。