青年放浪記   作:mZu

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第215話

もう面倒な事になっていた。そう思えた青年はその場でその人の腕を肩に乗せて何処かへと行くことにした。

 

 

少し時間は戻るが命蓮寺にて精進料理をご馳走になり片付けを手伝った帰りの事である。本来灯籠が置かれた道なので迷うことはないが遠くに仄暗い灯を見つけたのでその場所へと向かった。赤色の提灯が吊り下げられていて何かを焼いている音が聞こえた。見慣れたところではあるが其処にいる客が珍しいのである。

 

「如何して居る?」

聞くのも失礼だが率直にそう聞いた青年に怒りの表情を見せていた人は銀髪で赤と青のツートーンカラーをした上着でスカートはそれを逆にした色で長めの丈をしている。そして垂れ下がっている三つ編みがあるそれ相応に長くなっていることを示していた。

 

「悪かったわね。」

もう酒は入っているらしく何か気に入らなさそうにしているので何か愚痴でもあるように思える。

 

「知り合いなんですか?」

 

「それなりだ。」

赤い布で髪を覆い隠していて暗めの赤色の着物を着込んでいるこの屋台の女将は会話の途切れのところで聞いていた。青年は椅子に座ってからそのように答えた。

 

「ここによく来るの?」

 

「偶に来る。気晴らしには丁度いい。」

いつものを頼んでいた青年は隣から聞こえてくるその声にすんなりと答えていた。元々ここではゆっくりとした空気が流れている。それに飲み込まれるようになっていたその人は酒瓶を片手に名物であるヤツメウナギを食していた。甘辛いタレで焼かれているので決して不味いというものではない。

 

「私も気晴らしに来たのよ。何かないのか探るには丁度いいのよ。」

含みのある言い方だがな到底理解できなさそうなので青年は敢えてその場では何も答えようとしていなかった。それとも応えるような気にはならなかったのか。青年とその人の前では網に置かれているヤツメウナギが炭火で焼かれていてその音の方に意識が向いていた。青年は右腕を使って頬杖をつくと頬を歪ませていた。

 

「永琳、何か嫌なことでもあったのか?」

青年は聞いた。出されていたヤツメウナギの串を持って見て楽しみながらその隣に座っている人に話しかけていた。酒瓶も勢いよく飲んで満杯に近かった中身も半分ぐらいはもう中に入っていると思われる。永琳は今日はとても荒れているようなのでそっとしておいても良いのだが珍しいこともあるようなので誰もが何も話すことは出来なかった。青年もそのように感じている。

 

「ええ。嫌な事とは区別は付きにくいけど診療所を作って欲しいと言われているそうでどうしたら良いのか。その事を、ね。」

 

「腕は見込んだ通りだったということか。して、永琳はどうしたい。」

 

「私は反対よ。何の為に箱庭結界をして何年もあの場所に居たのかさっぱり分からなくなるもの。」

 

「人生は変えてはいけないものもある。だが、変えていく必要があるときもある。それがどのように転がってもそれが然るべき運命というものではないか。」

青年はヤツメウナギを半分ほど食して酒で流し込んでから話した。ゆっくりと溜めのある話し方で聞き取りにくかったが心のからは混乱していないと思われる。

 

「もう何年生きてきたのかは知らないけどそのような考え方は持ち合わせていなかったわ。」

永琳も感慨深く青年の言葉を聞いていた。それだけ身に染みたらしい。

 

「不老不死なら仕方難いだろう。変わることが出来ない。人の心は変わらないが世間というのは大きく変わることもある。そんな節目は何度経験してきたか知らんが悩むものなのか。」

何か含んでいるようにへらへらと笑い始めている青年に口を固く結んだ永琳は何か思惑とは違うことが起こっているように感じた。逃げている、そのように感じた時、それが変わるべきところであると教えてくれた。自覚した、というだけで良い。

 

「悩むものよ。妖怪の森を通り過ぎた先にある迷いの竹林の中を歩いて来てもらうのは可哀想よ。それに妖怪がいつ襲ってくるのかも分からない。」

 

「人に優しいんだな。」

 

「鈴仙も今は自力で新薬の開発をしているけどその効果は強かったり弱かったりする。同じものを混ぜているけど失敗続きなの。」

 

「弟子が心配か。」

 

「今のままで少しずつしか救えないからそれが困るところよね。」

 

「今の状況は不安なのか。」

青年は永琳の言葉の途切れ途切れに自分の率直な感想をポツリポツリと入れていた。永琳は気にしないようにしていたがもうそろそろ限界となるところもある。

 

「永琳、貴方自身は何も目標というものはないのだろうか。」

 

「無いわ。いつかは叶うことばかりだもの。」

 

「そのいつかで貴方は何千年の人生を無駄に過ごして来たのだろうか。」

 

「難しい事を言うのね。私は過去は振り返らないわよ。」

 

「いつかは必要になる。貴方がここまで何をしていたのか、薬の開発はしていたのだろう。弓の腕も卓越している。他に何が出来る。」

 

「もうやってやるわよ。」

酒瓶をがばっ、と持ち上げて一気に飲み干す。その勢いには圧倒されふものがあるがそれを誰も止めようとはしなかった。ここにいる女将も青年も居なかった。

 

「今日はもう祝い酒よ。」

永琳のその大きな珍しい声には青年もどうしようか迷ったが話を合わせてみることにした。呂律の回っていなさそうな口振りでどんどん色々と話していくのだが酒の力に飲み込まれた永琳はその場で力尽きて台に伏せてしまった。

 

「女将、もう一本頼みたい。」

 

「ええ、良いですよ。」

女将はヤツメウナギを網の上に乗せていた。焦げ目を少々つけた焼き加減で青年が頼んだ通りのものだった。

 

「この人はどうしたら良いだろうか。」

 

「そのままで良いのではないでしょうか。寒い季節でもありませんから。」

 

「なら、俺が連れて帰るか。コイツにはやってもらいたい事があるんだ。」

 

「何をしてもらいたいんですか。」

 

「この幻想郷を変えて欲しい。製薬によって病気が治せるようになってほしい。そうしたら長く楽しく元気に過ごせるだろう。」

青年はいつも通り酒を飲んでいた。そこに何の音もなく風に揺れる木の葉の音と網で焼かれている魚の悲鳴しか聞こえてこなかった。

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