青年放浪記   作:mZu

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第216話

鏡のような湖の上に一つのボロくなってきた舟が浮かんでいた。漕ぐような様子もなくただそこに立っているようにも見える。

 

水面に波立つようなものは何もなくただ真っ平らな線が辺りにあるだけだった。其処で使用人のような白色のシャツに黒色のジャケットを羽織った青年は問う。

 

「最近の調子はどうだ?」

銀髪の両側に三つ編みをした青服のメイドは顔をうつむかせて青年のその言葉を聞いていた。元々釣りのする為に乗って漕ぎ始めた舟に声をかけたのがこの人だった。

 

近くにある紅魔館と言われている館のメイド長をしており大体の仕事を完璧にこなすことが出来る凄い人。戦闘能力というのも決して低いわけではないのでどこへ行っても何とか出来るのだろう。

 

だが、今はそれは違い何処か卑屈のように見えるのでどうしても気になるところではある。青年はある程度湖に溶け込んだ後で櫂を両手に持っていた。

 

「いえ、何もないはずなんだけどどうして声をかけたのかはよく分からないの。」

 

「そうか。俺は静かにしているからいつでも話してくれ。だが、この空気を読んで何か適当な事を無理に言うはやめて欲しい。それはまた違う。」

青年は舟の中に置かれていた竹竿をしなりをつけながら遠くへと飛ばして静寂な水面に波を作り出した。そして青年はズボンのポケットから煙草の箱を取り出すと一本だけ咥えてからしまおうとした。

 

だが、其処に一本だけ欲しいと咲夜はこっそりと話していた。青年は大きな声でも良いと言っていた。対して咲夜は萎縮した態度をしているので青年は思い切って放っておく事にした。

 

「付けるか?」

 

「ええ。」

咲夜は左手に持っていた煙草を持って青年が付けてくれるのを待っていた。青年はジャケットの裏から小刀を取り出すと素早く動かしてから自分のを付けてすぐに納めていた。

 

青年はゆっくりと吐き出した紫煙を左手で払いながら竿の持つ手を緩めていた。今は釣れる気はしない。態とらしくそうさせていた。

 

「最近は主人とはどうなんだ?」

咲夜は左手に煙草を持って灰をにとりに作ってもらっていた入れ物に落としてからまた口元で咥えていた。

 

「何も変わらないわよ。毎日給仕して過ごしているわ。貴方と何も変わらないでしょう。」

青年は右手で煙草を持つと入れ物へと灰を落としてからもう一度口に咥えて口角から煙を吐いていた。何か気にしているようにもそうでもないように思えるが実際のところは本人にも分からないというのが一番今の状況にあっていると思われる。

 

「さて、何の事やら。パチュリーには最近魔法を教えてもらった覚えはないが。」

青年は咲夜の方に体が向いていないので実際のところは口角の動き方ぐらいしか判断するためのものはないが何もないところへ微笑んでいるように見える。

 

青年は竹竿を引き上げて釣り糸を自分の元へと手繰り寄せると舟の中に置いてから釣れないようで右腕で頬杖をついていた。退屈そうな表情をしているのは見えていない咲夜でも分かるものである。

 

「違うわよ。朝に此処を出て夕暮れに帰ってくるじゃない。偶に更に遅くなったりその日には帰ってこなかったり私を心配させるのは変わらないのよ。」

 

「それは貴方の勝手だろう。手綱を握っているのならまだしも人の操作なんてするものではない。」

日は大きくそして高く昇り青年と咲夜を照らしていた。その光は首筋をさらりと走っていく心地よいものであり転寝をしていても特に文句は言われなさそうに思える。それぐらいの気分であるが青年はそれをしない理由がいくつかある。

 

「そうね。私も少し傲慢になってきてしまったかもしれないわ。」

 

「欲がなく、生きていてもそうでなくても何方でも無いよりかは良いだろう。俺はそう思う。」

何か諦めたように竹竿をしならせてから吐き出すように投げ込む青年。それを見ていた咲夜は煙草の灰を入れ物に入れて吸い殻としてその中へと入れていた。青年はまだ残っているようで吸い方にかなりの差があるように思えた。青年は煙草に火が付いていようと付いていまいと吸いかたに変わりはない。

 

煙は口の中に残るかそうではないかの違いでしかない。強いて言うなら煙草を咥えているだけの青年はある意味では本当の味を知らないが文句を言って良いことと言ってはいけないことがある、つまりはそういうことだ。

 

「昔からそのような欲は何もなかったわ。幼いながらも両親を失った私はハンターとして身を任せることが多かったのよ。」

静かな雰囲気で何も話そうとしないので何かを紐解くようにサラサラと流れている水のように口から言葉を出している咲夜。青年は首を寝ているように縦に振ると咲夜も話を続ける。

 

「その中でお嬢様とはその時に出会っているのよ。そして命を救ってくれたのはその人、それからはメイドとして美鈴に教えて貰ったわよ。」

 

「そうか。それでとても美味しい料理を振舞ってもらえたというわけだな。」

 

「良かったわ。でも私、最近どうにもやる気が起こらないというのか。こうやって怠業をしているけど何か気持ちがど

うにもなっていないのよ。」

咲夜はポツリ、と静かにそれでも炎を燃やすような気迫を見せていた。氷のようなナイフの切り口からは赤い炎のような痛みがある、それだけに鋭いものだった。

 

「して、それでそのまま辞めてしまいたいと、そういう事か?」

 

「いいえ、そのつもりは無いわよ。命の恩人への御恩はこうして返していきたいのよ。」

 

「なら、妖怪の山では紅葉が咲いているようだ。俺なら適当なところで場所を作ってやれるからゆっくりと落ち着くことができるだろう。如何する?」

 

「どういう意味よ?話している内容は全く分からないわ。」

咲夜は机を挟んで対面しているならそれを叩いているような勢いでモノを言うのだが青年は川の対面の火事のように危機感というものは何も感じているようには思えなかった。それだけ落ち着いているのかそれとも違うのか。

 

「体と心が壊れかかっている。それなら早く休んでみることをお勧めする。」

青年は楷を持って岸へと向かっていた。咲夜には拒否権などはなさそうに思える。それだけに青年の行動というのが危険であるかを物語っている。

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