青年放浪記   作:mZu

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第223話

青年の後ろには何らかの洞穴があるのだが其処への道は青年には何も興味が湧かなかったらしい。断定は出来ないが恐らくそうなのだろう。

 

しかし何の熱気も感じないその体は生きているようなものではないのを青年は感じた。死体なのか、それとも元々このような妖怪の類なのか、青年は推測出来なかったが恐らくそうなのだろう。

 

「どーしたんだー?」

気の抜ける声に青年は表情一つ変えずに冷静にしていた。恐らく切れ味のあるナイフのような目つきなのだがその目はそのままに小刀を首筋に当てるのは違う物であると感じた。

 

「ここで何をしているんだ。」

ここでも冷静に話を聞き出そうとしているがその声には真剣さと言うものがなく言わばふざけているように思えるほどの声をしていた。それだけに何か関係のないものが見えそうになっているのだがその事は何も言わないようにする。

 

「守ってるように言われた。」

 

「それは誰に言われたんだ。」

 

「分かんない。」

 

「そうか。」

青年は其処で聞くのをやめてしまった。素直で屈託のないその言葉には誰かが暗躍しているのは確かだがこれ以上聞き出せるようには思えないほど頭が腐っているように思えた。

 

会話は成り立つらしいがそれ以上は難しい、言わば交渉や言葉の駆け引きには向かないようになっている。だが、青年はここに何かあるのは分かった。

 

「この洞穴には何かあるのか、それを知りたい。」

それだけに限る、率直に聞いてみることにした青年にその人は何か阿保臭そうな表情をしているのは目に見えた。ぽかんと口を開けた縁側の幽々子のような表情をしているので青年は口角を片方だけ上げてその場は凌ぐことにした。そして踵を返して洞穴へと入ろうとする。

 

「君達が入っていいような場所ではない。即刻立ち去るがいい。」

 

「気の動転が素早いのか。」

青年はボソリと呟いていたがそれ以上に案外遅めの行動のその人には青年も何となく走り回れば良さそうに思えた。両膝、両肘は曲げることを許されず飛び上がるような動作で地面を這うように進むので青年は無理に相手することもないと一歩だけさがった。

 

だが、その人が牙を見せたのは其処からだった。強烈な左フックを上半身を屈ませてながら避け切った青年は左側へと転がるように避けて体勢を整えた。その人もそれは分かっていたように両指を青年に向けてその場に立っていた。

 

「貴方はどうやらただの死に損ないではないらしい。」

 

「そうさ。私は神聖なる神廟を守る戦士だ。」

その人は大きな声でそのように話した。先程までの気さくな感じだったが一旦敵意を見せるとここまで変わってしまうのでどうしたものか青年は考えることにした。しかし答えというものが出るような事はなさそうでその時ばかりは諦める事にした。

 

「そうか。その神廟に誰がいるのか気になるがまずは貴方を倒さないといけないのか。」

 

「そうだな。」

その人はそういうが動く事はなかった。受動的な攻撃方法であるのは確かなので青年も迂闊には動く事はできなかった。それこそ何をしてこれるのかはその人に任せるしかない。

 

それにそれ以外の謎の要素が多くあるので動けなかった。青年は取り敢えず一歩だけ右の方へとずれてみることにした。それから左側へと脚を踏み進めると力強い刀捌きでその人に当てるがやはり通る事はなかった。軟弱な剣であるらしくこうしても駄目らしい。

 

それならとその場から一歩離れた青年にその人は覆いかぶさるように振るい被った右脚を下ろす。それを青年は剣で受け止めてその自分の勢いと青年の剣を軸にして素早く後転すると一切の隙は見せなかった。鶴かのような見事な足捌きに青年は何となく真似をしてみるのもいいだろうと考えていた。

 

「キョンシーなのか。それにしては随分と操り手の寵愛を受けているらしい。」

青年はその人に向けてボソリと話しかけていた。最初は青年もどこの関節も動かないと感じていたが実際は付け根の部分は大きく動かせる。最低限転んでも立ち上がれるようにしてあるのだと思われる。青年はその事を感じながら目を細めていた。

 

「それは知らない。だがキョンシーであるのは間違いないだろう。」

 

「口は軽いのは玉に瑕だな。」

青年は左腰から剣を抜くと横一線に斬り裂こうと左足を軸にして回転を加えて二手による同時攻撃を仕掛けようとしていた。しかし当たる事はあれど痛みというのが感じないらしいので普通に反撃を受けた青年は左頬に伝わる熱い感触を忘れる事はできなかった。

 

そして血も出ない死人にしては血色の良い肌を露出させたその人も何か嫌な気がしていたのだろうか両腕で腹を抑えていた。嫌な気はよくからないがな顔は向いていなくても警戒は怠らなかった青年はそのままの体勢で待機する事にした。それからは向こうが動くまでは青年が自ら動くような事はないのだろう。

 

「これは不味いかもしれない。鋼鉄の体に傷をつけるとはさては並の人間ではないようだ。」

キョンシーは何処か落ち着いた声で直立不動になっていたのだがもう何も気にしていないらしく膝も肘も曲げて青年の元へと全力で走り寄ってくる。

 

キョンシーとしての姿をなくした鋼鉄の体は青年に殴りかかっていた。青年は左へと避けるが更なる一撃は回転と共にその人から繰り出させる。

 

堪らず剣を鞘に納めたが避けきれずによろけるように移動した青年に更なる一撃を加えようとしている。その拳を青年は拳で返した。

 

そして下段からくるどちらか分からない回し蹴りを青年は左足で蹴り飛ばして回転の勢いを弱めた後で左手の指で顔を叩く。ピシリと鞭のような一撃に目を眩まされたキョンシーは回転の勢いも失い自身の体の制御も効かなくなったので青年の右足裏の蹴りを避けるような事はできなかった。

 

傷口を抉るような一撃に大変苦しそうにしているキョンシー。それを不憫に感じてどうにかしたいがどうにもならなさそうなので半ば諦めていた青年はその場で動きを止めていた。

 

この時ばかりは美鈴の受け身の体術を見ていて良かったとさえ思えた。少しだけは息は上がったがその事は気にしていないらしい青年、その目の前では倒れ込んで動かなくなっているキョンシーがいた。取り敢えず青年は何処かに立てかけるように近場の墓石に引きずる事を考えていた。

 

しかしここに近場の墓などはなく予定地ばかりが立ち並んでいた。平らな土地でなす術なくそのままに放置しようとしたが其処で話しかけられる。

 

「どうやら私の部下を可愛がってくれたようで。」

ひっそりと物陰から現れたその人は青年の背後から忍び寄るに話しかけていた。青年は驚きもせずに何かその人に背中を見せていた。

 

「俺の小傘を可愛がってくれたようなので手を添えた。」

青年は冷静だった。如何なる事柄も何も影響を受けないようにさらりと返したその言葉にはその人も何か違うものを感じているらしい。

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