洞穴の中は冷たく青年は身を震わせていた。凍てつくような寒さが手を招いていた。
青年は持ち合わせていた白の無地の着物の裾を持って両手で自分の体を覆うようにしてその中で寒さに耐える事にした。急に冷えるのはどうしても気になるところだがそうなるようになっているのなら仕方がないと思われる。
洞穴の中は暗いのだが視界が通らないというわけではなく照明も無いのに不思議だと青年は考えていた。そして地面というのはなだらかな段差の続く下り坂でこれからもこれまでも距離が掴めないようなそんな場所だった。青年はとにかくどうするかを考えながらここで眠っている人がどのような人物であるのかが予想する事にした。
青娥の話では見るだけで聖人である。そして悪という言葉は似合わないので見た目だけでそのように感じることがあるのだろう。青年はそれだけを考えてからふと思ってしまった。会ってみたほうが早いのでは無いか、と。そう考えてから青年の行動というものはとても早かった。
タッ、タッ、と足音を洞穴の中に響かせて軽く走っているかのような速度を出している青年はある意味では子供らしさを見せていた。清々しいほどに急ぎ足であるので誰も追いかけようとするものはいないだろう。そもそも居ないのだが。
青年の足が止まった。
その理由は目の前にある黄金色の建物が理由であるようだ。洞穴の中で広々とした敷地のある夢なのでは無いかと思えるほどの立派なものだった。その場所は白い正方形に切り取られた石のカーペットが敷かれている。その奥には何か眠っているように思えるような大きさの建物がある。命蓮寺とも似ているがまた違うようなものに思えるほど煌びやかなもので青娥を言い分も間違ってはいなさそうに思えた。そう感じれただけでもそれでいいのだろう。
その建物の壁は金色の装飾がつけられていて龍を模したものや鯉のような魚など縁起がいいと言うのか何かのストーリー性のある壁絵が続いているように思えた。そして対称的な並び方と非対称的な装飾をくるくると回りながら見ている事にしていた青年はある人がいつのまにか居るように感じた。
青色の烏帽子のようなものに白色の細めの紐を結んでいる。道士のような白色の服装でその下には青色の布地がある丈の短くなっているもので見ている限りでは気になる服装をしている。
袖と靴には赤、緑、青、黄色と紐がついていて銀色の髪を後ろの方で結んでいて顔つきとしては童顔というものである。
キョトンとした表情をしているのだが何を思っているのかはまた別の話となりそうな気もする。そもそもここに来るような人がなかなかいないという事になるのだろうか。その人は青年の顔をじっと見ているのだが何か話したりするようなことはなかった。
「何か気になることがあるか。」
「うぬ、気にするでない。」
その人はそのように言うが気にならないはずがないので青年は微妙な表情をしているのだがそのことは気にしている様子がないので一層の事清々しい気もする。
「この立派な建物には何か其れ相応の人物がいるのか。」
「まず、貴様の名を名乗るのが道理であろう。」
「そうか。なら、先に俺の事を見ていて貴方から名乗るのが先であろう。」
その人は少し考えてから何を察していたのか何か話すようなことはなくなっていた。青年は首を右に傾けてどうしようもない感じを醸し出していた。
「そうじゃな。私は物部 布都じゃ。」
「俺は神憑と言う者だ。」
青年は石畳の上でその銀髪の少女にそう告げる青年は冷静な目つきでその場に立っていた。布都と名乗るが一体どう言う種族であるのか青年はよく分からなかった。ここの建物の管理者なのかそれともその聖なる存在の使いというのか等しい存在となるのか。
「よろしくのう。じゃが何用か?」
布都としては青年がここに来る理由というのが気になるらしい。そんな表情を対面で見ていた青年はそれを察するようにして話を聞く事にした。
「人が眠っているという噂を聞いた事があってその検証に来ただけだ。」
青年はそれだけを説明しておいた。
「何処からその噂が流れたのかは一切分からぬが。歓迎するぞ。神霊に導かれし者よ。」
布都は両手を広げてその敷地を紹介しようと踵を返すが一旦止まると何かに気づいた。それはどのような事であるのかは青年には予想はつかなかった。
「此処に来る理由なんて一つだ。墓荒らしじゃろう。分かっておる。何もないから帰れと申したいがどうじゃ?」
「そうか。そもそもいつ墓荒らしだと感じた。」
「それは簡単じゃ。ここに来るバカはおらん。それに限る。」
青年は口から空気を吐き出す。
一体何が言いたいのか一切分からないわけだが青年は何となく耳を傾ける事にした。
「俺の格好から見てもう少し動きやすい格好をするべきだと思うがそれはどう思う。」
「そんなの変装であろう。分かるぞ。」
変に自信満々に答えるのでそれはそれで良いのかと青年は感じながらどうして欲しいのかは後で考えてみる事にした。
青年は腰に腕を当ててどういう反応を見せたら良いかを考えていた。変に脱力している感じは呆れているのかもしれない。
「その言い方もある。だがよく考えてみてほしい。此処には何があるんだ。」
「何もない。あるなら壁にある装飾でも取っていくと金になるだろう。」
「そうか。」
青年はそこで言葉を言うのをやめて何となく左手で顎を触ると何か考え事をしていた。別に付き合っている理由はないが一つの楽しみとして遊んでいるように感じる。
「此処には本当に何の用出来たのじゃ?」
「いや。何か言うようなほど目的があるわけでもない。」
青年も呆れてきているのか、何か気になるような事があるようなないような。
「何じゃ、意思がしっかりとしておらんのう。」
「元々何かしたくてここに来たわけでもない。」
「ふむ、ならなぜ来てしまった。」
「簡単な話、洞穴の前にいたある仙人が気になる言葉を出していた。それを見たかったからだけだから何も気にするようなことはない。」
「ふむ、仙人の仲間という事じゃな。何じゃ、早く言いたまえ。」
急に歓迎するムードを出しているが話の展開についていくのもやっとである青年は頭を抱えそうになる程になっていた。
布都も自信ありげに言っているので折るというのを失礼そうに感じた。
「仲間という事にしよう。」
「ならば、貴様の技を見せてもらおう。物部の秘術の相手をしてもらいたい。」
「そうか。」
「それでは武器を持ってくる。」
布都は踵を返して後ろにある建物の中へと入り込む。
青年はどうしょうもないのでその場で待つ事にしていた。そもそも布都の繰り出す秘術というのが気になるのは確か。それに此処で逃げ帰るということはまた違うような気もする。
「待たせたのう。」
青年が暇を持て余して目を閉じて精神を落ち着けていた時に声がかけられた。
布都が持ってきていたのは曲線を描いた刀身で幅の広めなものだった。これがどのように関係するのかは分からないが何かあるのには間違いないだろうか。
「いや、気にするな。」
青年はゆっくりと目を開けてから布都の方を向いている。
布都としては何か気になることがあるらしい。
「何も仕掛けてはいなさそうだな。何か準備をすることがあれば待ってやろう。」
「いや、気にするな。このままでも戦える。」
「ふむ、これは手強そうな気配がするのう。」
布都は持ってきていた剣を構える。
切っ先を下に向けていて切れ味がしっかりとしているように見える。見た目は銀色の刀身で柄には装飾のようなカバーが付いていて抜けにくいようになっていた。青龍刀と呼ばれる代物であると思われる。
「それは良い言葉をもらった。」
青年は特に構えるようなことはせずにその場で立ち尽くしていた。ある種ではどうなるかは分からない。
「ならば始めようぞ。」
「そうだな。」
青年は剣を抜いて逆手持ちで鞘から抜き出した。
受け止められはしたが驚かせる分には十分な威力は発揮していると思われる。
「中々の手練れであったか。流石と言うしかなさそうじゃな。」
大きく笑う布都だがそれに青年が同じような振る舞いをすることはなかった。