青い帽子、そして銀髪の見えるその少女は持ち合わせた青龍刀で意味のない闘争を始めようとしていた。
いや、そもそもそのような事もないのかもしれないがそのように感じるのは対面している人ではなくても分かるはずだ。
「別に弱いわけでもない。だが強いということもない。」
淡々とした口調で相手の言葉に答える黒髪の青年は先制攻撃として放った一匹を右手で操っていた。その蛇のような立ち振る舞いを見せる剣に一切の油断もできないという事を口からではないが警告しているように思える。
「ほう、それは面白い。太子様のお導きがあらん事を。」
「それは十分に受けてみたいと思っている。」
青年は話の腰を折らないように慎重な口運びで事を進めていた。別にそこまで警戒するような相手ではないと思う。
しかし、それが命取りになるような状況もないとは限らない。
「では、行くぞ。われが秘剣を受けてみよ。」
一気に走り出した。
布都の足は青年の前で止まる。
それ以上進むようなことはなかった。
一刀足。
それが青年と布都の間の間合いである。
ピクリとも動かない布都に青年は一歩だけ近づいてプレッシャーというものをかけるつもりだろうが予想をはるかに上回ったのだろう。
布都の足は後ろへと戻ろうとしていた。
「何も分からぬ。貴様は此処まで何をしていた。」
「気ままに過ごしていた。」
「ほう、特に修行をするようなこともなかったのか。それでは太子様に合わせる顔がないぞ。」
「気ままに過ごして人と会う中で己が道を見つけた。貴方にはそのような経験はあるのだろうか。」
青年は落ち着いた口調で話を進めるがそれが布都に通じているのかは謎だった。
つまり青年は自分の道は人の行動を見て見つけたという話をしたいのだろうがどうにも伝わらなさそうなので青年はそこからどうしようか考えていた。
「そのような経験はない。それで修行となるのか怪しいぞ。」
「そのような言い方をするか。うまく伝わらないものだ。」
微妙に悲観しているように感じる青年だがその表情というのはあまりそのようなことはなさそうに思えた。
「分からぬものは分からん。」
「特別何かしたということはない。その代わり人に教えを説いたということだ。」
「ほう。流石じゃな。」
布都の青龍刀は青年の顔の近くを通った。
それはまるで予期していない場所からの一撃のようで肝を冷やすという言葉が一番似合うような状況だった。
布都は避けられた青龍刀の向きを青年へと変えると斜め前へと出していた。
青年と布都の身長差のせいもないと言うわけではないが微妙に五寸の差があり分があるのは青年であると思われる。
青年は布都の青龍刀を避けると次の攻撃に剣を合わせてからその脚を前へとだす。脇腹を当てた青年のひと蹴りで布都は後ろへと退がった。
青年は意外にも余裕そうな表情をしているのだが大分危なかったのかは言うまでもない。
「貴様、良くやるのう。今の一撃は凄かった。」
素直なのか、それとも馬鹿なのか相手の攻撃を褒め始める布都に青年はどう言うこともしなさそうな表情で答える。
青年も作戦の一つとして歯を浮かせないようにしていたが変に浮かせてしまってもいいと思える。
それも作戦か、青年は瞬時そう感じてすぐに表情を無くした。
「貴方の青龍刀も中々だ。」
「うぬ、有難い言葉だ。人に説いていたのも嘘ではないのかもしれん。」
「貴方もやってみるといい。普通の修行よりも難しいものだ。」
「もしや太子様に匹敵するような徳を積まれているのか。」
「太子様、と呼んでいる方が此処には眠っているのか。」
「ああ、そうじゃ。我もここ最近目を覚ましてな。ちょっと困ったものもあるがきっと先に布教を始めてほしいと言うお導きじゃろう。」
ペラペラと話す布都に既視感を感じた青年は頰をぽりぽりとかいてその人の話を何の反応も見せずに聞いていることにした。
「そこに俺が現れたと言うことか。」
「いや、まだ力が十分ではないじゃ。それに太子様が直々に話を説く方が早いじゃろう。」
「それは尊敬に値する。」
青年はそれだけを話す。
カチャ、その音が聞こえた時には布都の首筋を通すように刃紋が存在していた。
刹那、青年が突き刺しそうとしたのがもう少し右に逸れていたらそれは絶命を意味していた。
「そこまで強いと言うことはなさそうだな。」
「貴様が強いだけじゃ。それは良い。では、太子様を呼んでこようぞ。」
「そうか。そう急ぐようなこともない。」
「分かっておる。少し話をしてくるからしばし待っていてくれ。」
青年は息を吐き出してからゆっくりと鞘に剣を納めると布都が太子様と呼んでいる方がくるまで待つつもりらしい。
布都はおもちゃのように青龍刀を振り回し見ていて危なく感じる腕の動きで奥にあった建物の中へと入っていた。その背中を見て青年はもう一度剣を抜くと刀身の方をよく見ていた。
其処には別に気にするようなものがないが刃こぼれがあるかもしれないと青年はふと感じたらしくじっと見つめる姿はさながら猛者のようである。
青龍刀の切れ味というのは並のものではなく岩でも豆腐のように切ってしまいそうな気もする。それだけの威力を持っていると思った青年は少々怖く感じたのかそのようにしていた。
別にそれだけではないのだが練習をしたり試し切りをした後は必ず見ているようにしている。
どうやら青年と魔法陣の相性は良く素早く強力な魔法が扱えるのだがその分消耗も激しいらしい。
だが、修復が出来ないということはないらしく握っていると治っているように見えないこともないという感じである。
青年は両手で握って目を閉じると黒い刀身の手に持っている剣を思い浮かべて徐々に膨らんでいるような想像をしていた。何か意味があると言えば一切ない。
それでも関係あると思えば治ることも決してないということでもない。青年はその一握りの希望にすがりいつもそうしている。
惨めとかそのような言葉はかけてはならない。