金剛の姿をしたその余裕そうに皆の前に現れたのは豊聡耳 神子。
類稀なる才能を持ち合わせた彼女は聖人として皆からは崇められていた。
耳のような形をした髪型で色は薄めの金色をしている。マントを羽織っていて裏地は赤色だがその裏は紫色だと思われる。
マントの中は脇を出した服装で薄いピンクのようにも見える。そしてマントの色と同じスカートを着用していて右手には木製の棒を持っている。どこかで見たことのあるデザインだが閻魔というわけではないのでまた疑いは晴れない。
その他には金色の草履のようなものを履いているが本物なのかそうではないのかはこの場所からは見えにくいので何とも言いづらい感じである。
「貴方が太子様なのか。」
後ろに結んだ黒髪を揺らして驚いたようなそぶりを見せる青年だが平然を装っていた。
「如何にも。この私が豊聡耳 神子。貴方の悩みを言ってみなさい。」
その人は軽く微笑んで話しているが邪気を孕んだものではなく屈託のないものであった。青年は少し考えてから話を進める。
「これを何とかしてほしい。」
ピッ、と指で刺した先には白い玉が浮かんでいる。正しく悩みの具現化ともされる神霊というものであるがまた別の意味を持っていると瞬時に感じた神子はその場で腰に携えていた太陽のような装飾のある柄頭を持つ剣を握っていた。
青年も同じように右腰にあるものを握るとお互いに身を低くして構えていた。お互いに牽制をしていてお互いに抜くことができない状況だった。
「太子様に刃を向けるとはどういう事じゃ。」
「太子様、おやめください。」
二人の相反する言葉など向かい合っている二人の耳には入るようなことはなかった。
「貴方の過去はとても悲惨なものだったようですね。そしてこの私に恐れをなしています。」
「人のことを言える立場なら手を離せ。」
青年はお互いに対峙するこの状況を冷静に観察していた。それ以外には何かあるようには見えないが確実に何かは潜んでいた。
「でしたらその恐怖から解放されなさい。」
「なら辞めよう。」
「それで良いのですよ。」
神子ももう警戒しているわけにはいかないので胸をなで下ろすと一つ深呼吸をしてから話を始めた。
「貴方の悩みの種であるその霊というのは本来は目に見えないもの。ある一定の徳を積んだ人か関連のある人しか見ることができないものです。」
「そうか。そうすると俺は前者の人間になるのか。」
「いいえ、貴方は何の得も積んでいません。勘が鋭いのでしょう。」
「それで話は終わりなのか。」
「腑に落ちませんでしたか?」
「いや。気にするな。」
青年は含みのある発言の仕方で迷わせようとするが其処は相手の方が上手であるように通じているようには見えなかった。
青年は仕方がないのでこの場に居るのも辞めようとした。
「そう言えば一度だけ妖怪に道案内を受けているようですが。何か疑問を感じることはなかったんですか?」
神子は急に口を開いたので青年は仕方がなくその場で止まると受け答えをしておくことにした。
「助かった、そのぐらいだ。他は異文化の交流程度に考えている。」
「実に寛容的。君は一体何者なんだ。」
「俺は俺だ。何者でもない。」
青年は堂々と答えていた。合っているといえばその通りだが受け答えはしていない。
「そうですか。貴方は何かと色々な人に迷惑をかけていますが我が儘なんですか。」
「自分のやりたい事をしている。もしかしたらそのような事もあるかもしれない。」
青年の口調は変わることはなかった。
ある意味ではもう分かっているかのようなそれとも気にしていないのか。それはどうしても見るだけで手かがりというものは見つからなかった。
「もしかすると君は普通の人間とは全く違う世界に生きているようだ。きっと子供の頃に何かあるのだろう。」
「記憶はない。貴方の見ているものはまやかしのものなのだろう。」
青年は淡々と短絡的に話していた。目の前にいる人に興味があるようにもないようにも見えるのでその点では謎に包まれた人物でもある。神子はそんな彼の様子を不思議そうに見つめるだけで行動を起こすようなことはなかった。
「そのはずはありませんよ。断片的にしか見えないのですが確かに君の心の中にはそのような情景が思い浮かんでいます。」
「そうか。」
軽く相槌を打つだけの青年。それはある意味神子の言葉を認めるという事であるようだ。目を閉じて仕方がなさそうに首を動かすだけの青年に神子は何か言葉はかけることはない。
「確かに俺の人生というのは常人には味わうことのできないものだろう。」
「人の持ち合わせる十欲のうち大部分の欠落が見られるのはその為ですね。」
神子は木製の棒で口元を隠すと何か味わうようにしているので青年はそれが終わるまでは何も手を出すようなことはなかった。
「そして君はこの私と一つ勝負を仕掛けてほしいと考えているようだね。」
「それが貴方が見えた未来だというなら抗うことはない。」
「君は従順であるが自分の欲に忠実なだけのようだね。」
そうだろ、と言葉を付け加えた神子。
青年はその言葉に否定するようなことはなく何か話したり首を振ったりするようなことはなく沈黙を保っていた。
「それは肯定ということで受け取ることにしよう。では、始めようか。」
「そうしてくれ。」
そういう青年だが一切動くことはない。
それ程に神子のことを見くびっているのかそのように見せているだけで何か企てていることはあるようにも感じる。
「我が剣、七星剣によって君と対決を挑むことにしよう。」
抜くことのなかったその剣をついに抜いた神子は一度店に剣先を向けると青年へと向けていた。
その持ち方にレイピアのようで細身のある剣で突きのような攻撃を仕掛けるのだろうと青年は瞬時に感じた。
青年も同じように抜いて地面に一度切っ先を向けると神子の方に向けてから両手で柄を持っていた。
そして二人はその場で固まってしまったかのように向き合って先を突きつけて牽制し合っていた。