永遠にも続きそうな紅のカーペットで統一された館の部屋の掃除を美鈴に頼まれた。周りには何人かの宙を浮いているが青年は気にしているようには見えなかった。
見たことがないと言うわけでもなかった。チルノと名乗っていたあの青服の少女も妖精だったなと青年は思い出していた。
「掃除道具というのは無いのか。」
青年はまず何をしていいのか分かっていなかった。掃くこと以外の掃除というのを知らない青年はカーペットの上で立ち尽くしていた。
「すいません、私もよく分かっていないんです。復帰次第説明を受けておきすね。」
美鈴はそんな風に言っていた。意識を朦朧としていた状態で聞いていたために微妙に話を聞いていなかった。
「明確に仕事を与えられないと動くに動けん。」
青年はどうしようもなくなっていた。
「ベットメイキングだけお願いします。綺麗に整えているだけで大丈夫です。」
美鈴としては多少なり迷っているらしく、青年にここまで任せていいのだろう、なんて感じ始めた。昨日の敵は今日の友を体現している。
「ベットメイクか。やるだけやる。一回だけ見てくれ。」
青年は仕事を始める前に一応見て欲しいと言う。やる気はあるようなので美鈴は迷っていた。
「分かりました。では、早速ですがお願いします。」
青年は適当な部屋に入ると、その後に美鈴が入った。何かあるわけでも無いとは思うが青年はすんなりとベットを整えた。シーツを敷き、シワを伸ばしてから掛け布団を乗せる。そこから半分に折っていたので匠の計らいだろうと美鈴は思った。咲夜ほどの速さと丁寧さは無いが、応急処置としては十分だった。それどころか意外にも素質がある。
「どうだ?」
青年はベットメイキングが楽しかったのかそれなりに気を楽にしていた。美鈴として妖精に任せるよりも早く終わりそうなのでそれで良いかと割り切っていた。
「上出来です。この調子で残りも頑張ってください。」
美鈴はそう言うとこの部屋の扉をあけて何処かへ聞いてしまった。主人とメイドが不在の紅魔館で二人は奔走した。
厨房には夕飯というものが目の前には並んでいた。Tボーンと呼ばれる部位のステーキに甘酸っぱそうな赤いソースが添えられている。青年はそのソースに苺のようなものを思い浮かべて勝手に甘酸っぱそうとしていた。あながち間違ってはいない。そしてロールパンという豪勢な食事だった。青年は少なからず不満を持つことは無かった。
「すいません、こんなものしか用意出来なくて。」
美鈴は申し訳なさそうにしながらも、厨房の中に青年を入れた。美鈴はこんなものと言うが、本来はもっと豪勢な食事をしているらしい。恐るべしあのメイド。
「生野菜の味噌水よりはマシだ。」
ここに来てから殆ど多くの種類を食べていなかった青年はとんでもない物を口走った。
「何ですか、その下手物。」
美鈴は想像以上の物に驚きを超えて愕然としていた。比較対象として低すぎる。美鈴は別に追い出しても良かったのかもしれないがそれは出来ない。
「それは思っているが巫女には逆らえなかった。」
青年は何故か悲しそうにしていた。それ故に美鈴は素早く話を切り上げた。
「冷めないうちに食べましょう。」
美鈴は簡易的な席に座ると、青年は隣に座った。調理場の近くに椅子を置いただけと言う食事は青年には幸せを感じるものだった。
「それでは頂こう。」
慣れない手つきで肉をナイフで一口大に切ってフォークで刺して口に運んだ。噛みごたえのある肉で、芳香な香りが口の中で広がる。ソースが少しだけ甘くて肉の旨味が引き立っていた。青年は歯に伝わる感触を感じながらその余韻に浸っていた。その様子を美鈴は嬉しそうに見ていた。
「どうですか?口に合うと良いですけど。」
美鈴としては青年の旨そうに食べる姿がよく見えていた。聞くまでもなかったがそれでも一応聞いてみる。これからの参考になるからだ。
「最高だ。」
青年は端的に答えた。ただその言葉の中にどれだけ嬉しそうにしているのかが美鈴にはよく分かっていた。
「良かったです。食べ終わりましたら部屋を案内します。」
美鈴は嬉しそうな状態で楽しそうにしていた。やはり人が居て何か言ってくれたりするのがそれだけでも良かったのだろう。美鈴は気分が高揚していた。
宵の月が綺麗に輝いている。食器の片付けを終えて仕事に一段落がついた後、青年は庭に座っていた。
美鈴には空き部屋を利用して貰うように言われた。青年は残念ながら部屋というのを気に入らなかった。美鈴は心底傷ついたが、青年は元より部屋が好きではないと話し、事なきを得た。
「ここの月は綺麗なものだな。」
簡単にも似た言葉を漏らすその顔が無表情である事を美鈴は知らなかった。青年は香霖堂で貰ったSTARというパーケッジの煙草が流れていたので引き取る事にした。火は付けずに咥え続けていた。
「そうですね。しかし今日は助かりました。」
美鈴は夜というのが少し気分を落ち着かせているものだと感じていた。この冬に近い空の下で二人並んでいた。
「俺はしたい事をしただけだ。気にするな。」
青年は短絡的に答えた。だが、別に嫌々というわけでもないらしいので美鈴は特に気にしなかった。
「明日も仕事はありますので、早めにお休みください。」
「聞きたいことがある。図書室なるものはあるのか?」
青年は魔法に興味を持っていた。今までアリスに教わっていたが今はそのような事は出来ない。それならば、ここで学ぼうという事らしい。
「確かにありますけど案内しましょうか?」
美鈴はその場で立ち上がりながらこの場を去ろうとしていた。青年は其処を止める形で聞いている。
「是非頼みたい。」
青年の回答は即座に行われた。まるで電子カードかのような早さであり美鈴はその事に身をたじろがせた。
「では、案内します。こちらです。」
美鈴は館に入る為の扉を開ける。そして右側へと広間を進んだ。青年はついていくしかないので鴨の子のようにしていた。掃除をしていた場所のさらに奥。其処には下へと続く階段があった。
「本来ここから地下へと向かいます。偶にメイドが空間を広げるのでその場合は気をつけて下さい。」
美鈴は丁寧に説明すると階段を降りていく。青年も同じようにして下っていく。