青年は神子を連れて来てはいけないような場所へと来ていた。その場所というのは閑静なところで木造の建物が二つ、大きさの異なるものが建てられている。その風格は何処か威厳のある様な感じと優しさで包み込むの様なそんな二つの面を持ち合わせた雰囲気のある建物だった。
青年はそんな事には目をくれずいつも通りの感じでズカズカと縁側を歩いていた。
その建物の名は命蓮寺。青年が最近根を下ろした場所で墓掃除をする代わりに事実上住み着いている場所だった。静かで誰もいない様なところであるが小さな呪文が唱えられているのを聞いて神子はどうやら此処がどのような場所であるのかは察したらしい。木製の棒を持って青年の後ろに音も立てずに歩いていく、だがその内心はおそらく嫌気がさしていたのだろう。
「聖、ちょっと話をしてほしい。」
青年はある意味では怖いもの知らずだった。神道を信じる人にとって異教徒である仏教のところへと連れてきた。それは逆の立場でもそうなるのでどう言うとも言い逃れはできないと思われる。
「何ですか。今は邪魔して良い時間ではありませんよ。」
優しく怒り始める聖だが青年の耳には入っているはずもなかった。それこそ何が起こったのか何もわからない様な感じで聖を置いていく、その場でどうすることも出来なくなったので仕方がなく体の向きだけは変えていた。そして青年は誰かの腕を掴んで中へと入れさせる。
その人は暗めの金色で耳の様な形をしたのが特徴的な髪型をしていた。そして耳元にはヘッドフォンをしているが別に問題はない様である。薄いピンク色の様な服装で袖はなく脇を出しているノースリーブという服装をしている。そしてその上には紫色のマントで裏地は赤色というものを羽織っていた。マントの色の同じスカートの色をしている。
その人は青年に強引に引っ張られる形でい草の香る畳の上へと座らされた。そんな様子を見て何事かと思ってしまった聖はどうしようか迷っていた。それから青年は二人が入ってきた襖を閉じて二人の間に胡座を組んでいた。そして頬杖をついて怠そうにしていた。いや、気力がないというのか。
「聖が封印していた人物というのは目の前にいる人だ。経緯は話した方がわかりやすいか。」
「いえ、結構です。大変でしたね。」
聖は相手の事をねぎらっているような言葉をかける。心配になったというのかどの様な言葉が似合うのかは想像に任せる事にする。
「そうですかね。」
神子は困った様な表情をしてその場で座り続ける事にしたらしいがそうでもしないとやっていられないらしい。
「して、紹介をしていなかった。この人は豊聡耳 神子。能力によってどうやら人の過去と未来が見えるらしい。どうにも抗う手段はなかった。」
青年はこれまでに起こったことを忠実に説明していた。だが、それが聖にちゃんと伝わるのかはまた別の問題であるのはいうまでもない。そんな青年の説明を聞いた二人はそれぞれが困った表情はしていた。
「私が聖 白蓮です。よろしくお願いします。」
聖はその場で畳に額を擦り付けるほどに一礼する。それを見て素早く一礼する神子。青年はそんな二人を頬杖をついていた頬を歪ませながらじっくりと見ていた。それだけ関係ないと思っているらしいが実際はそうではない。
「して、これからどうするつもりだ。」
「それは私が聞きたい。」
「私も同意見です。」
少し出す事に手間取った神子のその言葉に賛同する聖は本当にどうしたらいいのか困り果てた表情をしていた。青年はそんな二人の表情を見てしっかりと確認してからその場で立ち上がる。それから座布団を持ってき始めた。自由気ままというのか自己中心的というのか良いも悪いも人を巻き込む行動を取り続ける。青年はある意味では己が道を行く。そこは絶対に変えないつもりらしい。
「せっかく神子が目を覚ました訳だし仲良く暮らしてはくれないか。」
座布団を勝手に持ち運んで神子の前に置くとある程度目星をつけたところに座布団を置いてから青年は何処かに行ってしまった。そして再び静寂が生まれる。話をしたのは聖の方だった。
「本当に申し訳ないです。」
ぺこりと謝る聖に慌て始めた神子は口からは言葉にならない様な言葉で頭を上げるように伝えた。それから落ち着いたのか聖が話し始める。
「本当にあの人は怖い人間ですよ。私達をこう振り回すのですから。」
「確かに。私も仙人という身分ではあるが何も気にしているような素振りはなかった。人は人。妖怪は妖怪と切り分けられているように感じる。」
神子は頭を抱えながらゆっくりと言葉をひねり出していた。きっと青年の起こした突発的な行動にまだ体の奥底からは対応出来ていないよなうに思える。そうでもしないと普段から落ち着いている神子がこうなることはまずあり得ない。
「そのようです。私もそう感じるんです。ですがそれが良いのかもしれません。」
「それは如何してですか。」
「区別せずに誰にも平等に接しているので不平に思うことはないのではないでしょうか。確かに多くの奇行には目を疑う事もありますがそれでもそれが良いんです。」
「そうなのか。貴方が言いたいこともわからないわけではありませんね。」
「ですね。これから何をするのか私も楽しみにしているんです。」
聖が感慨深そうに物思いにふけっているところにどこからか重いものを運んできている足音が聞こえてきた。そして襖が足で開けられるとどこから持ってきたのか分からないような机を持ち運んで来ていた青年は聖と神子の間に合うように置くとまたどこかへと行ってしまった。
「何でしょうね。」
聖は苦笑いするしかなかった。そうでもしないとやっていけないという意味合いが含まれているように感じたのは神子だけではないはずだ。
「本当にそうですね。」
「本当です。あの人は偶によく分からない行動をするんですよね。いつも携えている剣も何かこだわりがあるのか肌身離さずに持ち歩いているんです。寝る時もどうやら抱いて寝ているそうですよ。」
聖は思い出すように話していた。これからもそうするつもりらしいので神子は聞き逃さないようにしていた。そうでもしないと何か変な感じになるかもしれない。