青年放浪記   作:mZu

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反逆異変
第237話


春の麗らかな日々は続く。

 

特にこれと言って起こっていない幻想郷ではそれぞれの宴会を行なっていた。規模の大きさに大小あれど誰もが楽しそうにしているのには間違えるような事はないだろう。

 

ポカポカとした暖かい日差しのある朝の陽気で眠気もバッチリに取れていない黒服を着て白いシャツを着た召使いの格好をしている黒髪で後ろに髪を結んだ青年は先日香霖堂で貰ってきた煙草を一本咥えて寝ないようにしていた。

 

どうやら青年は煙草を咥えている内は相当な疲労が無い限りは眠る気はないようで本気の時やそれに該当するような時はどうやらそうしているらしい。

 

桜の葉が所々で固まって浮かんでいる波の立っていない霧の湖で青年は釣り糸を垂らしていつもの日課というものをしていた。

 

妖精が紅魔館での執務を終えてこの辺りが煩くなるまでの時間だが青年は釣りをしている。別に紅魔館の食料が足りないからそのようにしているわけではないが今回はどうやら違うらしい。青年は自分の食料を釣り上げるために今回は紅魔館の近くではない所まで船を出していた。

 

決して妖精に邪魔されない程度であるらしいがそれがどこまで効果があるのかは分からない。別に紅魔館の妖精メイドだけではなくていたって普通の妖精が現れることもある。

 

氷の妖精や緑髪をした人であるが青年は決して知らないという事はなかった。

 

そんな訳で青年は今日は手に汗握るサバイバルを行う。その目はしっかりとした目をしていて意気込みを感じられるがそれが手に伝わって糸まで伝わっていない事を願うばかりだ。

 

「今日の昼食は煮付けかそれとも塩焼きか。敢えて切り身をするのも悪くはない。」

青年は呟いていた。どうやら献立について考えているがそれは紅魔館のメイド長に任せることになるので青年がいくら考えているところで念能力でもなければ伝わる事はないがそれも楽しみの一つではある。唇の上で踊らせる白い棒に火をつけようと剣の柄に左手に触れようとしたところだった。急に釣竿がしなり始めて湖の中に入り込むそうになった。青年はとっさの反応で両手で掴むと引き込まれないように引っ張っていた。

 

青年は唇に咥えた煙草に火を付けるようなことができずに仕方がなく引き上げようとするがそう上手くはいかなかった。本来は鏡のような場所であるが今は違う。

 

バシャバシャと波音を立てた水面とそれに揺らされるボロくなった舟が立てる音がこの世界を支配していた。

 

青年は大物の予感をして精一杯に引くことにした。

 

それにしても何が釣れるのだろうと青年は思い始めていた。それはこれほどの波音を立てる魚がこんな霧の湖にいたのかどうかということだ。毎日のように釣りをしている青年が今まで感じたことのないほどの強さである。不思議で仕方がないと言いたそうな気もするが言う相手は今はいない。仕方がないので青年は心の中で叫ぶ事にして目の前の事に集中する事にした。

 

「貴方はこの湖の主か。」

青年はなんとかして釣り上げた者は何とも魚とは言いづらい見た目をしていた。だが下半身は青色の鱗をしている魚のような見た目をしているがどうやら和装をしている。その姿が何とも今はわかりづらい。その人は青年が事前に用意していた桶に頭が入ってしまったらしくその舟の上で暴れていた。青年は下半身の尾びれを掴むと強引に桶を蹴って何とかさせてあげた。

 

深い青色の髪をしていて縦方向に巻いている方には当たらない程度の長さにしている。もしかすると真っ直ぐにすると相当長いかもしれない。そして耳の位置には魚のヒレのような形をした突起物がありもしかすると耳の役割を持っていると思われる。服装的には深緑色で何枚にも折り重ねたようなもので尾びれのようなフリルが下の方には付いていた。

 

青年はその人が落ち着くまで静観している事にした。あまり話しかけても良くないと思ってしまったらしい。これでは剣も抜けないので仕方がないので唇に咥えていたものは箱の中にしまっておく事にした。

 

「食べるんですか?」

 

「分からない。」

青年はその人の質問に即答で答えた。まるで分かっていたかのような感じで淡々とした話し方だった。もしかすると眠気があるのか怠そうではある。その人は息の飲むようにしているがそこまでするような必要は無いと言っても仕方がないと青年は感じて黙っている事にした。

 

「して、人魚姫か何かなのか。」

 

「ええ。わかさぎ姫と申します。」

 

「これは丁寧な紹介をどうも。俺を名乗る名があれば述べたいものだ。」

 

「ところで貴方は私を釣って何かしたいと思ったりはしませんか。」

わかさぎ姫は何か不安げに聞いていた。一層の事ここから逃がしてほしそうにしているがそれが叶う事はないと思われる。それは青年によって支配されているようなものだからだ。ここから自分で逃げ出すような勇気はない。

 

「しない。ただどのように説明しようか困っている。」

青年は釣竿を舟の中に入れようと慣れた手つきで糸を竿に巻きつけると蹴り飛ばした桶を手を伸ばして取ると自分の目の前に置いていた。竿は肩にかけるようにしている。

 

「誰にするんですか?」

 

「メイド長だ。」

青年は思いに耽っているようにボソボソとした話し方でわかさぎ姫には説明していた。面倒臭そうな雰囲気を前面に出している。わかさぎ姫は余計に逃げようとは思えなかったらしく身を縮こませていた。

 

「やっぱり食べるんですか。」

魚でもそれなりの恐怖というものは感じるらしく目に涙を浮かばせながら話していた。青年はそれに気づくと胸のポケットに入れている白いハンカチでサッ、と拭き取っていた。そして素早くしまいこんでいた。

 

「さて。あまり食べようと思わない。人魚姫なのだろう。」

 

「はい。私に関する伝説は知らないんですか。」

わかさぎ姫は切羽詰まった表情で青年に迫っていた。それは青年の眠気を覚ますきっかけにはちょうどいいものだった。だが、青年は人魚に関する伝説など知る由もなかった。

 

「知らない。」

 

「人魚の肉を食べると不老不死になるという噂は聞いた事はないですか。」

 

「興味ない。不老不死になったところで詰まらない人生を送るのは目に見えている。限りがあるから人間というのは輝ける。」

青年はまたも即答でわかさぎ姫の質問に答えていた。特に困るようなことはないのだろうがあまりにも鮮やかに答えるのでわかさぎ姫が唖然としていた。今までそのような事はなかったのだ。大抵の人間が人魚の血肉にしか興味はなかった。それなのに青年は一切の興味は示さなかった。

 

「少し変わっているようですね。」

 

「よく言われる。となると本来は水底で何かしているということなのか。」

青年は聞いていた。他愛もない質問であるが其処には興味を示したらしい。

 

「石などを集めたり偶に小さな声で歌を歌っていたりします。」

 

「そうか。何か詰まらないとは言わないがそのような暮らしでいいのか。」

 

「あまりやる事もありませんので。」

 

「それは悲しいものだな。」

青年はその言葉通りの目をしていた。それはわかさぎ姫にも伝わっていたようで同じような目をしている。

 

「そうですかね。考えた事もありませんでした。そういう貴方は何かしていますか。」

わかさぎ姫は何となく青年に聞いていた。本当に何も考えていないようでそれだけはよく伝わると言うものである。

 

「特に。今は昼食の為の魚を釣ろうとしていた。が、もう帰るのも良いかもしれない。」

 

「何かありましたか?」

 

「何も無いが。強いて言うなら声が綺麗だからもう少し話を聞いてみようと思えただけだ。」

青年はある意味では告白のような事を言うがお互いがそれに気づくようなことはないだろう。そのような事に興味のない青年と慌てていてそんな余裕がないわかさぎ姫では気付けるはずがなかった。

 

「何も話すような事はありませんよ。」

 

「それで良い。俺が何か聞いてみる事にする。」

青年は釣竿を両手に持って霧の湖の静まった面にぽちゃん、と糸の先についた針を入れていた。これから釣るつもりなのだろうがその間の暇つぶしという訳で話を聞きたいと言う事である。微妙な距離のある二人だが今はそれで良いと思われる。

 

「して、誰か他に仲間はいないのか。」

青年は聞いていた。どこを向いているかもわからない感じでいつ逃げても良かったと思うがわかさぎ姫は逃げようとはしなかった。

 

「居ないと思いますよ。」

わかさぎ姫はパッ、と答えていた。青年はそれに首で肯定するだけで何か困ったことはないと思う。

 

「一人なのか。話し相手もいないので石を集めて楽しんでいる、と言うことか。」

青年は何の考えもないので思ったことばかり口から言葉を出していた。

 

「そうですね。何か貴方に関係あることなのですか。」

 

「何もない。だが、何となく歌声を聴いてみたいと言うことはある。」

 

「それでは今でも聴かせてあげますよ。」

わかさぎ姫は慣れてきたのか跳ね上がった声で嬉しそうにしていた。青年は広角を軽く上げて鼻を鳴らす。

 

「今は遠慮しておく。もしかすると貴方を食べる事になるかもしれない。それで良いわけがないだろう。」

青年は自問して自動しているようなことを言っている。何を言いたいのか分からないがわかさぎ姫はそれで終わらせる事にした。

 

「それでは私はもう少し此処に居ますね。昼食を釣り上げてから何曲か聴かせてあげますよ。」

わかさぎ姫は安堵したような表情で優しい声をしていた。青年がもっと聴いていたいと言っている理由はそれでもよくわかる。玉を転がしたような清らかな声で楽器のような透き通る声に惚れたと思われる。それを口に出すようなことはしないだろう。

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