初夏の陽気の中、幻想郷の中でも最も南側の魔法の森と香霖堂や命蓮寺を抜けたところにある竹林にある青年が立っていた。
どうやら土の状態も大きく変わるらしく固い感触から急に柔らかい感触へと変わるらしいが青年は慣れた足取りであった。
その人の見た目は青色の着物を着ているが洋装にも見えるというよく分からない服装をしていた。上半身は何枚も着込んでいるように襟が見えているが下半身はスラッとしたズボンのような服装で過ごしやすそうである。
青年は一旦懐から何らかの箱を取り出すとそれを開けて一本だけ白い棒を取り出すと唇に咥えてから箱を元の位置にしまってから剣を抜く。そしてすばやく慣れた手つきで刀身に唇に咥えていた白い棒の先を擦り付けると瞬時に火が付いてそこからは紫煙が立ち昇る。そして満足したのか咥えていた位置に戻すと今にも落ちそうなところだったがどうやらそうなるような様子はないらしくゆるりとした一人の時間を過ごしていた。
この竹林は迷いの竹林と呼ばれていて地理の分からない人にはどうなっているのかは全く分からない。竹の成長は早くて印を付けても参考になるようなことはなかった。そして偶にせり上がっているところに生えている竹は斜め方向に真っ直ぐと伸びているので平衡感覚さえ分からなくなるようだっだ。故に迷いの竹林と呼ばれているが青年はいつも通り気にすることなく歩いていく。
まるで住人のように歩いているが実際は時間をかければ着くので気にした事がないというのが実際のところである。紫煙を口元から零しながら一切の息もしないような感じで奥へと突き進んでいる。ゆっくりとした歩調だが何かを求めているような死者のようにも見える。
「真っ直ぐ行けば永遠亭、右に行けば妹紅の家か。」
青年は独り言を誰にも聞かれないような声の大きさで呟くとふと左の方向を向いていた。何かあると言う訳でもないが何か変わった事があると心の琴線に触れたらしい青年はその中へと潜り込んでいた。実際は何も変わらない故に見た事も言った事もない場所へと足を踏み入れているが誰求める人もいなければ地理について熟知しているわけでもないので危ない橋を渡る事になるのは言うまでもない。
「では、此処には何が居るのか。」
青年は珍しく楽しそうな口調で話していた。子供のような声で高い声で小さく笑っていた。そして爪先をそちらへと向けると走り出すように向かっていく。何かを見つけたのかどうかは知らないが興味をそそられるものでもあったのか。それにしては何もない。
青年は疲れたのか走るかのような早歩きを辞めて一旦竹にもたれかかって休憩することにした。青年は上を向く。その上には上まで支配した竹の葉が生えていて夕暮れの赤い光を遮断している。これからは人間の時間から妖怪への時間へと移り変わる。それだけを確認してから青年は立ち上がると何となく来た道を戻る事なくその先へと向かっていた。何も無いと思えるが青年には何か見えているのだろう。その場で立ち止まると燃え尽きた灰を落とすことなく周りへと気を配っていた。
何か居るようだがこの暗さでは姿を見るような事は出来ない。永琳の見つかるまでかけていた箱庭結界によってどうやら竹林は見つかる事なくそのままであるらしいが青年たちが来てからそれが出来なくなって一部の妖怪が住み着く事態となっている。永遠亭の住人や妹紅は別に気にするに値しないが人間なんかは皿の上に出された格好の餌でしかない。
だが、一味も二味も違う青年には逆になるようで楽しそうに口角を上げていた。それから右手は柄を触っていてすぐに抜けるようになっていると思われる。いつ何が来ても良いようにしているらしいがそれが通用するかはまた別の話になる。
青年は素早く剣を抜いた。そして相手の喉元を貫く勢いで相手の飛び出してきた勢いで殺さないまでもその寸前まで追い詰めていた。そして青年は手に持っている剣をゆっくりと引くと鯉口目掛けて剣の切っ先を差し込んだ。そしてその場からは離れていく。周りはもう暗く青年も誰が居たのかは興味がないのでその場で置いていかれることになった遺棄されそうなそれは誰の目にもかかる事はなく苦しむのだろう。
「もう少し恐れないようにするためにはどうするべきか。」
青年はなぜか呟いていた。竹林の中で徐々に日の落ちていく現状を楽しんでいるかのようだが良い加減対策しないといけないと思われる。青年は懐から小刀を取り出すとある事を念じていた。それは昼間に上っているもので誰しもに何らかの恩恵を与えてくれるものだ。その温かいものを心で念じると小刀はそれに答えるように光り出した。
純粋な思いに引き寄せられた日の元素は小刀の周りに集まって辺りを照らせるようになっていた。それに安心したのか青年は適当に歩き出していた。方向は何も変わらないが地面に擦り付けるように足を動かしているが何かを知らせるような感じであった。
青年は歩く。それは太陽など完全に沈んで月が空に浮かんで優しく安寧へと導く光を発していた。それからは何が起こったのかは分からないが本当に何かは起こったのだと思われる。かさっ、と何かが動くような音がしたので青年は素早く反応してその方向に小刀を向けていた。其処には何か居るのだが背面を向いていて何か居ると言うことしかわからなかった。
その人は黒髪のとても長い髪をしていて赤いスカートを羽織っている。もしかすると上下一色だと思われるがその上に被るように白いものがあり袖や襟の部分は黒っぽいものがあった。今の所はそれぐらいしか言えない。そして頭には何かある哨戒天狗のような耳があるが同種というわけではないと思われる。
「大人しい妖怪もいるものだな。」
青年はその人に小刀を使って発している光を向けながら話していた。その人は竹のもたれかかったまま微動だにしないが何か抵抗しようとしたり襲いかかってくるような事はないと思われるのでそのままにしておこうと青年は思ったと思われる。相手が話すまでは何もか行動を起こさなかった。
「今日は満月ではないから。大人しくしているだけだよ。」
「そうか。それにしても俺を襲うことはしないのだな。」
「別に襲いたい訳でもないからね。して欲しい物好きならしてあげるけど。」
終始気の淀んでいるような元気のない声で話しているその人は膝を抱えて顔を埋めている。皮膚と言うものは一切見えないがきっと何かの妖怪なのを隠しているようにも見える。青年は気になるが聞いても良いことなのかを考えていた。
「して何かの妖怪なのか。それとも実は人間ということか。」
青年疑問の浮かんだ自信のない声で話していた。別に誰かいるという訳でもないのでヒソヒソ話すような声でも相手には聞こえると思う。それだけで青年は満足しているらしくそれで良いらしい。勝手だが。
「狼女。人間ではないわよ。」
その人は至って普通に答えていた。それこそ何か問題でもあるのかと言わんばかりだが青年は別に根掘り葉掘り聞くようなつもりもない。
「そうか。やはり満月の日は人をお構いなく襲うのか。」
青年は聞いていた。
「居ればね。」
それだけを言うので青年は変に困ってしまった。
「厄介なものだな。」
青年はそれだけを言ってその場に座り込んだ。
「どうしちゃったのよ。」
「いや、気にする事はない。元気が無いのがどうにも放って置けなくてな。勝手な気持ちだから飽きたらそのうち無言で立去るだろう。」
青年は左腕で頬杖をつきながら吸えなくなった煙草をそれを入れるための箱の中に入れていた。お互いに背面を向いているので何をしているのかはわからないが音だけで何をしているのかはわかると思う。
「私、今泉 影狼。宜しくね。」
「竹林だ。俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。」
「最初に聞くけど私に対して気持ち悪いとか思わないの。」
影狼は変にビクビクしながら青年に聞いているが青年は変に反応に遅れた。それが影狼にプレッシャーを与えたのかソワソワしているがお互いに背面を向いているので知る事はないのだろう。
「いや。幻想郷は色んな人がいるから成り立っている。何か役目があるからそうやって生きているのだろう。投げ出すのも使い果たすのも勝手だが何が起こるのかは楽しみだ。」
「変人ね。こんな人間あった事はないわ。」
「だろうな。俺は変わっている。色んな人に迷惑をかけているがそれが役目なら全うするだけだ。」
影狼の侮辱の発言に平然と答える青年は誰が見てもそうなるのだろう。発言した影狼がどう接するの良いのか迷っているようだっな。
「そ、そうね。」
「して貴方の役目は何だと思う。ここで埋まっている事か。」
「違うと思うけど。」
影狼は自信なく答えている。急にそんな事を言われてパッと答えるような変人は中々いないだろう。
「なら、何だ。」
「今は分からない。私なんて満月の日に狼のようになるだけ。他に何も無いわよ。」
「そうか。そう考えているならそれでも良いだろう。」
青年は不意に立ち上がると背伸びをしていた。どうやら体が痛くなったらしくその様にしている。急に立ち上がったことに驚いた影狼はパッと青年の方を振り向いていた。
「声はわかさぎ姫の様では無いが身なりは負けない程だな。」
青年はそれだけを言ってから歩き出していた。影狼はその歩いていく青年の背中から漏れ出している謎の光をじっと向いていた。そして放心した様なだったがどうやらもう変わったらしく急に叫んでいた。
「今日はありがとう!」
影狼は不意に叫ぶ。青年の耳に届くのかは分からないがそれでも良い。
青年は小刀を振ってそれに答えていた。