無数に折り重なった棚が天井まで伸びていて上から襲いかかってきたも不思議ではないほどだった。
「どれほどの本が置かれているんだ。」
青年はこの光景に唖然としながら、興味があるので聞いてみた。
「それはこれから紹介する方に聞いてみて下さい。」
美鈴はここでは明確な答えはしなかった。流石に門番が書斎に所蔵されている書籍の数を覚えているわけではないか。青年は少し困らせる事をしたと思った。
「そうする事にする。」
美鈴はもう一回階段を降り始めた。下には大きい机と其処に隣接しているようなソファーが置かれている。机の方には大きな本を広げて読書している人が居た。青年はアリスと同じような魔法使いだと感じた。
「こちらがこの紅魔館の書斎にいるパチュリー・ノーレッジさんです。」
美鈴は机に座っていた少女を紹介した。その少女は紫色の三日月のアクセサリーを付けたナイトキャップを被っていて眼鏡をかけていた。服装としてはゆったりとしておりお淑やかな女性だった。そして紫色の髪を赤と青のリボンで結んでいる。
「初めまして。今日から此処で手伝いをしている者です。」
青年はそう挨拶する。それが通じるのは流石に変だと気づいた方がいいと美鈴は思った。もしかしたら微妙に顔に出ているがしれない。
「名前はないのかしら。」
パチュリーはあまり関心がないらしい。
「幻霊です。」
少し緊張しているような口調で青年はこの幻想郷に名乗ったものを使用した。それより前は何も覚えていない。いや、抹消したか。
「そう、小悪魔。この人に紅茶を出してあげなさい。」
暫くしてから何処からともなく現れた黒服の使い魔のような人が現れた。その手にはお盆の上に茶菓子と紅茶があった。
「ダージリンになります。」
小悪魔と呼ばれていた人は青年の前に置いて一礼してから何処かへ行ってしまった。青年は踵を返して何処かへと行く前に話しかけた。
「司書なのか?」
青年はなんとなく聞いてみた。美鈴は小悪魔が紅茶を持ってくる前に階段を上っていった。空気を読んだのか、仲が悪いなど色々と考えたが青年が今の状況で考えても無駄だと思った。
「この図書館の全てを知っているわ。そして私が読みたい本もね。」
パチュリーは会話の最中、ここまで一度も本から目を離さなかった。それがどうだろうか。急に丁寧に本を閉じるとこちらを向いた。
「そうなのか。素晴らしい司書だな。」
青年は普通に感嘆していた。良い人なんだな、そんな程度のものだ。ぽっと出たような言葉にパチュリーは微動だにしなかった。
「冷めないうちに飲みなさい。」
パチュリーは青年の前に置かれている紅茶を飲んでみるように勧められた。
「すまない、猫舌なんだ。少し冷めてから風味を楽しめるうちに頂く事にする。」
青年は特に何も動じなかった。パチュリーは眉を細めて警戒していた。何せ、見知らぬ人間である。そうならざるを得ない。
「それは好きにしなさい。それにしても少しだけ魔力を感じるのだけど外から来た人よね。如何してか知っているかしら。」
パチュリーは青年に悩みながら聞いていた。聞いてみても良いのだろうか、どのような人間だろうかそれを見定める為である。
「それは知らないが魔法道具を使えているから少しだけ普通の人間よりかはあるだろう。」
青年は魔力という言葉はここに来てから聞く機会が多かったので慣れていた。パチュリーはこの青年が何を考えているのかしばらく裁量することにした。
「魔法道具ね、その腰のものかしら?」
パチュリーは少し体を起き上がらせて青年の腰にあるものを指す。
「これは香霖に作ってもらった剣だ。魔法使いというなら少し見てほしい。」
青年は二本ともパチュリーに見てもらうことにした。折角の機会だし、と軽い気持ちだ。
「本当はあっさりと武器を見せるものではないわよ。」
パチュリーは重々しく刀を引き抜くと、少しの間だけ魔力を込めたのか炎が刀身の周りを覆っていた。そして青年に返した。
「自然魔法ね。だいぶ軽く作られるから扱うには十分ね。」
パチュリーは少し疲れたからか、今まで座っていた椅子に深々と座った。青年はその様子を見ながらワクワクしていた。
「そうなのか。魔法は疎くて何も知らないんだ。」
青年はソファーに腰掛けながら剣を肩に立てかけて座っていた。そして剣を挟んで腕を組む。腰に付けておくのは今は面倒らしい。
「魔法を少し習っているのね。中々面白いわね。」
パチュリーは初めて興味を持ったようで目がキラキラとしていた。あまりそのような仲間の様なものはいないらしい。
「それでしばらく手伝う事になるのだが、夕方から本を読んでみる事は良いだろうか?」
青年は駄目だろうと、思いながらパチュリーに頼み込んだ。
「良いわよ。少し無茶させるかもしれないけれど良いかしら?」
パチュリーは此処で初めて優しい顔をしたと思う。それまでは無表情でちゃんと起きているかさえ判断しづらかった。
「分からないところを教えてくれる事と紙とペンを用意しておいて欲しい。」
青年は相互に良い感じで終わらせようとこちらの提案をしてみる。もし駄目なら無くても良い。
「分かったわ。勉強熱心だけど何かあったのかしら?」
パチュリーはあっさりと了承した。それからどうしてこのようになったのかが気になるらしく青年に聞いていた。興味がある事には精力的なのは魔法使いでは共通かもしれない。
「魔法が面白いんだ。楽しくて仕方がない。」
青年は声を少しだけ大きくして話していた。
「それで今日からするのかしら?」
パチュリーはその場の勢いで話を進める。別に青年も断りはしないだろうと考えていた。
「それは済まない。明日からで良いだろうか。今日の仕事内容を練習しておきたい。」
青年はそう言うとお休み、と言ってからソファーから立ち上がった。そして明日から頼む、と。パチュリーに一礼するとその場を後にした。パチュリーは私が不眠、不食で活動できる事を忘れて自分のペースで魔法を教えてあげようとしていた。
「今日は横になるのも悪くないわね。」
でも今日は何となくそのような事をしても良さそうに思えた。青年が一口も付けなかった紅茶と茶菓子を小悪魔に下げさせてから自分はソファーで横になった。