初夏の陽気でこれから夏へと向かっていこうとしている天候をしていた。太陽が照りつけている夏の日のような日差しを見てまだ春だと言えないと思われる。
黒い服を着て白いシャツを着ている青年はいつも通りの日課として釣りを楽しむ事にした。別に何か目的があるわけでも前のように昼食が欲しいわけでもないがいつもしているので今日の約束も忘れるようなほど自然な流れで舟を出して釣り糸を霧の湖の上に垂らしていた。
「こら、私との約束は忘れたの。」
銀髪の短めに切りそろえられた髪型で耳元には小さな三つ編みが両耳に一つずつ垂れ下がっていた。そして頭には白いカチューシャのようなものをつけていて青色を基調としたメイド用の服で腰には白いエプロンのようなものをつけていた。そして本来なら黒色のハイヒールを履いているが今日は平べったい黒いシューズを履いていた。その人は紅魔館のメイド長である十六夜 咲夜。
「何かあったのか、ととぼけるのが正解か。」
青年は昨夜の少し怒ったような発言にも何か感じるような事はなく、平然とした態度で舟の上で釣りをしていた。青年はいつも通りにしているだけなので毎日の習慣として成り立っている為か気づかないうちに出していた。
「いいえ。忘れたなんて言わせませんからね。」
「人には失敗の一つや二つはある。それを許せるのが長としての務めだ。」
青年は悪びれもせずに答える。淡々としたその態度には咲夜も怒っても良いと思うか怒れなくなっていたと思われる。呆れたのかそれともまた別の話になるのかは人の思考なので理解出来ないが恐らくそうだと思われる。
「そういう話ではないでしょう。」
咲夜はそれだけを伝えていた。青年はちょっとした遊びとしての会話をしたのか少しだけ口角を上げているだけで咲夜の方を向いていた。気味が悪いが咲夜は何もするつもりはないらしい。
「確かにそうかもしれない。其処は遊びという事でそれで良いだろう。」
青年は適当に話すだけで何か重要に考えているようなところである。
「もうそれで良いわ。なら早く戻す事ね。」
咲夜は呆れたような声で青年に早く支度するように促す。青年としてはどのような格好で行こうとも関係ないのでこのままでも良いとい思っているがそれは咲夜が怒りそうなのでそれはやめておく事にした。
「船を戻せば良いのだろう。」
青年は仕方がなくそう答えているが何か考えがあるわけでもなさそうである。それで済むなら咲夜はどれだけ気楽に行けたのかはさておき、青年は舟を漕いで紅魔館のある陸まで動かすと美鈴に舟の停泊を任せてその館の中にある青年の部屋まで向かった。
「待たせた。」
紫色で白の縦縞が入った緩やかな余裕のある服装をしていた青年は紅魔館の門の前で待っていた咲夜に気楽に話しかけると何もなかつたかのようにその場から飛び出していた。
「いってらっしゃい。」
紅魔館の門番はそれだけを伝えて一礼するといつも通り緊張した面持ちで門の前に立っていた。偶に眠っていたりするがそれも修練の一つでしかないので門番としての役目は十分に果たしているのだけは言える。
「昼前あたりに戻ります。」
咲夜は沈黙にも似た緊張感を与えながら門番にそれだけを伝えていた。まだ怒っているようなそうでもないような感じはするがきっと原因は青年にあるので門番はとばっちりを食らったわけである。
「今日は無理そうだ。」
青年は言った。まるで自分に非がないように話すがそれでこそと言うわけで誰も何も言わない。急に謝り出すとそれは青年ではない。
「行きましょうか。」
咲夜は手早く済ませようとしていた。時間を止められる咲夜にとって誰かと行く買い出しというものは無駄な時間となる。だが、こう誰かを誘う時は何か聞きたい事がある時なので青年は内心不思議には感じている。兎に角空へと飛び立つ咲夜に続く様に剣の柄に触れて付いていく青年の背中を見ていた門番は姿が見えなくなってから型の練習を始めた。毎日怠らないもので日々の習慣となっているものなので誰も邪魔はできない。
「して今日は買うものはあるのか。」
青年は紅魔館から飛び立った空を滑空している途中でふと咲夜に聞いていた。青年も知らないというわけではないのでそう聞きたくなる理由も分からなくもないが実際のところはまだ分からない。ただ重たい物を持ち運ぶために手伝って欲しいのか。手に持てないほど買うので一度に済ませたいだけなのか。それともまた別の理由になるのか。
「ええ、保存食品を作ろうと思っているわ。」
咲夜はそれだけ答えていた。青年は手を付けないのであまり興味はなかったが確かにその様なものはあった気はすると青年は思っていた。言うならば保存が効く食品や保存しやすい状態にしようとしているだけなので手伝える事もあるのかもしれない。
「この後で手伝えとは言わないだろう。」
「そうしてくれると助かるけど本人の意思に任せるわ。」
「そうか。」
青年はそれだけ答えていた。それから口角を上げて何か考えていた。別にキッチンに立てないわけでもないのでそこそこ咲夜の手伝いもできないわけでもない。それだけは言っておく。
「もうそろそろ人里だから高度を下げるわよ。」
「そうか。」
青年はそれだけ答えた。
いつも通りの光景が広がっている。車が通り、人の会話は聞こえて特に何か起こっているということではなかった。そして人々が楽しそうにしていてそれ相応の賑わいを見せていた。
「どうにも慣れん。」
「静かな所が好きなのね。」
「知っているだろう。」
「ええ。」
仕返しとばかりにそう言う咲夜に何も言えなかった青年は恥ずかしくなったのか先に進む様に促して自分から足を踏み入れた。買い出しに来た二人が訪れたのは人里の西側。基本的に人が集まるのは中心になるので此処からまた歩く事になる。なぜ飛んでいかないのかは妖怪に間違えられないためと答えるのが一番ふさわしい。もし間違えられると後々面倒になる事は言うまでもない。
二人は上手く人の隙間を通り過ぎていく。咲夜は時間を操り、青年は慣れた感じで最適な場所を見つけていた。青年もそろそろ人里に何があるのかは何と無く把握していた。だがそれは咲夜の方が長けているので青年は付いていくだけである。
「何か嫌な気配がするわね。」
咲夜はそれだけ小声で伝えていた。何があるのかは別として青年は感じ取れなかったがそうらしいので辺りを警戒してみることにした青年は何処にあるのかを把握しておいた。こう言う時はここでの経験が長い咲夜に任せたほうがいい。
「そうか。引き続き警戒を忘れないでくれ。」
「そうね。でも転々としたものだから何も関係ないかもしれないわ。」
「そうか。気をつける事に意味はある。感謝する。」
「言われるまでもないわ。お嬢様を守るためには必要な事なのよ。」
咲夜は少しそっぽを向いている様に感じる。単純に買いたい物を探しているだけ思うがタイミングが悪かったとしか言いようがなかった。咲夜は急に左側へと向かうと八百屋で野菜を買おうとしていた。青年はその会話の中には入ることはなく咲夜に背中を向ける様にして辺りを警戒していた。先程からこう胸が熱くなると言うのか何かを感じるのは確かなので気になると言うのが率直な感想というものだ。青年は剣の柄に触れているとそう感じる。何か戦闘本能と言うのかそう言うのが目覚めさせられる様な気がする。
「一通り終わったわよ。何よ、その顔は。」
「すまない。して一回自分のナイフに触れてみて欲しい。」
青年は咲夜が八百屋で買っていた野菜を持ってあげると咲夜にする様に促した。包み紙の中には咲夜が選んだのであろう野菜が入っていて夏の物が入っている。時期としては早いがきっと早めに作れる様にしているだけなのだろう。それとも保存が効く様にしているので熟していないものを求めただけなのか。
「何か変な気はしないわね。」
咲夜はそれだけを青年に伝える。別にして欲しいわけではなかったが特に変わった事がないのなら青年の思い違いなのかもしれない。取り敢えず青年は剣に触れた時の違和感のことを一言だけ伝えてから更に奥へと進んだ。
中に行くほどに人の量というのは多くなっていく。繁華街と言うわけではないが居住区としては似合わない感じになっているのだけは目に見えてよく分かる。青年は静かな方が好きなので余計にそう感じるだけなのかもしれない。
「何というか胸が熱くなる感覚がよくわかるわ。」
咲夜は急に口を開いたかと思うとそれを青年に伝えていた。そして珍しく慌てている雰囲気のある咲夜に青年はそうか、と簡素に答えた。驚いて逆に反応が鈍くなったと言うのが青年としては条件反射なだけなのかも知れない。
「でも何か気になるわね。人里の中心でその様な事が起こるなんて。何か異変が起こっているのかしら。」
「分からない。一つ言えるなら何か嫌な予感はする。」
永琳もその様な節のことは話していた。それだけで断言するも流石に変だがそれだけの信用があるのは確か。この事なら早く止めるべきだ。
「原因は何かしら。」
「分かっている事は武器に触れている時にそう感じる。第三者が武器に何か力を送っているか。それとも戦闘を起こさせて内乱でも起こそうとしているのか。」
「分からないから動けないと言いたいのね。」
「そうだ。人に聞いてみるのが一番いいかもしれない。」
「探すの。巫女に任せた方が良いと思うわよ。」
「そうか、言いたいが彼処で道具を持って何かしている人が見つけた。行こう。」
「はいはい、分かりました。」
咲夜の呆れたその声が青年の耳には入る様なことはなかった。それだけ集中しているのかそれとも興味がそそられるので解消しようとしているだけなのか。何があったのかは知らないが青年は至って普通な気もする。咲夜はその後ろに続いていく事にした。
「兄さん、何をしている。」
「ん?いや、何。こうしているととても気持ちいいんだ。」
その人は緑色の着物を着ていて髪型は青年にも似ている様な少々ボサついた感じがある。そして両手に何か棒のような物を持っていてしっかりと握っていると思われる。
「どの様な感覚になるんだ。」
青年は足を畳んで座っているその人に目線を合わせる様にしていた。
「力がみなぎってくると言うのか、よく分からないんだ。」
「そうか。気を煩わせてしまってすまなかった。」
青年はそこから立ち上がると後ろにいた昨夜と一緒に買出しの続きをしに言った。その人は単純に考えれば精神の病んでいる人であるのは確か。そしてこれが人里の中心で起こっている。青年はその事を考えていた。
「咲夜、もしかするとこれはこれまでより大きな異変になるかも知れない。」
「どうしてそんな事が言えるのよ。」
「簡単な話、先ほどの様な人が人里で起こったらどうなる。俺は予想は闘争が起き始める。あれは段々と広がるだろう。そうすれば幻想郷の機能は大きく損なわれる。向こうの思い通りになるだけだ。」
「その根拠は何かあるの。」
「言うまでもない。自分の胸に聞くことだ。」
青年は単純にそれだけを伝えていた。だが、今は動く事が出来ないので何ともならないわけである。
「そう言う事なのね。」
咲夜は青年の言葉に賛同だけはしていた。確かに言う通りなので何も反論出来る様なことはない。
「して買い出しの続きをしようか。日が暮れてしまう。」
「そうね。」
思うところはある。だが動けないのでは何も出来ない。それは例え巫女であろうとその上で管理しているものであろうと。言うまでもないが青年でも。