調を整えてから山を下る二人。
土によって汚れてしまった白い服を着ている青年とその後ろを同じく白のモコモコとした衣服に黒色のスカートを合わせた椛。その二人はお互いの歩調は違えど自然とあっているようにも見える。実際は椛が合わせているだけで青年の足取りが遅いだけである。
「あともう少しですね。」
椛は暇を持て余しているのかそんな事を言っていた。青年は体全体は動かさずに首だけを何となく傾けて椛の言葉を聞いていた。
「歩くのが遅くてすまないな。」
「いえ、その事は気にしていません。」
「そうか。」
青年は仕方がなくそう言うことにしておいた。そうしないと前へと進まないだけなのだがきっと何か考えがあるようにも思える。それとも先程の戦闘での疲労があって気力がだいぶ削がれているのか。
「それにしても大分強くなっていませんでしたか。」
椛は後ろから山道を下る時間を潰す為だけ、それだけの為にその札を使っていた。青年はなんとなく怠そうにしているがそれで良いのだと思われる。
「そうか。俺は気付かなかった。」
青年は適当に答える。照れ隠しなのかどうかはいざ知らず何かを含んでいるかのような腑に落ちない言い方をしていた。まるで太陽と月のような関係である。少しだけ漏れていていた。
「心当たりはあるのでしょう。分かりますよ。」
「千里眼で見ていたのか。」
青年は冗談半分にそう言う。妖怪の山の哨戒の為の白狼天狗は外部の人が入ってきた時に現れるのだがその点では一番優秀なので一人の為には使う訳ではない。
「見れる訳がありませんよ。幻想郷中が見れる訳ではありません。」
椛は少々怒っているような口調で話していた。何かそんな事を話したの分かっていないように素っ頓狂な表情をする青年だが誤魔化せなかった。
「そうか。そうでないと困る。」
青年はそれだけを言って右側へと体を反転させていた。
その場所では大きく開けている場所ではなかったが川の近くで黒の石が所々混ざっているような場所に出てきた。左手には白い四角いブロックで作られたドーム状の建物が見える。建物からは煙が出ているので何か制作活動でもしていると思って青年は川の近くまで歩いてからその場にペタンと座り込む。非常に疲れているようで大きなため息が出ていた。
「まだ鳩尾が痛い。」
一瞬だけ息が止まったような感覚が残っている青年は左手で椛の剣が当たったところをさすっていた。椛はそんな青年の右端に座り込んでいた。
「四天王と渡り合うだけの力は持ち合わせているでしょう。」
椛は自慢気に言っていた。確かに自慢しても恥ずかしくはない事であるが一々言わなくてもいいと青年は思っていた。だが、言っていることに反論ができる訳ではないので何となく如何しようか迷っていた。
「返す言葉はない。」
「ですが、それと対等なので少しは自分の力に自惚れようとは思いませんか。」
「甘言でそそのかせても無駄だ。俺はそのような事に興味はない。」
「そうでしたね。」
椛は呟くだけでその声は川の流れる音に隠れてしまった。微かに聞こえたその音に耳を澄ませながら二人はその時間を過ごす事にした。そこに邪魔する様なものはない。木の葉の揺れる声と川のせせらぎだけで対面には木が生えていてその間に川があって体では地面にある石のゴツゴツとした感触を感じているだけだった。本当に何もないがそれだからこそ青年の心が落ち着くと言うものであった。
「お隣よろしいですか。」
青年は目線だけを左へと向けるとその場には緑色の髪をしている前の方で一本に結んでいる髪型が特徴的な女性がいた。鍵山 雛という厄神様だが青年にはあまり意味をなさないらしく向こうからよく近づいてくる。青年は気にしていないのだが今日は余計に気にしている余裕はなかった。
「好きにしろ。」
青年はそれだけを怠そうに答えていた。雛はそれを不審に感じて横を見てみると椛が居たのでそこで何となく察したのだと思われる。
「失礼します。」
「やはり、にとりは作業の途中か。」
青年は何となく聞いていた。特に挨拶などはなく点々と続く会話をしている。
「そうですね。何か地下の方で作り忘れたものがあると前々から言っていましたがそれを作っているんでしょうね。」
雛はそう答えていた。大分難航しているらしいと青年は感じたが話す気にもなれないのでここでは黙っていることにした。
「そうか。にとりも大変そうだな。」
「その様です。私は一切手伝えることはありませんので何も口出しは出来ませんが。」
雛は悲観的な小さな声で話していた。それだけに疲れ切っていた青年も何となく感じ取っていたことはあるのだと思う。
「少しも手伝えない訳ではないだろう。」
青年は左腕で頬杖をつきながら適当な場所を見ているだけだった。雛はそれで何か悟ったのか何となく話してみることにしていた。
「それはそうなんですけど。職人というのは自分の領域に誰かを入れようとはしないんです。それが例え私でも。」
前に聞いた事のある話だと青年は感じていた。香霖の工房というのは基本的にその様になっている。だからこそ青年は理解できないということはなかった。それに自分も同じ様なところがないという訳でもないので強く言い争うことはできない。
「にとりとは仲が良いのにか。分からんでもない。」
「如何してなんですか。」
雛は悲しそうに聞いていた。元々小さい声が余計に小さくなっていた。
「確かに雛の言う通りかもしれない。それともう一つ友だから危険な目に合わせたくのかもしれない。」
青年は香霖堂の裏側へと足を踏み入れた時のことを思い出していた。金属物を加工する時は高温の中で作業をすることになる。要は精神をすり減らしながら作り上げているので他の人に気を付けている事が出来ないと思っている。それにそれだけではないのは色々と知っている。
「そういうものなんですか。」
「本人に聞いてみろ。俺は興味ないから聞く気はないから自分で聞け。」
「分かりました。」
雛は満足した様にしている。そして青年の左肩に身を委ねる雛は安らかな表情をしていた。青年は赤いリボンをついている場所を避けて頭を何回か撫でることにした。雛は嬉しそうに目を閉じているのでそれで良いのだろう。
「椛もしてみるか。」
青年は冗談半分に聞いていた。
「遠慮します。まだ職務の途中ですよ。」
椛は青年の提案を否定している。仕方がないと割り切る事にした青年は何となくその場で楽しそうにしていた雛が本当に満足するまでまだここに居るつもりだった。
「椛、この妖怪の山の裏側には何がある。」
青年は何となく聞いていた。
「中有の道があるけど行くのは辞めたほうがいい。」
椛は忠告をしているが一応という事である。言ったところで聞く人ではないことはよく分かっているので何もいう様なことはしない。椛ももう分かっているので一応でしかない。
「そうか。其処には食事を取ることはできるだろうか。」
「それは分からないわ。毎日変わっている。」
椛は諦めたように呆れているようだった。青年は全く気にするようなことはないがその椛の言葉には興味をそそられるらしく少し頭を使って考えていた。椛がお勧めしない理由を聞くのも悪くはないと思うが敢えて聞かないことにしたらしい。
「行く事にしよう。して椛、もう職務には戻るのか。」
青年は何となく聞いていた。
「いえ、少し休息する場所をください。」
変に真剣な顔をしていた。そして青年の方に倒れこむと顔は青年の方を向かせなかった。青年は余計に動けないので諦めたらしく景色に溶け込む事にした。