青年放浪記   作:mZu

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第250話

誰もいないと思っていた。

 

青い服装でポケットのたくさん付いた格好で長靴のようなものとダボッとしたズボンを履いていた。丈は短めだがそれを隠すように長靴を履いている。そしてかきあげた黒い髪を抑えるように服と同じ色の帽子を被って後ろから一本の結んだ髪を見せていた。

 

だが、どうやら違うらしい。

 

そう思えたのは一つ上に上がった階層で武士のような格好をしたものに会ったからという事である。見た目は甲冑を着ているだけで顔を大きくは露出していない仮面を被り太刀を構えていたその人達。異変を起こした首謀者ということではないがその人によって作られたものである事は見ていれば分かる。

 

「何者だ。」

青年は聞いていた。だが、返事があるわけでもなく沈黙という形でその状況は流された。

 

「刀は抜いている。来たい人は遠慮なく来い。」

青年は素早く剣を抜くと切っ先を下に向けているだけで構えているのかどうか一見分からないような格好をしている。帽子から覗かせるその目からは確かな眼光があり戦闘意欲はあるのだと思われる。

 

相手は何も話さなかった。青年を囲むように扇型に広がった三人はそれぞれ間合いを均等に開けながら向かって来ようとしていた。つまるところ誰かを斬りに行けば誰かに斬られるようになっている。

 

青年はその人の足元を見ていた。それは相手にしてみれば隙を作っているようで滑稽にも見えたのかもしれない。だからこそ青年の方へ迫ってきたのかもしれない。

 

それが必ずしも成功するとも限らない。

 

青年と面を向かっていたその人はその場で止まっていた。両側の同志が急に倒れて足を抱えて蹲っていた。何が起こったのかは分からないが兎に角この現状を作り上げたのは言うまでもなく目の前の一人の男であり少しだけ馬鹿にしているような笑いをしているようにも見えた。それがどうにも許せなかったのか猪突猛進の勢いであるが青年は軽々しく受け止めていた。片手で鍔迫り合いをする青年に両手で必死に堪えていた武士は一旦間合いを空けるために背後へと飛び退いた。

 

だが、それが命取りとなっていた。足をつけるはずの畳に嫌われたように自分の飛んだ勢いで後ろへと倒れ込んでしまった武士はその足を見ていた。ちょっとしたピリピリとした痛みがあるのだが何があるのだろうと見てみれば一本の黒色をした針があった。

 

「もう分かっているだろうが勝てない。諦める事だ。」

青年はそれだけを言うと右肩に剣を乗せていた。そして各々に刺さっていた針を抜いていくとそのまま階段をゆっくりと登り始めていた。

 

どうやら此処からは通常通りの作りをしているらしい。青年はそんなことを思いながら三人の横たわっている姿を横目に上へと登る。

 

緑色の畳によって一面広げられているのが少し気になるが先ほどの部屋よりかは大きい方だと思われる。青年はゆっくりと歩いていたところ上から降ってくるように黒装飾の人が二人現れた。青年と同じような匂いがする。

 

「此処もまた何か居るようだ。」

青年は剣を鞘の中に納めてからその人に言葉をかける。だが特に反応がないので青年は仕方がなくその場で立ち止まる事にした。本当にどうしたら良いのか分かったものではない。言葉を交わすわけでもなければ何か行動を起こすという事もしない。何もしなければこちらも何も出来るはずはなかった。

 

「素早く終わらせよう。」

青年は付け加える形で言った。何も反応がないのでもうやるしかないのだろう。

 

一人が青年に寄ってきていた。その足は早くて何か持っているようだったが何もしないのも危ないので青年は小刀を抜くための準備をしておく事にした。

 

その人は飛び上がる。青年の間合いの寸前だったので上から何かをするのだろうと思ったが青年はその足を掴んで強引に下ろした。

 

「仲間を痛みつけたという事実にはどう受け止める。」

青年は聞いていた。案の定答えるような事はなかった。口がないかのようで何も話さないのだが青年は何か確信を持ったらしい。

 

「元々は道具だったのか。」

その言葉に反応を見せたのは味方に苦無を投げていた人の方だった。今青年の目の前で倒れ込んでいる人は時期に絶命するだろう。それ程の傷を正確に負わせていた。青年はとどめを刺したというのは言ってはならない。

 

「そうさ。俺たちは使われない道具だった。寂しかったよ。」

 

「そうか。それは気の毒だった。」

 

「だが、小槌の力で呼び覚まされたこの力で必ず弱者が安心して暮らせる世界を作り上げる。姫のやる事に間違いはない。」

 

「弱かった道具が反逆を起こしたところでどうする。使うのは人間だ。持ち主のなくなった道具の果てはきっと何もないだろう。」

 

「そのはずはない。俺はここに自我を持っている。その事実が真実だ。」

 

「道具だから弱いということもない。使い方、使う人によっては思いもよらないことを起こす。それに生が与えられたのは誰だと思う。それを考えついた人間だ。それでも歯向かうというのか。いや、自分を否定するというのか。」

 

「だが姫のように虐げられてきたのは事実。姫の悲しみが分かるだろう。」

 

「いや、何故状況を変えようと奮起しない。何か一つぐらいはあるはずだ。」

 

「そんなことが出来るような場合ではなかった。」

 

「なら問おう。俺は今から貴方を壊す。それでお前の人生は満足か。」

 

「満足だ。壊される事はないだろう。」

 

「その慢心。死に値する。」

 

青年は左腕をしならせて何かを投げていた。それはその人の胸元に当たり爆発した。避けることも出来なくて何も防ぎようのなかった爆発にその人は破壊された。青年はその人の元へと近づくと投げていた針を取ってからもう一つの上の階へと向かおうとしていた。

 

「冷たく言えば人に仕えているものは道具でしかない。一人孤独に生きている方が自我がある。」

 

青年はそう呟いてからまた一つ上の階へと向かっていた。何も変わらないのか思っていたがどうやらそうはならないらしい。

 

「一人だけの出迎えとは寂しくなったものだ。」

大きくなった広間で一人だけ立っていた。黒色の髪に赤と白のメッシュを入れた髪型で小さな角が二つ出ていた。人間ではない事がよく分かる。胸元には逆さまの青いリボンが付いていてスカートには矢印を重ねたようなデザインをしていて下駄を履いている。

 

「人間が来ていい場所ではない。立ち去れ。」

 

「なら一つ話を聞いてくれないか。」

 

「それは良いが。その腰に携えている剣には自我があるのか。代償が大きかったか。」

 

「この異変を起こしたのは貴方で間違いないのだろうな。」

 

「そうだ、間違いない。」

 

「何が目的だ。」

 

「なら力は欲しくないか。」

 

「自我がある剣が求めるのなら俺が持っていこう。」

 

「それなら私の仲間にならないか。反逆者として幻想郷の勢力図を塗り変えよう。」

 

「貴方の道具になるつもりはないと答えておく。今は十分に均衡が保たれていた。」

 

「そうか、残念だな。弱い者がどれだけ虐げられてきたのかは想像出来ないのか。ならば、全てがひっくり返るこの城で屈辱を味わうといい。」

 

「何を持って弱い者とする。」

 

「それは聞くまでもないだろう。」

 

「人間は妖怪に虐げられていた。人間は封印することが限界だが妖怪は人間を軽々しく殺す。それで妖怪の一種が何を言う。」

 

「何だよ。私は妖怪だが私が始めた事ではない。この上にいる姫さまが始めた事なんだ。」

 

「同志であるなら皆平等だ。責任転嫁は見ていて醜い。」

 

「小人族は人間からも虐げられていた。それを私は助けた。その行いの何が悪い。」

 

「残念だが善悪の判断はしていない。助ける事は何も言わないが反逆を起こした事で多くの人が乱れてしまった。その責任は貴方と上にいる姫に問うべきか。」

 

「うるさい。私に反逆するのなら屈辱を味わうといい。」

 

「そうか。少しぐらいは付き合ってもいいだろう。」

青年は剣を抜くとその人へと切っ先を向けていた。そして何をするのかと思えばそのままの姿勢でそのまま間合いを詰めていた。

 

「人間なら私と同じ仲間だろう。」

その人はそんな事を言っていた。だが青年にはそんな事は関係なかった。青年にも確かに弱い。多くの種族がある幻想郷に生き抜くためにアリスやパチュリーの元で魔法を学んだ。それは後付けの理由ではあるが今ではそうならざるを得なかった。

 

「弱い者としてその立場に甘んじた。本物は救うに値しない。」

 

「何でそんなことが言える。」

 

「元々強い種族は何もしなくてもいい。弱いと認めた者はそれ相応の努力をする。ならば貴方はどうだ。」

 

「もう良い。お前には此処で終わらせてやるよ。」

 

「そうか。」

青年はそれだけで答えた。その人の覚悟というものをどうであれ認めるつもりらしいがどうにも認めがたいのは言うまでもない。

 

その人は一気に間合いを詰めようとしていた。しかし微妙に違う。

 

「私達の嘆きを知れ。」

 

「図々しい。その言葉に限る。」

青年は何も動くような事はしなかった。それに青年は特に構えてもいなかった。もう相手など見えていないようで何をしているのかとさえ分からない。

 

その人は何も知らなかった。青年というのが。

 

「知るかよ。」

その人は殴りかかっていた。

 

「その程度か。」

青年はその拳を押し返して仰け反らせた。その人は平衡感覚を失って足を迷わせて後ろへと下がっていた。

 

青年は剣を持っていたが空いていた左腕でそれを行なった。これは美鈴に習った武術だ。相手の動きを止めるようなものであそこから後ろに流したりそこから追撃を加えるようなものもある。

 

「もう良い。私は小槌がある限り強くなれる。さらばだ。」

その人は踵を返して上の階へと向かっていた。青年はその後を付いていく。

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