「どうしよう、侵入してきた人間が私たちの計画を止めている。小槌の力を貸して欲しい。」
黒髪の髪型に一箇所だけ前頭部に赤いメッシュがあり全体的に白のメッシュが付いている二本の角を持っている妖怪で胸元には逆さまに付けられた青いリボンが特徴的である。白や赤の矢印を重ねたようなスカートの模様をしていて右手には何らかのブレスレットをしていた。
「分かったよ。協力して倒そう。」
お椀を被っていて薄紫色の短めの髪をしているその腰ほどの大きさの少女は赤い和服を着ていて左手に魔法陣の付いている小槌を用いて右手にはまち針のような武器を所持していた。実は小槌の力で少しだけ大きくなっているのだがそれでも急いで駆け上がってきた人の腰程度しかない。
「有難うございます、姫。それでは素早く済ませてください。もうそこまで迫っています。」
急いで駆け上がってきた人は息を切らしながら緊迫感をダダ漏れにして姫へと迫っていた。圧迫感に姫は思わず魔力の篭っている小槌を道具に対して振る。布やカメラ、人形や地蔵に至るまで使えそうなものに対して姫は魔力を使って何とか助けようとしていた。同志としてここまで寄り添ってきた人が助けて欲しいと言われたからと言う事もあるのだろう。だが自分の願いを叶えるためにも戦うその一心だった。少しずつ形を変えて生まれ変わっていく道具達を助けを求めた人は身につけていく。
「まだまだたくさん必要だね。」
布を被り肌を見せないようにしながら人形や小さくした地蔵を懐の中へと入れていく。そしてカメラを首から吊り下げていた時には襖が大きな音を立てて開けられていた。その音に驚いた二人だったが姫はすぐに冷静を取り戻して小槌を渡していた。その人は前を閉めていた。
「これを使って殴り勝ってきて。きっと役に立つから。」
「はい、姫。この程度の敵も倒せずに反逆者は名乗れませんよ。」
「頑張って。私は全力で応援する。」
その声に完全に武装していた人は一礼して襖を開けてきた人へと向き合っていた。確実に倒せると言う自信に満ち溢れたその表情を垣間見た姫は確かな確信へと変わっていた。
「ここでお前を倒す。姫と同じ志を持たない者はここで排除する。」
その人は強く口調でその人に対して警戒していた。それこそ何があったのかと聞きたくなるようなほどで野獣のような咆哮を見せていた。
「それは好きにすると良い。俺は俺の意志を貫く。」
黒髪を青い帽子から見せている肩や胸元、ズボンに対する所まで多くのポケットがある服装をしていて鋭い目つきという事ではないがただ真っ直ぐな潰れた目をしているわけでもない。確かな意志を貫こうとしているその人にはきっと何を伝えたとしても無意味である事を示していた。言わば変わることのない敵であり二人にとっては邪魔者でしかない。
「正邪、早く倒してよね。これからなんでしょう。」
「あれが姫なのか。応援されているようだな。」
「そうだよ。お前とは違って私には仲間が居る。お前は一人でこの私を倒す事はできないだろうさ。」
「やってみるとしよう。だが、先に言っておく。俺を倒せたところでその上は存在する。その事だけは忘れるな。」
「私にはそんな事は関係ない。姫を虐げられるのが見ていられないだけだ。」
「なら、来い。俺が壁として立ちはだかる、越えろ。」
「行くぞ。」
正邪は姫の応援を受けて奮起して邪魔者である青年へと走り寄ってくる。右手には金色に鈍く光る小槌を持って振り被っていた。青年は何の気もなしに軽々しく避けると左脚の膝を当てて反撃するがそれは何らかの力によって跳ね返された。だが、青年もそれで諦めるような人ではなかった。その反動を利用して反転させると足裏で押し出すように脚を動かすがそれも跳ね返されるようなだった。青年は間合いを空けるためにその反動を利用して退いた。左脚を少しだけ浮かせていて右足だけで勢いを止めると左脚を前にして前傾になっていた。
「どうだ、これが小槌の魔力だ。今こそ勢力図を塗り替える時だ。」
「そうか。そうやって強者となって抜かした弱者にはどのような処分を与える。」
青年は聞いていた。別に今聞くような事でもなかった。だが、気になる事を聞かずにはいられないのでもう仕方がない事なのかもしれない。そういう性格だと言うのなら治せないものでもある。
「弱者を救済するに決まっているだろう。そして今まで強者として扱われていた奴に対して制裁を与えるんだよ。」
正邪はそうやって強い口調で答えていた。自分の野望というのをむき出しにして青年と対峙していた。青年もその事は感じているのだろうが人は人として聞く耳はある意味では持っていない。
「結局色しか変わらないだけか。またいずれ弱者へと成り下がった者が貴方のような先導者に導かれてここへとやって来るのだろう。貴方が今まで下として見ていた道具や姫であったり、人間とか。そしてそれに協力する貴方に敗北を期した者がやって来る。結局何がしたい。」
「何言っている。私は弱者が卑下されない世界を作り上げるのが目的なんだ。そうなれば楽園だろう。」
「違う。」
「どう違うんだよ。」
「貴方のやり方は違う。」
「はっきりと話せよ。」
「確かに弱いから虐げられてきたから反逆を起こしたそしてひっくり返した勢力図をひっくり返す誰かが居る。争いによって弱者が無慈悲に殺される世界を作りたいのか。」
「そんな事にはならない。そんな世界は作らせない。」
「ならば辞めてしまえ。現にもう起きている。大人しく投降する事だ。」
「やだね。姫、もっと道具を作ってくれ。私が時間を稼ぐ。」
「うん。」
姫と呼ばれた人は大人しくそこら辺にあったものを触媒に道具を作成している。提灯や傘や玉を拾い上げて小槌の魔力によって道具として進化させていた。
「私達、弱者の強者に対する恨みを見せてやるよ。」
正邪は青年に向かって再度振りかぶっていた。そもそも小槌なので間合いというのも狭いものだが青年は避けるだけで反撃をするようなことはなかった。先ほどの二回の蹴りを全て弾かれているようなので多分今来ているマントを剥がす必要がある。青年はその方法を模索しながら当たりそうにもない小槌を避けていた。徐々に迫って来るのはじかんよもんだいだと思う。そしてマントの中に何を仕込んでいるのかはまだわかっていない。青年は慎重に改善方法を考えていた。
青年は何となく小槌の攻撃を受けてみる事にした。何が起こるのかはわかったものではないが兎に角空から地面に落ちている事を考えてみる事にした。深い集中によって研ぎ澄まされている感覚を頼りに一気に作り上げた。そして剣を振って小槌に当てる。
鞘から射出された剣と正邪の振るう黄金色の小槌はぶつかり合い青年の剣は弾かれた。こっちも多少は弾かれたが青年が体勢を崩すような者でもなかった。まともに受けたら駄目。そして何か対抗策があるのかといわれるとまだ見当たらない。早くしないと新たな道具を作られるので内心では荒ぶっていた。そこで青年は穏やかな朝の霧の湖を念じていた。想像の中で流れていく風の音や水の擦れ合うパシャパシャとした音に耳を澄ませていた。慣れた光景と波動で青年を目を覚ます。
「どうだ、私達の嘆きを知れたか。」
正邪は吹き飛ばされている青年を見ながら勝てると思ったのかそんな事を言っている。青年はこの状況で笑みをこぼしていて見るからに怪しかった。
「理解出来ない。偽りの力を持とうとも所詮は元が弱ければ意味はない。付け焼き刃が通じると思うな。」
青年はとても冷静だった。冷水を浴びたかのようでフラフラとしたまま立ち上がり表情に変化はなかった。小槌を止めれば吹き飛ばされて自分が当てようものなら弾かれてしまう。その絶望を目の前にして青年は不気味なほどに笑っていた。気狂い、その言葉が一番似合う。
「これぐらいの力で勝てるなら何でもいい。」
正邪としても何も目的もなくしているということでもないと思われる。きっと何かあるのだと思う。青年もそれは感じているが自分の欲望のためにここまで幻想郷を貶めているのか単純に姫を助けたいから起こしただけなのか。青年は正確には分かっていなかった。ある意味では知る意味もなかった。
正邪はフラついている青年を見ていて好機であるとは思っていた。
もちろん言うまでもないが飛び込んで盛大な一撃をみ見舞おうとしていた。それは見ていれば分かる。そうしたいと思う。
だが、その余裕という名の慢心が正邪を確実に苦しめる事になる。
右脚を出して青年に小槌を当てようとする正邪の足元を掬い取る青年の左脚。
正邪は体勢を思いきり崩してその場に転ばされていた。振っていた小槌は青年を目掛けて飛んでいたがなんの気もなしにさらっと避けられた。
青年は黙ってその場に立っているだけで正邪に追撃を加えようとはしなかった。逆に出来なかった。原理は分からないが弾かれるマントを何とかしなければ多分威力も衝撃も魔力も弾かれる。それだけは青年でも分かっていた。
「足元は効果は及んでいない。それだけでも新しい発見だ。」
何故か楽しそうにしている青年を見ていて腹が立ったのか正邪は嫌らしく笑っていた。悪魔のようだが鬼のような力も持っていた。青年は子供のように純粋に楽しそうにしているだけだった。